6話:Flame (炎)

「あっあっあっ………。」


水羽はわなわなしながら言葉を発すると、その場から離れようとしていた。

 先程自分に自信を持つと言った割に、これでは先が思いやられると僕はため息をつく。

しかしビルの瓦礫がれきに足を挟まれたヘタレの僕が言えたことではないと思いながらその山を見つめる。

これでは1人で撤去することなど不可能ではないかとなかば絶望のような感情が積んでいる瓦礫がれきのように重くのしかかっていた。


「ふふっ、ウチと遊ぼうよ! 」


僕は前に路月と共に戦って幸運にも何とか退ける事に成功している。

恐らく鉄秤が勝てなかったのは1人だったからだろう。仲間と協力すればどんな相手でも突破できると僕は思っていたのだ。

だからこそ僕が加勢すれば勝てると思っていたが、この状態では加勢することなど不可能としか言えなかった。


「“傲慢ごうまんの炎”! 」


 美火が詠唱すると同時に周りに火の手が上がり、水羽が逃げる前に退路が塞がれてしまった。

彼女が嘲笑ちょうしょうしながら僕達に近づく度に火が段々と激しく燃え上がる。

周りの熱気によるあまりの暑さに熱中症になってノックダウンしそうになるが、こんな所でやられまいと僕は何とか意識を保っていた。


「狂ってる……。」


 怯えている水羽に対して友絵は美火に銃を向けたまま睨んでいる。

彼女の武器であるマスケット銃が火の光によって銀色に輝いていた。


「ふふっ、こうなったら3人まとまっ…まとめてやっちゃうよ? 」


 相変わらず興奮すると言い間違いが発生するのはなんなのかとため息をつきそうになるが、そんなことよりも刺し抜きならぬピンチでそんなことなど吹き飛んでいた。


「まずは雷電幻夢! あんたから先にやってやるよ! 」


 気がつけば美火は走りながらも僕に近づいており、武器である斧が息のかかる所までせまっている。

僕の足が瓦礫がれきによって挟まっている以上、避けることなど不可能以外何ものでもなかった。

しかしその絶望的な状況を吹っ飛ばすように銃声が聞こえると同時に迫っていた斧がピタリと止まる。


「あたれぇぇぇぇぇぇっ!! 」


 あまりにも聞き覚えのない声がする方を向くと、友絵がアイドルとは程遠い顔をしながら美火にマスケット銃を乱射している。

そんな状況下に置かれても美火は涼しい顔でぽつりと呟いた。


「ふふっ、こんなウチに下級の天使がや……たて突くとはいい度胸だよ。」


 美火はすぐさま友絵の方に近づくが、彼女の遠距離攻撃には手も足も出ないようだった。

火に囲まれていることによる熱気と瓦礫がれきに足を挟まれていることによる痛みが僕の体力をじわじわと削ってくる。


「まだまだやるから! 」


 まだまだ美火との距離が離れている友絵は余裕げにマスケット銃を美火にぶっぱなしている。

あまりにも一方的な展開に勝利を確信しそうになったが、美火は思わぬカードを切ってきた。


「快進撃はここまでだよ。トランスフォーム! 」


 美火の声に答えるかのように周りに黒い光が襲いかかり、思わず目が眩んでしまう。

黒いのにどうして眩んでしまうのか疑問に思いながらもなんとか目を順応させていく。

 そんなこともつゆ知らずなのか、美火は僕の目が順応してくる前に勝ち誇ったかのように声高らかに言った。


「こんな雑魚はウチの前で這いつくばってるといいんだよ! 」


 先程友絵の銃撃に手も足も出ない状態だったが、変身しただけでこの言いようはまさに傍若無人ぼうじゃくぶじんとしか言いようがないだろう。

相変わらず水羽は固まったかのようにその場を動くことはなく友絵と美火の一騎打ちの状態になっている。

 この状況では勝ち目はないだろうと思っていた時、横から声が聞こえた。


「幻夢さん、ここは撤退しましょう。」


 僕は思わず声のするほうを向くと愛麗が僕の瓦礫で挟まった足を救おうと瓦礫がれきを撤去していた。

気がつけばほぼ撤去が終わっていて、血だらけの僕の足が段々とあらわになってくる。


「平和さん、ありがとうございます。でも僕にはやらなければ行けないことがあるんです。」


 僕はみんなを守るという使命感を持っている。こんな状況下でも友絵と水羽を見捨てるなどの非情に徹することは今の僕には出来そうになかった。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 」


 突然水羽の悲鳴が聞こえ、僕は咄嗟とっさに振り向く。

ようやく目が順応してきて真っ先見えたのはボロボロになって倒れている水羽と友絵の姿だった。

 完全に自分の足に集中していたせいもあって状況把握がおろそかになっていたとしてもせめて周りを見たりすることはできただろうと後悔する。

せめて水羽の技で雨が降って火が消し止められてスムーズに撤退できることが不幸中の幸いだろうか。


「上地さん! 水羽さん! 撤退しましょう! 」


 僕は歩くこともままならない状況の中で叫んだが、それを嘲笑あざわらうかのように突然雨が止むと何故か詠唱もせずに周りに火の手が上がる。


「ねぇ、知ってる? 雌獅子メスライオンは獲物を逃がさないんだよ。」


 美火は獅子をモチーフにしたバトルスーツに身を包んだ姿でぽつりと呟く。

圧倒的な力を兼ね備えていながらも、常に上から目線で傍若無人ぼうじゃくぶじんな姿はまさに傲慢ごうまんの悪魔であるベリアルに見えた。


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