5話:Discovery (発見)

 僕達はようやくはぐれていた友絵と愛麗と再会する。

2人とも何も無くて安心したが、あまりにも元気そうな姿は、僕達がいかに波乱に満ちたことが起きたんだと改めて考えざるを得なかった。


「幻夢さん、大丈夫でしょうか? 」


 僕は愛麗の声でハッとすると何も無いというように僕は頷く。


「えっと……あっ、ここに来たのは水羽ちゃんの活躍するところを探すためだったよね。 」


友絵は僕の反応を見るや否やアイドルスマイルを振りまきながら水羽に言う。

しかし水羽の活躍するところを探すと言っても、何か友絵に策があるとは考えられなかった。


「トモちゃん、それならわたくしはなぜ呼ばれたのですか? 」


 愛麗がキョトンとした顔で友絵に訊ねる。彼女の肌と髪の毛が美しい調和を奏でており、先程まで激戦を繰り広げた疲れを忘れかけそうな程だった。


「アイレちゃんならなにか活躍するところが分かっているかなって。」


 まさかの他人任せだったのかと僕は落胆すると同時に僕の策が他人任せに負けた情けなさを感じる。

しかしこうなってしまった以上、彼女に乗るしか道はなかった。


「全く相変わらずですわ。突然ですけれど……水羽さん、そのリボンを触らせて貰ってもいいでしょうか? 」


 なぜか愛麗は彼女の手に握っていたリボンを見ながら訊ねる。

水羽は軽く頷くとリボンを愛麗に渡した後、愛麗は真剣な眼差しでリボンを見ていた。

あまりの真剣さに声をかけることも出来ずに無言の時間が流れる。


「このリボンどこで手に入れたのかしら? 」


 暫くして愛麗は再び水羽に訊ねた。

彼女の翡翠色ひすいいろの目はいつにもなく真剣で、食い入るかのように水羽の方を向いている。

そんな状況に僕と友絵は蚊帳の外で完全に入る余地がなかった。


「わたし……ハルモニア音楽学校の凛ちゃんに貰ったんです。」


 水羽は異様な空気に耐えきれなくなったのか、突然俯うつむくとぽつりと答えた。

 ハルモニア音楽学校は確かマノ世界内では有名な音楽学校なのは僕でも知っていた。

そこでは様々な音楽に優れた人達が集まり、競争率はかなり激しいと言う噂も立っていて誰もが憧れる学校の1つとして挙げられている。

いつも自信なさげな彼女がまさかその音楽学校に通っていたなんて信じられなかった。

 そんな僕と同じく愛麗も驚いた表情でわなわなしながらも彼女に訊ねる。


「まさか、わたくしの妹の平和凛から貰ったのでしょうか? 」


 そんな彼女に対して水羽は深々と頭を下げると口を開いた。

水羽と愛麗の長い髪の毛が風によって同じように揺れると同時に、重苦しい空気が蚊帳の外だった僕や友絵に襲いかかってくる。


「はい、わたしは……あなたの妹の親友だった白百合水羽と申します。

妹の事を掘り出してしまって申し訳ありません。」


 状況はあまり理解が出来ないが、ともかく愛麗と水羽には特別な関係性があったのだ。

しかし先程の水羽の発言で愛麗の妹はもう居ないのではという嫌な予感が頭をよぎった。


「いいですわ。逆にわたくしは嬉しいですもの。難病で亡くなってしまった妹に親友がいた事が嬉しいのです。」


 愛麗はにこやかに笑うと突然ポロポロと涙がこぼしながら水羽の手を握る。

その涙はとても綺麗で今まで見た中で1番美しく感じた。


「アイレちゃん! 水羽ちゃん! 友絵と幻夢くんを置いてけぼりにしないでよー! 」


 そんな空気を壊すかのように友絵が頬を不満げな表情で言った。

そんな友絵の顔と桃色のサイドテールが風でひょこひょこと動いている様は可愛い以外の何ものでもない。


「ご、ごめんなさい。でも……わたし、わかったんです。」


 水羽は拳をぐっと握りしめるとうつむいたままぽつりと呟いた。

空気が一瞬友絵によって和らいだかと思えば水羽の発言でピリッとした空気に様変わりする――

僕はその差に思わず風邪をひきそうだった。

そんな僕をよそに水羽は話を続ける。


「活躍するところは自分で見つけなきゃって。まだ自分にも自信が持てないわたしだけど、絶対雷電さんや上地さんみたいに活躍出来る人になりますね。」


水羽はそう言った後、顔を起こして今までにない笑顔を僕達に向けた。



「それはどうかしら? 」


 突然どこかから水を差すような声が聞こえると同時に、近くにあったビルが僕達に襲いかかるように倒れ始める。

それに気づいた僕達は倒れるビルから逃げた。 走ればどうということは無いと僕は希望を胸に抱きながら一心不乱いっしんふらんに走る。

しかし希望を打ち砕くかのようにビルは倒壊寸前にまで差し掛かっていた。


「上地さん! 危な――」


 何とか近くにいた友絵を突き飛ばすように押して自分も逃れようとしたその時、左足に激痛が走る。僕は必死に足を踏み出そうとしたが、そのまま地面にうつ伏せで倒れ込んだ。

近くからビルが瓦礫がれきと化すような音が聞こえる。

恐らく瓦礫がれきに僕の足が挟まってしまったのだ。


「幻夢さん……!? 」


 愛麗が動揺した表情を浮かべる。

僕の足は太ももまで瓦礫がれきで埋まってしまい、仰向あおむけにすることは不可能だった。


「アハハ、どうやらやっちゃったね! 」


 僕はその声に反応するかのように前を向くと、そこには満足げな笑みを浮かべている美火が僕達に立ちはだかるように現れた。

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