23話:Force (力)

「えっ? 」


 僕はかなり前から鉄秤に対して強い違和感を感じていたものが一気に解けていく感覚を覚える。

確かに彼は僕達の情報を知っていそうな事がいくつかあった。

 1つ例を挙げるとすれば黎斗と戦っていた時に僕に雷を放てと言っていたが、僕が雷を放てるということを知らなければ彼はそんな命令なんかできないという謎だ。


「そんな反応するよな。オレたちは“技”以外にも“力”というものが使えるんだ。勿論お前にもな。」


 僕は一瞬頭が混乱した。

そんな僕に対して鉄秤は金髪をなびかせながら涼しい顔で僕の方を見ている。その姿には彼らしい余裕さがあった。


「え? 技とか力とかどういうことですか? 」


 僕は鉄秤に訊ねると彼は一息ついて答えてくれた。


「さっき言っただろ。力は能力みたいなもんだ。

お前ならアークゼノと戦っているから分かるかもしれないが、詠唱しなかったのに何か起こったことは無かったか? 」


 僕は彼にそう言われて考えてみる。

そんなことはあったかと最初は疑っていたが、しばらく考えていると見つかった。


「ありました。鳶島さんと戦っていた時に力を抜かれたような気がしたのですがそれですか? 」


 それ以外にも色々とそれっぽいのは思い浮かんでいた。その中でも1番記憶に残っていたのは1人で足掻あがきながらも戦った楓太だった。


「それだ。あとはオレを除いて力は変身しなければ使えないという事だな。」


 鉄秤は腕を組んでポツリと呟いた。

僕はそれを聞いて一気に理解が深まっていく。

 恐らく“力”は詠唱を必要としないが変身を必要とするもの、“技”は詠唱を必要とするが変身を必要としない場合があるというものだろう。

 いや、待てよ。他にも違いがあったはずだ。

確か“技”には魔法みたいに火や水といった属性が存在しているのでは無いだろうか。


『――地面と雷……あたしとの相性は良くないわね。』


 ふと頭の中に七海が言っていたことを思い出す。

これは技が必ずしも属性に依存しているという証拠になりえた。


「そうですか。」


 僕は頷くと鉄秤の姿をちらりと見た。

彼の腕には火傷の跡がいくつもあり、少し痛々しく感じる。

この火傷の傷は少し僕としては見覚えがあった。


「その傷は東方さんにやられたんですか? 」


 僕は恐る恐る鉄秤に訊ねると、彼は頷いた後に口を開いた。


「ああ、あいつはやばかった。全く……アークゼノは厄介だな。1人で戦うなんて不可能みたいなもんだ。」


 鉄秤は不安そうに天を仰いだ。彼のその目はどこか戦いに怯えているように見えた。


 プロゲーマーが戦いに怯える――

それはプロゲーマーにおいて致命的としか言いようがないだろう。

それでも余裕そうな顔を浮かべてはいないものの、相変わらず思考が読めないのは完全に崩れきっていない証だろう。


「幻夢、1番アークゼノで脅威なのは誰だと思うか? 」


 彼は天を仰ぐのをやめて僕に訊ねる。

恐らく僕に訊いてきたのはアークゼノの全員と遭遇しているからだろう。

僕はそう訊かれて改めて考える。

 7つの大罪という指標から考慮すると憤怒の龍裂天魔だ。

あの筋骨隆々とした姿と圧倒的な力はまさにアークゼノのリーダーと言えるだろう。

 しかし僕の感覚としては暴食の薙王砂那だ。

水羽のラッキーパンチで何とか状況を切り抜けたものの、それさえなければ全滅さえ有り得ただろう。

ベルゼブブはサタンに次ぐ強さと言われているが、それの名に恥じぬ程の強さだった。


「幻夢、お前優柔不断なのか? 優柔不断は戦いでは死に繋がるぞ。」


 僕は鉄秤の一言で我に返った。確かに僕は優柔不断かもしれないが、もし僕の立場に立ったら彼は即断できるだろうかと考えてしまう。


「分かっています。僕としては憤怒の龍裂天魔か暴食の薙王砂那だと思っています。」


 結局僕は決めきれずに2人の名前を出した。彼は1人だけ出せと言ってなかったはずだ。


「ありがとう。オレとしてはどうでもいいんだが防衛大臣が出せと出せとうるさくてな。」


 彼はため息をつくように僕に訊ねた理由を言ってくれた。

防衛大臣も人使いが荒いものだと僕は心の奥底で思う。そうだとしても僕はマノ世界の防衛大臣はこういう人だと割り切ることしか出来なかった。


「そうですか。」


 僕は素っ気なく答えると彼は腕を組むのをやめて立ち上がる。そしてやる気がなさそうにぽつりと呟いた。


「オレは今から防衛大臣と話してくる。」


 鉄秤は重い足取りを引きずりながらとぼとぼと歩く。

僕はそんな彼の姿に対して少し嫌な気持ちになり、その気持ちを払拭したくなった。

その気持ちが体をつき動かしたのか気づけば追いかけて彼の右腕を掴んでいた。


「幻夢、どうしたんだ? 」


 鉄秤はハッとしたかのように僕の方を向いて訊ねた。

彼の黄色い瞳がやる気が無さそうに僕を見つめている。こんな彼は嫌だと思いながら僕は想いを伝えた。


「御剣さん。僕はいつもの御剣さんが1番好きです。だから暗い顔なんかしないでください。」


 僕は正直な気持ちを言うと彼は快活かいかつに笑い始める。

その笑顔は先程の顔とは無縁のように思えた。


「そ、そうか。お前にその気がないのは分かるが、受け取り方次第では勘違いされるぞ。」


 彼の言葉に僕は一気に顔が赤くなった。

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