19話:Awareness (意識)

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 」


僕は再び叫んだ。

 ここまで怒りを顕にしたのはいつぶりだろうか。

 アドレナリンが放出されて感覚が段々と鈍麻どんましていくのを感じる。

あいつには負けたくないという意識が“色欲しきよくの意識”を解いた。


「くらえ!“稲妻槍ライトニングランス”! 」


 僕はゼノ世界の僕に接近しながら雷の力を“ラミエル”にまとわせるとビームのように発射させる。

今までの相手でこの攻撃は避けた人がいなかったような気がしていたので相手が麻痺している間に追撃をするのは確実だと僕は踏んでいた。


「“星屑スターダスト”。」


 ゼノ世界の僕はニヤリと笑うと星型の弾幕を放って僕の攻撃を中和していく。

まさかこの攻撃を中和しているなど思わずに油断していた僕が甘すぎたと思いながらリカバリーしようと頭を回す。

 もしかしたら今は僕の攻撃を中和しているので今なら――


「ここだっ! 」


 僕は背後に回ってゼノ世界の僕の胸を目掛けて攻撃しようとした時、癒月の叫び声が聞こえた。


「危ない! 」


 その声と同時に得体の知れないものが僕の体を守った。

何故僕を守ったんだと思いながら後ろを振り向くと一体のエラーが僕に向かって攻撃しかけていたのだ。

 癒月がいなければエラーの攻撃によって僕は圧倒的不利な状況に追い込まれていただろう。

僕は心の中で感謝しながらエラーの胸元に“ラミエル”を突き刺す。


「ふぅ、ありがとう。雅楽さん……っ!? 」


 僕は癒月にお礼を言いながら“ラミエル”をゆっくりと抜いているとゼノ世界の僕がレイピアを突きつけていた。

彼の水色の髪の毛が動きで揺れると同時に息が詰まるような空気が流れる。

この一瞬の選択を間違えれば確実に死ぬのではないかと言われるほどの緊張感が襲いかかった。


「君はなんのために戦っているんだ? 」


 ゼノ世界の僕がレイピアを僕に突きつけながら訊ねてくる。

なぜこんなことを僕に訊いてきたかはよく分からないが、それに対する答えはもう決まっていた。


「僕達のいる世界を守るため以外何があるんだ? 君だってゼノ世界を守っているために戦っているんですよね。」


 僕は彼を足ではらうと“ラミエル”を構える。

それに対して何故かゼノ世界の僕は鼻で笑って立ち上がると言い放った。


「え? 君は本当に世界を守れるんですか? 」


 その言葉が僕の胸に突き刺さる。

普通の人なら即答できるはずなのに僕には一瞬躊躇ためらいが生じた。

 一瞬妹の事を勘づかれたような気がしたのだ。

そう思えてしまうと彼の水色の瞳が僕を嘲笑あざわらっているように感じてしまう。


「あぁ、守れるさ。だから僕は――」


 そう言いかけた時、ゼノ世界の僕は否定するかのように鋭く言い放った。


「ふっ、君には守れやしないよ。」


 ゼノ世界の僕は様々な部分を狙ってレイピアを突き刺そうとする。それに対して僕は“ラミエル”で何とか弾き返していき、武器と武器が弾きあう音だけがしばらく聞こえていた。

僕は相手の攻撃を軽くいなした後に訴える。


「うるさい! 僕のことは何も知りやしないのに言われたくない! 」


 僕は半ばやけになりながらも“ラミエル”で攻撃するものの、相手にかわされてしまう。


 そこまで言われると自信を失ってしまいそうだった。

改めて覚悟を決めたり色々してきたが結局は心の隙を付け込まれては話にならないのだ。


 僕は過去に妹を失っている。

妹は目の前で殺されているのに守れなかったのだ。世間では妹を守れなかった兄としてのレッテルを貼られるのは分かっていた。もしそんな兄が世界を守ると言ったら誰が信じるだろうか。

 今までその思いが無意識の中で眠っていた。

しかし“色欲しきよくの意識”によって賦活ふかつされてしまい、心の隙となってしまったのだ。


「くそっ! 」


 僕は“ラミエル”を突きつけたがゼノ世界の僕が避けると同時に自分の変身が解けてしまう。

一瞬なぜ変身が解けてしまったのか理解が出来なくなるが、そんなことは言ってられないと自分を鼓舞して殴りかかろうとしても体が言うことを聞かなくなっていた。


「全く……面白くないね。まぁいいや、君みたいな人は自滅して死んでいくのが分かっているから。」


 そう言うとゼノ世界の僕は闇と共に消えていく。

僕は必死に彼を追いかけようと手を伸ばした。

その時、自分の手が突然段々と黒く染まって段々と禍々まがまがしいものに変わっていく。


「なっ!? 」


 黒く染まっている手のひらを見つめて僕は愕然がくぜんとした。

自分の体に何が起きているんだと思いながら、このような現実への防衛機能が働いたのか段々と意識が遠のいていくの感じる。


「幻夢くん! 幻夢くん! どうしたの! 」


 癒月の声が遠くから聞こえてくる。

しかしそのようなことはどうでも良くなっていた。

彼女の声を聞くうちに自分がアーク失格じゃないかとまで思ってしまう。


「大丈夫だ。僕は……。」


 癒月には心配をかけまいと僕はポツリと呟いた。

その中で僕のような妹も守れないアークの失格者なんか心配しなくてもいいはずだと決めつける。

彼女も何も守れない僕を嘲笑あざわらっているんだという考えに陥っていた。


 もう……僕は何も守れない人間だ。アーク唯一の落伍者らくごしゃだ。

そう思っているうちに僕の意識は糸が切れたように落ちていった。



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