22話:Desire (思い)
僕は
まさか彼がそんなことを知っているという事実に僕の頭は混乱していた。
「幻夢、言いにくいが……お前シスコンなんだな。」
鉄秤にそう言われて僕は一気に血が上るのを感じながら彼の胸倉を掴んだ。
彼にシスコンなんて言われる筋合いはないと
それに対して動揺したような素振りを見せない彼に怒りに身を任せて叫ぶ。
「無神経だ、無神経だよ! 」
すると鉄秤は急に真顔になると黄色い瞳が鋭くなる。
彼が常に余裕そうな顔になっている時は割とふざけていることが多いが、こうなった時は違うのは何度も彼を見て分かっていた。
そして彼は口を開いた。
「確かに無神経だな。しかしお前が過去がつらいのも、オレが知っているお前はもうそんなことを乗り越えているのも知っているんだ。」
僕の血の気が一気に引いていくのを感じる。
何故彼は誇らしくそんなことを言えるのだろうかと理解が出来なかったが、彼なりの確信があるのだろう。
彼は一息つくと話を続けた。
「お前は昔に妹を目の前で失った。幻夢、ずっと罪を背負い込んで妹が幸せだと思うか? 」
ふと頭の中に妹を亡くした時の状況がイメージとして蘇ってくる。
目の前で見知らぬ者に首を締められている妹とそして助けを求めたり出来なかった自分――
僕はあの時からずっと妹のことばかり考え、罪滅ぼしのために日々を過ごしていた。
何度も死のうと考えていた時もあったがその時に出会ったのが聖書だったのだ。
そして僕は神に救いを求めるかのようにキリスト教にのめりこむかのように勉強し、神学部に入った。
そんなことをしても妹は助からないなんて分かっている。でもそうしなければ気が済まなくなっていたのだ。
「お前の妹がどういうやつかは全く分からないが、お前の妹は前を向いて幸せになって欲しい、誰にも愛されるような人になって欲しいと願っているはずだ。」
違う、妹は絶対僕を恨んでいるはずだ。僕が幸せになっていいのだろうか、もう死んだ方が楽になれるのではないかと考えていた時もあった。
抑えていたものが彼によって次々と暴露されていく状態に嫌気がさしていく。
僕は彼を遮るかのように訴えた。
「でも……妹を守れない僕に他人を守れる資格なんかないに決まってるじゃないですか。そしてそんな人が愛されるわけが――――」
自分の心が段々と傷んでいく。彼に過去を暴露されることにただならぬ苦痛を感じていた。
すると彼はニヤリと笑って肩を叩くと、彼の髪の毛がゆらりと揺れる。
「全くお前は忘れているな。思い出してみろ、お前は沢山の人を救っているはずだ。そしてお前は少なくともアークのみんなには愛されているぞ。」
ふと僕の頭の中にアークとしての思い出が走馬灯のように流れると同時にある言葉が音声として蘇ってくる。
『幻夢がいなければ俺は助かっていない――』
『幻夢さん、本当に助けてくれてありがとうございます。あなたがいなければこの街の人々はみんな死んでいたでしょう。』
はっきりと口に出してくれたのは路月と愛麗だけだが、曖昧なものを含めるとかなりの言葉が見つかった。
そう思っているとふと僕の目から熱いものが込み上げてくる。
それに対して彼は頭を撫でながら僕を
「お前は大切な人を守れなかったつらさを誰よりも知っている。だからこそお前はアークになって沢山の人を守れているんだ。
お前はアークとして
僕の目から涙がとめどもなく流れる。
そう思う時点で間違っていたのだ。僕は決してアークの
「う、ううっ……。」
僕は声を殺しながら泣いていた。それに対して鉄秤はただ僕の頭を撫でながらポツリと呟いた。
「だから言っただろ。言っておけば良かったと後悔するなよって。オレも悪い事をしたが……。
とにかく実力行使までは行かなくてよかった。」
ふと僕はあの時の意味深な言葉を思い出した。恐らく僕を傷つけさせないためにあのことを言ったのだろう。
僕は
数十分後――
僕の頭は段々と頭が冷静さを取り戻していた。
ふと改めて考えてみるとどうして彼は妹がいることを知っていたのだろうかという疑問が沸き起こる。
「ど、どうしてそんなことを知ってるいるんですか? 僕に妹がいるなんて言ってなかったはずなのに。」
僕はまだ頭を撫でているも鉄秤に訊ねた。
無言の時間が長く、泣いて水分を奪われたのか喉の乾きを痛烈に感じる。
ふと彼を見ると視線が合い、見つめ合ってしまう。
すると彼は僕の頭を撫でるのをやめて答えた。
「ミカエルに色々教えて貰っている。まぁ……ミカエルの力と言った方が正しいだろうな。」
「ミ、ミカエルの力?その力って……。」
少し困惑しているような僕に対して彼はさらりと答えた。
「正直言うと能力と言った方が正しいかもしれないな。
ミカエルから与えられた力は“知識”。アーク全員の全ての情報を知る程度の力だ。」
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