10話:Truth (真実)

「わざわざ集まってくれて申し訳ない。さてと、君達をここに呼んだのは伝えたいことがあるからだ。」


路月は全員が黙り込むのを確認すると口を開いた。彼の一言によって場が一気に静かになる。


「確かアークゼノの正体とかだったよな。」


 詩音が腕を組みながら答えると路月は頷く。

改めてアークゼノについて考えてみるとどこかおかしな部分があった。

 外国には行ったことがないが言語が違うのは基礎教養で学んできている。別世界ならば風習はおろか言語までも違うのではないだろうか。

そうなるとこの人たちは同じ世界の同じ日本という国の人としか考えられなかった。


「“ゼノ”っていうくらいだから異世界から来たというのは分かる。どう考えてもゲームのようなファンタジーの世界から来たとは到底思えないが……。」


「詩音さん、異世界が全てファンタジーな世界だと思ってるの? 」


 すると詩音の発言に対して友絵が鋭い指摘を放つ。


「実際話が通じてる時点で友絵としてはアークゼノは平行世界から来た人だと思うな。」


 確かに言語も一緒で天魔と鉄秤が似ていたことも僕のドッペルゲンガーが現れるのも平行世界ならば全て理屈が通る。

しかしその理屈には明らかな欠陥があるのも嘘ではない。僕がそう言いかけた瞬間、癒月が口を開いた。


「平行世界は異世界と言わないわよ。それよりも路月くん、どんな手段でそんなことを知ったのかしら? 」


「そ、そう、遭遇したげ、幻夢の偽物を抹殺してハッキングした。た……ただそれだけだ。」


 路月はどもりながらも説明する。

ハッキングと言えばコンピュータに侵入したりすることを指すはずだ。生身の相手にハッキングという言葉を使うのが理解できなかった。


「な、なんのことを言ってるかさっぱりわ、分か――」


「ハッキングか。」


 愛麗が動揺しながら発した声を遮るかのように詩音が立ち上がると路月に突きつけるように言い放った。


「鍵さん、つまりキミはアークゼノは電脳世界の人達だとでも言うのか? 」


 それに対して路月は鋭い目で詩音を見つめるとぽつりと呟く。彼のたたずまいは厳格な父親を彷彿とさせて少し頭が痛くなる。


「詩音、職業柄か知らないが勘が鋭いな。これはあいつを倒した時に落としたものだ。」


 路月はニヤリと笑うと詩音に何かを投げると金属音を立てながら床に落ちる。僕は黎斗の時にはものなど落としていない。しかし彼を倒したのは僕ではなく天魔だったと思い直してそれをじっと見つめる。

それは夜のとばりのように黒くそこが見えない立方体だった。


「ふーん、路月くん、この中にアークゼノの情報が入っていたとでも言うのかしら?」


 癒月はそれを拾い上げると近くにある机の上に置いた。


 まるでブラックボックスみたいじゃないか――

ふと僕の頭に自分の思いが浮かんでくる。

あらゆるものにブラックボックス化が進んでいるという記事をどこかで見たような気がしていたが、あまりにも内容が難しいせいでそのページを飛ばしていた。


「そ、そうだ。このな、中にや……やつの記憶が入っている。す……データを解析するのはた、大変だったけどな。」


 路月はどもりながらも女性の目線から逃げるように僕に視線を移す。

確かに元プログラマーの彼からすればその物体からデータを解析して情報を得ることなど容易いことだろう。もし彼がいなければ永遠に彼らの正体など明かすことは出来なかったと思うと背筋が凍りつきそうだった。


「路月さん、それなら友絵達にその情報を見せることは出来ないの? 」


 友絵が訊ねると路月は首を振った。


「む……むむ、無理だ。解析途中でコ、コンピュータがぶっ壊れてしまってな。今ぼぼ防衛大臣に頼んでな……直して貰っている。ほ、本当に申し訳ない。」


 路月は友絵に目線を逸らすと腕を組んで再び僕に目線を移そうとすると水羽が蚊の鳴くような声で路月に訴える。


「そんなもの……わたし信じられません。雷電さんがアークゼノ相手にトドメを刺したのにそんなもの落とさなかったのに――」


「待ってください!実は――」


 僕は彼女の声を聞いて胸を圧迫されたような感覚を覚えると同時に僕は彼女の言葉を遮るように口を開く。

彼女が自分自身を出すというのは相当珍しい事だが、事実をねじ曲げて伝えることは僕達にとって致命的であることは分かっていた。

 僕が水羽とあったことの一部始終を話すと水羽は僕から背を向けるとうつむいてしまう。


「全くキミは運がいいのか悪いのか。少なくとも龍裂天魔にまで目をつけられた事はかなり不味いな。」


 詩音は呆れたような目で僕を見つめながら言い放つとうつむいている水羽の元へ近づいていった。

勿論僕がアークゼノにとって脅威になっていることは分かっていても毎度詩音に言われるのは何故だろうかと思わざるを得ない。


「ごめんなさい。わたしがいなければこんなことになんか……わたしがいなくなればいいんですよね。」


 突然水羽がうつむきながら早足で部屋を出ていく。もしやと思いながら僕は彼女を追いかけようとした時、友絵が制止した。


「水羽ちゃんのことは友絵に任せて。」


 彼女はそう言うと水羽を追って部屋を出ていった。




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