第四話 ・第一章ラスト
研究所の通路を歩き回っていた那美とミコトは、建物の少し窪んだ場所に来た。
那美が、電子ロックのかかっているドアのノブをガチャガチャ動かす。
「閉まっている……自由見学もここまでか」
「那美、もうクラスのみんなのところにもどろうよ。別に那美が考えているような怪しい施設じゃないよココ」
「そうだね、これ以上見て回っても。何もなさそう……」
那美がそう言い終わる前に、ドアのロックがガチャと外れる音がした。
ノブを回すと、ドアが開き。地下へと続く階段と突き当たりのエレベーターが見えた。
那美がミコトの手を引いて階段を降りる。
「行くよ、ミコトこの先に何があるのか見てやる」
エレベーターには上階と地下の階が記されていた、那美は迷うことなく地下室のボタンを押す。
壁がスケルトンの、下降していくエレベーターの中で、ミコトは不安そうな表情で那美に言った。
「那美、やっぱりダメだよ……もどろうよ」
那美はミコトの言葉には答えない、まるで何かに引き寄せられているように無言でスケルトンのエレベーター壁を見詰めている。
いきなり、エレベーターの外が暗い地下から、明るい場所へと変わる。
そこに、全身に眼が無数にある白い巨人が立っていた──ぬっぺりとした顔の巨人の全身の目は幾何学的な線で繋がっている。
不気味な巨人の姿に悲鳴を発するミコト。
「うわぁぁ!?」
那美は無言で巨人を凝視している。やがてエレベーターが巨人の足元の地下階に到着すると、那美とミコトはエレベーターを降りて
巨人を見上げる。
那美の腕にしがみつくミコト。
「那美、なんなのコレ?」
この時、那美は目をパチパチさせると我に返ったような口調で呟く。
「あれ? ここどこ? 確かエレベーターに乗ったところまでは覚えているけれど……うわっ、眼がいっぱい!?」
いきなり、巨人を中心に円筒形の壁に無数の顔写真が広がる──それらは、すべて今までこの研究所に見学で訪れた生徒たちの顔写真だった。
その時、那美たちが乗ってきたエレベーターの方角から声が聞こえた。
「やっと見つけた、あなたたち、ココは部外者立ち入り禁止だよ」
振り向くと、イヴ・アイン・狩摩がそこに立っていた。
「どうやって入り込んだの? 扉はロックされていたはずだけど。
ドアの電子ロックを内部から外したのは、ネフィリム? 早くそこの非常階段から出て行って」
イヴの少々威圧的な口調に、ムッとした那美が反抗する。
「そっちこそ、高校生みたいだけど。こんな場所に入ってもいいわけ? ここはナニ? あの眼がいっぱいある巨人はナニ?」
ペロペロとキャンディーをナメるイヴ。
「答える必要は無い……知る必要もない、審判の日に間に合わなかったから……」
「何それ!?」
その時、白い巨人の全眼が閉じられ、全身が青白く発光した。
巨人の体からパイプオルガンのような重厚な旋律が響き、その音に合わせるように強弱をつけて発光する。
イヴ・アイン・狩摩は、驚いた顔で白い巨人──素体セフィロト〔ゼロ・オリジン〕を見上げ呟く。
「好き嫌いが激しくて誰も気に入らなかった子が、最後の日に『魂核』を選んだ……なんて気まぐれな子、でも『ブースター』が見つからなければ化生処置をしても……」
その時、緊急を知らせるアラート音と赤色灯が巨人の部屋で点滅する。
イヴが言った。
「ついに来た、審判日の『第一御使い』が」
イヴは那美とミコトに目を向ける。
「選ばれた『魂核』はどっち? とにかく安全な場所に避難しないと……一緒に来て、エレベーターは停止する危険があるから。階段で避難する。あたしはこの施設の職員だから……あなたたち二人に、万が一のコトがあると人類の未来が消える」
ワケもわからないまま、那美とミコトはイヴの誘導に従う。
研究所内に、アラートが発動された同時刻──『銀河線観測研究所』前の海に水柱を上げて水クモ型の巨大機神が出現した。
硫黄混じりの雨を降らしながら、長い脚を軋ませ。研究所に進行を開始した水クモ型機神。
大空を覇者機【エアリアル】に乗った、弁財天アテナ准佐が指揮する、アポクリファ機構の戦闘機隊【 紅蓮の覇者・ワルキューレ隊 】がクモ型機神に攻撃を開始する。
「研究所に近づけるな! 我らワルキューレ隊の空魂を見せてやる!」
海からは艦長のクーフー・ランスロット准佐が、ズムウォルト型追撃潜水艦【シーサペイント】で艦隊指揮を務める、潜水艦と戦艦の混合部隊【紺碧の追撃・ミッドガルト隊】の攻撃も開始された。
「機神に臆するな……海魂は我らにあり」
陸では円騎堂タケル准佐が搭乗する重機動陸母車両【ベヘモス】から次々と発進される、電磁レールガン砲戦車の機動車両部隊 【深緑の機動・フォンリル隊】の一斉砲撃がクモ型機神に集中していた。
「陸魂を見せてやれ、クモを上陸させるな!!」
空海陸の攻撃を受けても、水クモ型機神の進行速度は衰えない。
海上に露出した胴体部分への攻撃は、六角形をしたクモの巣型の光学シールドで防御され。
海中の脚はピラニア型の魚群機神が、機神魚の壁を作って防御している。
シーサーペイントの潜水艦内でランスロットが呟く。
「海中も鉄壁の守りか……厄介だな」
空では爆撃を続けるアテナが、歯がゆさに唇を噛み締める。
「あの変なシールドに妨害されて、本体に攻撃が届いていない……なんてヤツなの」
陸上のタケルは、クモ型機神が岸に近づくにつれて、少しずつ フォンリル隊を後退させる。
水クモの機神は口から炎を吐き、後部から出した強靭なクモの糸を操って、戦闘機や軍艦や戦車を次々と粉砕しながら研究所に近づいていた。
研究所内では那美とミコトを誘導するイヴが、インカムで所員に指示を出しながら研究所の通路足早に移動していた。
「見学生徒の地下シェルター誘導は終わった? そう、あたしたちもそちらに向かう」
通路の窓からは、海から近づいてくるクモ型機神が見える。
那美が、イヴに質問する。
「ナニあれ? いったい、あなた何者?」
「あれは『機神天國』の機神……何者って質問は役職? それとも名前?」
「名乗るのが先でしょう、あたしは『天津那美』こっちにいるのは、幼馴染みの『裾野命』」
「あたしは、イヴ・アイン・狩摩……ネフィリムに作られた人類へのメッセンジャー」
「作られたって? あなた、いったい?」
その時、那美の視界の片隅にクモ糸で切断された戦闘機の片翼が、回転しながらこちらに飛んでくるのが映った。
咄嗟の判断でミコトを突き飛ばす那美。
片翼は建物に衝突して、壁と天井が崩れる。
間一髪で直撃から逃れたイヴは、翼激突の衝撃で落下してきた天井の下敷きになっている那美の姿を見た。
突き飛ばされて助かったミコトが、頭から血を流して意識を失っている那美に駆け寄り叫ぶ。
「那美!! 那美!!」
粉塵の中、飛び散った壁片で脚が少しだけ傷ついたイヴがインカムで職員に連絡する。
「大至急、救護班をこちらに……研究所内に負傷者多数で手が回らない? 指令系統を地下の『アポクリファ機構』本部へ移行──地上の研究所は破棄する、救護班をできる限り早く。人類の未来がかかっている」
ミコトは必死に那美の上に乗っていた天井板をどける。頭部を強打した様子でミコトが呼びかけても返事がない。
やがて、ストレッチャーを押して救護班が到着した。
数名の救護班職員を残してストレッチャーに乗せられ、運ばれていく那美の後を追おうしていたミコトの腕をイヴはつかむと。
ミコトの顔を凝視してから、残っていた救護班の一人に言った。
「この男子生徒のブースター適性検査をして……今すぐ」
「えっ、でも……」
「簡易検査器の端末なら制度は多少劣るけれど、救護班は携帯しているはずでしょう……調べてみて」
イヴは思った。
(ブースターと魂核は一緒に行動している可能性が高い……一か八かの賭け、この男子生徒が魂核だったら……あの負傷した子がブースターであっても、肉体ダメージが高すぎて使えない。この子がブースターだったら……まだ希望がある)
救護班の一人がペン型の器具をミコトに近づけると、ブースター適正を伝える青いランプが点滅して電子音が響いた。
驚く救護隊員。
「こんな偶然が……ブースターです! それも強い生命力を秘めています」
指示をするイヴ。
「負傷した天津那美の肉体に『化生処置』を……ゼロ・オリジンの素体セフィロトは、最初に人間が手を貸さなければ化生覚醒できない」
イヴが放心状態のミコトに言った。
「『魂核』と『素体セフィロト』が化生覚醒するのと同時に、ブースターはセフィロトの体内に強制転送される……セフィロトの、いいえ那美の体内でサポート操縦して闘いなさい。それがブースターの宿命」
上陸した水クモ型の機神のクモ糸が、銀河線観測研究所の建物を粉砕して、炎が研究所を焼く──数十分後、瓦礫と化した研究所の残骸があった。
空を愛機、覇者機エアリアルで旋回するアテナが後悔口調で呟く。
「守れなかった……研究所を」
重機動陸母車両ベヘモスのタケルは、アポクリファ機構に向けて繋がらない通信を続けていた。
「誰か答えてくれ! 狩摩大佐は無事なのか!?」
追撃潜水艦シーサペイントのランスロットも、瓦礫と化した研究所を見て呟く。
「やはり、機神に対抗するにはセフィロトの力が……そのセフィロトは瓦礫の下に」
クモ型機神が咆哮した時───瓦礫の下からDNA遺伝子モデルのような光りの二重螺旋鎖が天に向かって伸び、瓦礫を弾き飛ばして。
巨人の女が姿を現した、目を閉じてうなだれ立っている、その顔は那美の顔で首から下は西洋甲冑のような外装で包まれていた。
空から見ていたアテナが言った。
「生体機神セフィロト……あれがセフィロトの完全体!? 魂核は誰?」
セフィロトと化生同化した天津那美──【セフィロト・ムリエル】が、ゆっくりと目を開けて、前方のクモ型機神を見た。
第一章【アポカリプティック・サウンド】おわり
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