17話:Xeno (ゼノ)

「紗羅っ! 紗羅! 」


僕は紗羅に向かって声の限り叫んだ。

 彼女は死んでいるはずなのにどうしてここにいるんだという困惑と恐ろしさが混じったような気持ちが襲いかかる。

そのためかおのずとその声が震えていた。


「紗羅……? なんで私のことを知っているの? 」


 僕の声に反応したのか紗羅は僕の方を向くとぽつりと呟く。

勿論彼女に言う答えは決まっていた。


「僕が……君の兄の雷電幻夢だからだ。」


 その答えを聞いて紗羅はレイピアのようなものを向けてくると僕を斬りつけてくる。

その姿を見た僕ははっとした。


 彼女は死んでいるのだ。もしそうなると彼女は――――

何とか“ラミエル”で紗羅の攻撃を防いだ。


「ど、どういうことだ紗羅! なんでここに紗羅がいるんだ! 」


 僕は勇気を振り絞りながら彼女に問い詰めた。

紗羅は何者かによる首絞めで殺されている。それなのに何故この場に彼女がいるのか説明して欲しかった。


「幻夢くん!“栄光の――”」


 後ろから癒月が紗羅に向かって詠唱し始める。

紗羅は僕の妹だ。もし彼女が怪我をしたらと思いながら僕は紗羅の攻撃をいなすと、近くにいた癒月を押し倒した。


「幻夢くん! 何をしているのよ! 」


 仰向けに倒れた癒月は僕に向かって怒鳴った。彼女のメガネは遠くまで飛んでいってしまい、彼女の緑色の瞳が顕になる。


「僕は彼女に何よりも聞きたかったことが――」


 僕が言いかけたその時、彼女のビンタが襲った。

僕はそれを受けて意識が一瞬どこかへ飛んでいってしまう様な感覚を覚える。


「彼女……? 幻夢! 目を覚まして! あなたは幻覚を見てるのよ! 」


 癒月の声によって僕は改めて後ろを振り返る。

すると幻覚か何かが解けたのか、先程見た人と全く違う人になっていた。


「な、何故だ……! どうして…………。」


 その人を見た時、僕は思わず絶句した。

水色の髪の毛に水色の瞳、そして僕の服の白の部分が黒に変換されたような服を着ている。

 まさに僕と瓜二つだと思っていた時、その人の一言で僕の体から武者震いのようなものが襲いかかった。


「君が……噂のマノ世界の僕ですよね。」


 その言葉を聞いて一瞬聞き間違いを疑った。

しかし何度もこの声を反芻はんすうしても答えは一緒だ。

僕がしばらく黙っていると男は話を続けた。


「答えなくてもわかっています。ざっくり言うと君は異世界の僕であって、僕にとっても僕は異世界の君なんですよ。」


 僕は彼の言っていることがあまりにも電波すぎて何を言っているのか理解が出来なかった。

すると彼は困惑する僕を見る。しばらくの間、僕の顔を見つめて満足したのか再び話を続ける。


「異世界だからかもしれないけど君のいる世界に妹がいるなんて思わなかったよ。

そして……何よりも楽しかったよ。あんな可愛い子を演じて騙すことが。」


 それを聞いて僕は段々と情報が読み込めてくる。

目の前にいる彼はゼノ世界の僕ということだ。

 しかし……2つの別の世界に同じ人が2人いるなんて信じられることだろうか。

僕は騙されたことに対して少し怒りを覚えるが、それ以上に彼に対する不審感の方が強かった。


「そうですね。ゼノ世界とマノ世界に同じ人がいるなんて信じられないですね。」


 僕は皮肉交じりにゼノ世界の僕に問いかけた。すると彼から予想外の答えが返ってくる。


「だからこそ“イレギュラー”が起きたんだ。

おそらく2つの世界が同じ人が生まれてしまったという異常が起きてしまった。その事実を抹殺しようと世界を融合させて壊そうっていう魂胆こんたんだったんだろうね。」


 先程からほぼ黙って聞いていたが、男は僕と癒月をたぶらかそうとしているのではないかと思っていたが、心の裏ではもしかしたら彼の話は当たっているかもしれないという思いもあった。

 しかし結局は全く信用しないのは致命的なので少しは信じてみようという結論に達する。


「さっきから聞いてたけどおかしいわ。

あなたは一体何者なの? “イレギュラー”を起こした犯人なの? 」


 癒月がかなり機嫌の悪い顔で僕を押しのけて起き上がってくる。

メガネがなくて前が全く見えないのか起き上がる時はかなりふらついており、僕は彼女を支えた。


「だから僕はゼノ世界の雷電幻夢ですよ。先程の話は全て僕なりに考えたものなので真相は全く分かりませんよ。」


 僕はその言葉に対して一気に彼に対しての怒りが込み上げてくる。

改めて少しは信用してみた僕が馬鹿だったと思いながら“ラミエル”を彼に突き上げた。


「全く理解力の足りない人は困ります。すぐ実力行使に来ますから。」


 彼はそう言いながら“ラミエル”を持っていない方の手を掴んでそのまま僕の体ごと投げてしまった。


「うわぁぁぁ! 」


 何も出来なかった僕は壁に激突したかと思うと突然得体の知れないものが僕の体を守る。

そしてゆっくりと僕の体を下ろして立ち上がらせた。

 恐らく癒月が何かしらの力を使って助けてくれたのかもしれない。

路月然り詩音然り魔法以外の力を使えるのはなんなのだろうかと疑問に思う。


「はぁ…………間に合ってよかった。」


 僕は声に反応して振り向くと、癒月が“ラファエル”を僕に向けてニコリと笑っていた。

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