2話:Rematch (再戦)

「待ってください。」


僕は嘲笑ちょうしょうしている黎斗に向かって訴えかけると、改めて周りを見回す。

 友絵がアイドルらしくない表情で銃を黎斗に突きつけている。そして僕の近くには水羽が震えながら僕をじっと見ていた。

この状況はまさに前に黎斗に出会ったときと同じように感じる。


「なっ、貴様…………。」


 僕は前に出会ったときのことを思い出していた。

突然力を失ったかのように倒れた人々と嘲るように笑っていた黎斗――

 アークも力や技を持っているならばアークゼノも何かしらの力を持っているのではないかという考えが僕の頭の片隅に浮上する。

僕は何故か動揺している黎斗に向かって言い放った。


「大熊さん。そんな余裕でいられるのは君は女性の力を失わせる力を持っているからですよね。」


 僕がこんなことを言ったのも訳がある。

前に戦った時は女性達がみんな力を失うのに対して僕や鉄秤は力を失わなかったのだろうか。

 確かベルフェゴールは女性に対して不信感があったという記述があった気がしていたのだ。

そうでなければ何故僕や鉄秤が効かなかった理由はなんだったのだろうかと問い詰めるしかないだろう。


「ふん、貴様の頭脳も高スペックのようだな。

しかし雷電幻夢、貴様は我がフォースに朽ちていく運命にあるのだ! 」


 黎斗はニヤリと笑いながら黒が基調の鎌を出すと、僕に向けてくる。

僕も改めて“ラミエル”を構えるが、ふと自分の手が震えていることに気がついた。

例えその震えが武者震むしゃぶるいだとしてもやらなければならない時があるのだと心に決める。


「さぁ! 彼女を助けたければ我を倒すがいい! 」


 黎斗は悪役特有の言葉を放つと僕に鎌を振り下ろした。

彼の躍起になった目を見る限りどうやら僕のことしか見えていないようだ。

僕にヘイトを向けられている間に水羽と友絵は愛麗と周りの人を助けてやってくれと心の中で思っていた。


「そ、それはどうかな。 」


 僕はニヤリと笑うと“ラミエル”で攻撃を跳ね返すと、胸につけている宝石を握りしめて叫んだ。


「トランスフォーム! 」


 僕の叫びに答えるかのように謎の光が僕を包む。

この戦いは負けられない。


 負けたら……死があるのみだ。

先程からどこかで見られているような感覚を覚えていたが、そんなことは無意識に追いやろうと心の防衛機能である抑圧が働いていた。


「はぁっ! 」


 変身した僕は謎の光によって目が眩んでいる黎斗に向かって回し蹴りを放った。

その蹴りは彼の頬にクリーンヒットし、顔が歪むと共に彼の鼻血が僕のバトルアーマーを赤く染めた。


「雷電幻夢、貴様はこれで勝ち誇っているようだな。しかし我は気がついておるぞ。」


 そう言いながら黎斗は黄緑色の髪の毛をなびかせながら距離をとると、鎌に闇の力をまとわせた。


「貴様は仲間がいなければ勝てない雑魚ということをな! “キーメクス”! 」


 彼が叫ぶと同時にいくつかの闇の力を持った斬撃が僕に襲いかかってくる。

それに対して僕は“ラミエル”で何とか弾き返そうとするが、完全に弾き返すなど僕の体では不可能に等しく、水色のバトルアーマーに当たる度に大きな傷がついた。


「くっ……。」


 僕はひざまづきながらも黎斗を睨んだ。

僕と黎斗の一騎打いっきうちでこちらが圧倒的に不利な状況は分かっている。

しかしそんな状況だとしてもそれが言い訳にはしたくなかった。

 僕は再び“ラミエル”を構える。

ふと僕は全身の血が沸き立つような感覚を覚えていた。


「でぁぁぁぁぁぁぁっ!! 」


 僕は立ち上がると黎斗に突っこむように距離を縮めると“ラミエル”で胴を突こうとする。

この攻撃が唯一の打開策のように思えたが、逆に考えると避けられた時には追い詰められるということは考慮こうりょしていなかった。


「なっ!? 」


 どうやら黎斗も油断していたらしく彼の胴に突きがクリーンヒットする。

明らかに不利な状況でも諦めない心が不可能を可能にするのだ。

彼の胴から血液が飛んできて僕のバトルアーマーに着いても気にもとめていなかった。


「はぁっ! 」


 追い討ちをかけるように僕は“ラミエル”を彼の胴からゆっくりと抜くと旋風脚せんぷうきゃくを放った。

槍と体術の連撃はかなり強く、黎斗はなすすべもなく吹っ飛んだ。


「くそっ……雑魚の分際ぶんざいでよくやるではないか。しかし貴様は……漆黒の支配者である我を倒せぬのだ! 」


 黎斗はボロボロになりながら立ち上がると鎌を天に突き上げて叫んだ。


「トランスフォーム!」


 彼の叫びと同時に黒い光が彼の体を包んだ。

その姿を見て僕は唾を飲み込む。

ここからが本当の戦いだ。だからこそ負けていられないという思いが僕の心を熱く燃え上がらせる。


「ここが貴様の墓場だ!“アケディア・オプスクリータース”! 」


 黎斗は熊をモチーフにしたバトルアーマーをまとわせた姿で詠唱する。

その詠唱に答えるように黒いもやのようなものが僕に向かって襲いかかってきた。


「そうはいかないよ!“雷霆サンダーストーム”! 」


 僕は黒いもやのようなものに向かって雷を放った。

なんとか雷でもやを相殺したが、何個も出されれば対策するのはかなり厳しかっただろう。


 僕は気を引き締めると、“ラミエル”を握って黎斗に距離を詰めた。

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