3話:Cruelty (残酷)

「砕け散れー! 」


 じわりと額から汗が流れ、心臓が締め付けられるような感覚を覚える。

ふと一瞬の隙が命取りだというのはこのことだろうかと痛感しながら黎斗に向かって叫びながら“ラミエル”で素早く突きを放った。


「ふっ、かなりいい相手ではないか。」


 黎斗は僕の攻撃を受けてバトルアーマに傷がつきながらも余裕の表情を浮かべる。

何とか一矢報いっしむくいたいと思いながら僕は距離をとり、手のひらを黎斗に向けて詠唱した。


「いくぞ!“雷霆サンダーストーム”! 」


 その声に反応するように雷が黎斗に襲いかかる。

改めて何故雷を放ったのか理解が出来なかったが、その攻撃が拮抗きっこうした状況で唯一の打開策に思えた。

しかし気がつけば黎斗は軽々と雷を避けると胸に向かって鎌を振り下ろしていた。


「う、嘘だろ……! 」


 彼の鎌は僕のバトルアーマーをえぐりとるかのように大きな傷がつき、これでは変身がいつ解けてもおかしくない状態になる。

変身が解けてしまえば、変身している相手に対して生身で戦うのはほぼ勝ち目がないのは分かっていた。

もしそうなったとしても僕は足掻あがくように戦わなければと思いながら立ち上がると“ラミエル”を構える。


「僕は負けていられないんだ! 」


 僕は自分の気持ちを吐き出すように叫ぶと“ラミエル”の穂先ほさきの部分を彼の右肩を目掛けて叩いた。

しかしその攻撃も彼にかわされて彼の鎌が僕の首へと迫っている。

この状態で首を掻っ切られるのは不味いと思いながら、僕はしゃがんで攻撃を避けようとした。


 その刹那、くうを切るかのように何本かの矢が飛んでくる。

何故突然矢が飛んできたのかと疑問に思っていたが、その思いを吹っ飛ばすように黎斗の悲鳴が聞こえた。


「雷電さん!避けてください! “真理の雨”! 」


 この声は……まさか水羽なのかと驚きながら僕は黎斗から距離をとる。

彼女が詠唱した雨は霧雨となって黎斗への目くらましになってくれたようだ。

黎斗に距離をとっても安心はできず、僕は距離をとっても警戒心は解かなかった。


「雷電さん、あなたがトドメを刺してください。」


突然の霧の雨で体力を削られ、先程の僕の攻撃と水羽の矢によって傷を負っている黎斗はかなりボロボロになっていた。

ここでトドメを刺せば彼を倒せると思いながら僕は詠唱する。


「“雷霆サンダーストーム”! 」


 彼に雷が落ちると同時に変身が解けると、ボロボロになった黎斗が膝から崩れ落ちる。

そして諦めたような声を出しながら水羽に訊ねた。


「何故貴様は我の力が効かぬのだ。」


 すると水羽は困惑したような表情で答えた。


「そ、そんなことをわたしに訊いたって……。」


 そう答えた後に水羽は僕をちらりと見た。

彼女としてはその理由を僕が知っているかもしれないと思ったのかもしれない。

しかし僕としては相手に言うほどミスリードはないと思いながら黙っていた。


「そうか……再び我は召喚される。次は――」


 黎斗はようやく立ち上がりながら言葉を発していたその時、ドスの効いた声が彼の声を遮る。

僕はハッとして黎斗を見ると、後ろには赤いオールバックの男性が仁王立におうだちで立っていた。


「次? タマとれんチンピラにそんなもんあるかいな。 」


 龍裂天魔――

彼を見た瞬間、僕の頭が急に混乱し始める。あの時は彼が逃してくれたからこそ何とかなったが、今ではそうとは行かないのは分かっていた。

水羽は天魔を見るや否や僕を盾にするかのように隠れて怯えている。僕も完全にすくみ上がってしまい、この場にいるのがやっとだった。


「わ、我が総統……何故混沌の地に……? 」


 黎斗が震えるような声で天魔に話しかけたその時、突然天魔が丸太よりも太い腕で黎斗の胸倉を掴んだ。

僕は後ろをちらりと見ると水羽が顔を真っ青にしてガタガタと震えていた。


「そんなもんはどうでもええんや、なぜ飛ぶんや? 」


 天魔は青筋をたてて黎斗に訊ねる。

彼の黄色い目は震え上がるほど鋭く、どこか残酷だった。


「ぐっ……そ、総統でも――」


 黎斗が苦しみながらも言葉を発した瞬間、天魔の目が更に残酷さを増す。

天魔には今のところ黎斗しか見えていないようだが、いつ僕や水羽に飛び火したりしないかヒヤヒヤしていた。


「なんや? ワイにアヤでもつけるつもりか? 」


 それを聞いた黎斗は顔を青くして黙っている。

すると天魔は機嫌をさらに損ねたように黎斗の髪の毛を反対の手で掴むと、胸倉をゆっくりと離しながら口を開いた。


「そんなやつはヤキを入れなあかんみたいやなぁ! 」


 その刹那、天魔は力任せに黎斗を地面に叩きつけた。

この世のものとは思えない地面の音と共に何度も黎斗の顔が地面へと叩きつけられる。

その度に黎斗の断末魔だんまつまのような声が聞こえるが、叩きつけが止まることはなかった。


 僕はそれを見て絶句すると同時に軽い吐き気を覚える。しかし怒り狂った天魔を僕が止めることなどできそうにもない。

黎斗の断末魔だんまつまは段々小さくなっていき、遂には途切れてしまった。


 断末魔だんまつまが途切れてからしばらくすると、天魔が叩きつける手を止めてぽつりと呟いた。


「まぁ……仲間ってもんはこんなもんやな。」


 意味深な言葉を呟いた天魔の姿は独裁者のように残酷さがあふれていた。

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