第二章【ゴグ・マゴグ】
第五話『天使の梯子』
セフィロト化して巨大クモ型機神を見ていた那美は茫然とした状態で、自分の手を見る。
西洋甲冑のような金属的な手……呟く那美。
「ナニこれ? あたしどうなっちゃったの?」
那美は目前にいる、クモ型機神に短い悲鳴を発する。
「ひっ!?」
水クモの機神は口の鋏角〔きょうかく〕を不気味に蠢かせながら、後部から発射した金属のクモ糸で那美を攻撃する。
「きゃあっ!?」
咄嗟に両腕を顔の前で交錯させて、クモ糸の攻撃を防御するセフィロト・ムリエル。
金属のクモ糸は山肌をえぐる。
攻撃を防いだ那美は、驚いた顔で甲冑のような両腕を見た。
「痛くない!?」
那美が困惑をしていると胸の奥からミコトの声が聞こえてきた。
《いったい、どうなっているの? ここどこ?》
「ミコト? ミコトなの? どこにいるの?」
《わかんないよ、でもすごく近くに那美の存在を感じる……あっ、なんか今、心臓の鼓動みたいなのが聞こえた》
巨大化した那美は、自分の胸の辺りを押さえる。
「まさか、この中に……ミコトが」
ミコトがいるのは、細胞が壁のように周囲に並んだ空間だった。
ミコトが座っている軟質の半透明の座席には、血管や神経細胞のシナプスのようなモノが繋がっている。
(なんか、温かい……まるで母親の胎内にいるみたいな)
ミコトを包むクリアーな卵子球体が瞬時に形成される。
球体の表面を授精膜のような光が走って、球体の内側にグルグルキャンディをナメているイヴ・アイン・狩摩の姿が映し出された。
イヴが言った。
《ブースターの着床同化成功『魂核』の方も化生処置が成功して拒絶反応も起きていない、よほどオリジンセフィロトの素体と【知】【心】【技】【体】の相性が良かったようね……戦って目の前の敵を倒せ》
イヴの隣に那美が見ているクモ型機神の姿が映る。
少し強めの口調でミコトがイヴに向かって言う。
「いったいなんなんだよ! 説明してくれ!」
《ミコトは【知】【心】のサポート操者『ブースター』……那美は【心】【技】の『魂核』……ゼロ・オリジンセフィロトは【技】【体】の『素体』だ……この三つが一体化して『巨神生体機神セフィロト・ムリエル』は完成体になる。詳しい説明を聞きたかったら、御使いの機神を倒して生きて帰ってこい》
そう言い残してイヴの姿は消えた。
「ちょっと、まだ話しは終わっていない! 機神ってなんだよ! どうして戦わなくちゃいけないんだよ!」
憤りを感じているミコトの耳に那美の声が聞こえてきた。
《ゴチャゴチャ言っていないで、この状況をなんとかするコトを考えろ! あたしの体の中にミコトが入っているなんて、すっごく気持ち悪いんだからね》
腕を交錯させて防御している那美は、一方的にクモ機神の攻撃を受け続けながら那美が言った。
「なにがなんだか、さっぱり分からないけれど。戦って生きて帰ってこいって言うなら、やってやろうじゃないの、あのペロペロキャンディー女に文句言ってやる!」
《那美……戦うってどうやって》
「それを考えるのが、ミコトの役目でしょう……ロボットの操縦席に座っているなら、操縦マニュアルみたいなのそこにないの?」
《マニュアルは無いけれど……なんとなく、操作みたいなのは分かる。知識が頭の中に入ってくる、えーと》
ミコトが指を動かすと、仮想パネルが出現した。透けて見えるパネルを操作すると、セフィロト・ムリエルを赤外線撮影したような画像が現れ、両腕の辺りが赤くなっていた。
「このまま、攻撃を受け続けると腕のダメージが大きくなる……攻撃方法は」
【略取】の文字が現れた、蒼白になるミコト。
「略取って何? なにをどうすればいいの?」
《剣とか銃とかミサイルとかロボットっぽい攻撃方法は! セフィロトってロボットなんでしょ》
「出てこないよ」
《使えない体!》
クモ型機神がセフィロト・ムリエルに向かって炎を吐く。
「きゃあぁぁ!」
両腕を交錯させて防御している那美には、炎の熱さを感じなかった。
「このぉっ! いい加減しろ! 化け物クモ!」
クモ型機神に拳で攻撃する那美。那美のパンチを受けてクモ機神がバランスを崩したところに、すかさず那美はクレーンのような脚を掴むと、山に向かって投げ飛ばす。
落下したクモ機神にマウントした那美は、拳でクモ機神の装甲を連打する。
「この、この、この!」
クモ機神の頭がグルッと那美の方を向いて炎を那美の顔に吹きつけた。
顔が炎に包まれても、那美は怯むコトなく組んだ両手をクモ機神を向かって振り下ろす。
「この、この、このぉ!」
那美の体の中にいるミコトの操縦席の前面に【炎・略取可能】の文字が現れた、ハッと何かに気づいたミコトが那美に言った。
「那美、略取だよ! セフィロトは敵の能力を奪って強くなっていくんだ! 炎を奪って!」
《なんか、よくわからないけれど。やってやろうじゃないの!》
那美はキャメルクラッチの形でクモ機神の頭部を掴むと、思いっきり引っ張った。
胴体から千切れた、頭部が光の粒子になって那美の両腕と髪に吸収される。
那美は全身に炎のパワーが満ちるのを感じる、髪が燃える炎の髪に変わり、那美の片腕にバーナーの噴出口のようなモノが生じた。
「これが、略取?」
クモ機神が那美を弾き飛ばして、体勢を整える。
「コイツ、首が無くても動く?」
突進してきたクモ機神に向かって、炎の拳をぶち込むセフィロト・ムリエル。
「このぉ!!」
装甲を貫通した拳のバーナーから炎が吹き出し、クモ機神が内部から焼かれて真っ赤になる。
絶叫する那美。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
半分溶鉱した状態で、クモ型機神は沈黙した。
活動停止した機神から拳を引き抜いた那美は、やや放心状態気味に膝座りをすると。
「やったぁ」と、呟き。
伏せるように巨神の那美は大地に倒れる。
光の遺伝子配列螺旋の昇天に包まれ、巨神の姿をその場から消滅させた。
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