16話:Raid (奇襲)

「どうしたんですか! 」


 僕はすぐさま従美に駆け寄った。

そして彼女をちらりと見た時に彼女の胸や腕から大量の血が流れているのを確認する。

一体誰にやられたのだろうか……。

 僕はふとそんなことを考えていたがそれどころでは無いと頭を横に振って忘れようとした。


「グルルルルル……。」


「ギャアア!!ギャアア!! 」


 扉の先から複数体のエラーの唸り声のようなものが聞こえる。

その声を聞いて僕は段々と血の気が引いていくのを感じた。

 エラーがこの中に入ってくるとなると砂那が壊した扉しかありえない。それに気づかなかった従美はエラーの奇襲によって怪我をしてしまったのでは――


「幻夢! 何をボーッとしているんだ! 」


 詩音の怒号で僕ははっとする。しかし従美がこうなっている以上、彼女を放置することはできなかった。聖もこの状況についていけていないのかソワソワしている。


「朝火さん! 天本さんも聖も放っておけません。僕は2人を防衛してますので残りで戦ってください! 」


 僕は詩音に向かって叫ぶと彼女は頷いて部屋を出ていった。

もしかしたらエラーがどこかの扉を破ってここに入ってくるかもしれないという緊張感と心細さを感じながら僕はマントを引き裂いて従美の傷を止血し始める。


「雷電幻夢さん。単刀直入に聞きますけど……雷電幻夢さんもアークなんですか? 」


 突然僕の緊張感を遮るかのように聖が話しかけてきた。思わず僕はビクリと心が跳ね上がりそうになりながら彼の顔を見ると少し僕に対してどう接したらいいのか悩んでいるように見えた。


「僕にはタメ口でも大丈夫だよ。僕も朝火さんと同じくアークの1人だよ。」


 僕は引きったような笑顔で返すと聖は心配そうな顔で僕を見ると急に悔しそうな顔をし始める。


「ごめんなさい。俺が役立たずでこんなことに。俺がアークだったら…………。」


 彼の拳を見るとどこかプルプルと震えている。

彼の正義感の強さはひしひしと感じるし間違いでは無いのは分かっていた。しかし行き過ぎた正義感は正義とは呼べないと僕には言える。

 その理由は彼が夢の中で出会った天使であるカマエルが正義の実行という名目で敵対者を容赦なく攻撃したという記録が残っているということを知ってから僕なりに考えたことだ。


 これを聞いて正義とはなんなのかと考えたが、その中で一つだけわかったことがあった。

 それは正義と悪は紙一重ということだ。

彼はあまりにも破壊的性格故に1部の説では彼を堕天使という扱いにされている。

しかし彼自身は正義感からやっているのに堕天使扱いされるのはいかがなものだろうか。

そこからくる答えは行き過ぎた正義感は正義とは呼べず悪になり得るということだ。


「ギャアア!!ギャアア! 」


 突然エラーの叫び声で僕は我に返る。そしてしばらくすると扉が音を立てて壊れ、数体のエラーが僕のいる部屋から入ってきた。


「聖さん、僕の後ろに下がってください。」


 僕は聖をちらりと見ながら警告すると“ラミエル”を構えた。それが契機となったのか1体のエラーが僕に向かって飛びかかってくる。


「はあっ! 」


 僕は飛びかかるタイミングを狙って“ラミエル”をエラーに向かって突き刺した。

するとエラーの体が串刺しになると同時に僕の頭からエラーの血液が降り掛かってくる。

 しかしそんなことを考えている余裕は僕にはなかった。聖や従美を守るためだという意思が僕を強くさせていく。


「であっ! 」


 僕は数体のエラーに向かってぎ払うと突然どこかから声が聞こえた。


「幻夢さん! ここにいたのね! 」


僕がその声の正体と出処でどころを突き止めようとする前に再びその声が叫んだ。


「行くわよ!“栄光の風”! 」


 その声と同時に風が吹き荒れてエラー達の体が壁に叩きつけられていく。


「う……雅楽さん! 」


 僕は驚きと同時に声の出処でどころを突き止めると癒月が“ラファエル”をエラー達の方へ向けているのが見えた。

彼女の濃い緑色のボブが彼女の攻撃が生んだ風に揺られている。


「幻夢くん、別にあなたを助けたわけじゃないけどこれから2人で戦っていきましょうか。」


 癒月は“ラファエル”を再び構えながらにこりと笑った。

その笑顔を見ながら僕は心細さが消えていくと同時に彼女が頼り甲斐のあるような人に見えてくる。


「はいっ! 一緒に戦いましょう! 」


 僕は彼女につられて笑いながら“ラミエル”を向けた時、水を差すような威圧感が後ろから襲ってきた。

何故後ろからそんなものが襲っているのかさっぱり分からない。


「な、なんだ……ま、またか……。」


 僕は気のせいだと頭を横に振りながら再び前を向くと今度は後ろから聖の恐れ戦くような声が聞こえる。


「どうしたんだ! 」


 僕は聖の声に反応するかのように後ろを向く。

そこには聖に向かい合うように水色の髪の毛の少女が立っていた。

それを見たと同時に謎の既視感と親近感のようなものが僕に襲いかかってくる。

 その少女はまさか――


「さ……紗羅! 」


 僕は思わずその少女に向かって叫んだ。

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