11話:Cleaning (掃除)

「“輝く太陽”。」


詩音の声に答えるかのように部屋の周りで降っていた雨がやんでいく。


「ふう、全く水羽は……。」


 彼女はため息をつくと天井を見上げてぽつりと呟く。

それに対して水羽は顔を赤くしてうつむき、申し訳なさそうに顔を上げた。

 今回の件でまさか水羽がドジっ子だと言うのは僕も予想はしていなかった。改めて考えてみるとマノ側の人達がみんな個性的すぎて僕の個性が埋もれてしまっているのは気のせいだろうか。


「でも水羽がいなければあたしは生きていられなかったかもな。改めて言う、ありがとう。」


 詩音はゆっくりと手を伸ばして水羽の頭を撫でた。すると水羽は顔を上げて彼女の方を見ると詩音はニコリと笑った。

彼女がこんなに純粋に笑っていることは少ないのではないだろうか。僕はその姿を見て珍しいものを見たような感覚になる。


「詩音さん、1人ではどんな手を使っても勝てないのはわかったでしょ? みんな協力すれば作戦の幅も広がるしいいでしょ? 」


 すると隣にいた癒月が詩音に向かって話しかける。壊れたドアから太陽の光が差し込んで“ラファエル”をキラキラと輝かせていた。


「あぁ、分かったな。むしろ迷惑をかけてたのはあたしのようだ。本当にすまない。」


 詩音は真顔に戻りながら水羽を撫でていた手を止めた。それに対して水羽は撫でられた手を止められて少し悲しそうな顔をしている。

水羽の態度を見る限り、もっと彼女に甘えていたかったのかもしれないと思った。


「詩音はもっと人に頼りなさい。みんな個性的だけど悪い人でもないし何よりも“アーク”っていう仲間だから。」


 癒月はそういうと詩音に向かってにこりと笑った。それにつられたのか詩音も水羽もにこりと笑う。

僕はふと完全に蚊帳の外に置かれている感覚を覚える。しかし迂闊うかつに彼女達のオーラに入ると無視されそうな気がしていた。


「3人ともあの…………。」


 ヘタレで空気はさすがに不味いぞと勇気を振り絞りながら僕は声をかけるが、癒月の言葉によって遮られてしまった。


「さてと、びしょびしょの床のお掃除を始めなきゃね。このままだと従美さんに怒られちゃうわ。」


 彼女はそう言いながらあまりの状況についていけない僕を置き去りにして、ロッカーから人数分の雑巾を取り出すと1人分ずつ投げる。

彼女のコントロールはかなりよくて来たところにきっちり投げていた。

 確かにこの状況では鉄秤や路月や友絵に怒られないとしても、防衛大臣で厳しい従美には怒られてしまうだろう。


「さーてとぱぱっとやっちゃいましょう! 」


 彼女が必死で雑巾がけをしている姿を見て僕達も部屋の清掃を始める。詩音の力で床を乾燥させればいいのではないかと僕は思ったが何故わざわざこんなことをするんだろうと疑問に思ったがそんなことを聞くのは野暮としかいいようがない。


「雷電さん、雷電さん。」


 誰かに声をかけられていると思いながらその方向を向くと水羽が僕に手招きしていた。

手には癒月から受け取った雑巾がある。


「なんですか?水羽さん。」


 僕はそう言いながら雑巾がけをすると彼女は神妙そうな顔をして話をしてきた。


「わたし……正直に言います。実はアークゼノの存在がとても怖くて……戦えなかったんです。」


 彼女は手をふるわせながら雑巾がけをすると話を続ける。雑巾がけをしている時の動きと合わせて彼女の髪の毛の触覚も動いていた。


「だからわたし勇敢にアークゼノに立ち向かってる雷電さんに凄く憧れてたんです。そして……悔しかったんです。何も出来ない自分が。」


 彼女は雑巾がけをしながら途切れ途切れにぽつりと呟いた。彼女は僕に憧れていたという言葉を受けると同時に心の中で動揺が巻き起こる。


「アークゼノに狙われてる僕のどこに……。」


 僕はあまりにも理解出来ずにぽつりと呟く。アークゼノに勇敢に立ち向かえたのも全て自分がやらなければいけないという意識があったからこそだった。そして仲間に何度も助けて貰っている僕のどこが憧れるのだろうか。


「でも今まで雷電さんと付き合ってて分かりました。アークゼノという言葉に恐れたら何も出来ないんだって。だから……。」


 そして彼女は何か覚悟を決めたように僕の方を向いて言い放った。


「だからわたし、もう少し自信を持ちます。わたしだって“アークゼノ”に立ち向かえるって。」


 そう言った彼女の青い目はいつにも増して真剣そうに見えた。

確かに水羽は自分を謙遜けんそんしたりする言動がかなり目立っていたが僕達を見て自分も変わらなきゃと思ったのだろう。

 僕は彼女の決意にどこか成長を感じていると突然叫び声が聞こえた。


「おい!癒月はいるか!」


 僕はその声に思わず驚きながら声が聞こえた方向を向くと、そこには鉄秤がボロボロの姿でそこに立っている。

しかしその中でも彼の長い金髪はどこかキラキラと輝いていた。

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