9話:Gluttony (暴食)

「なるほどな。こっちも行くぞ! 」


詩音はシニカルに笑うと大剣でつるのようなものをズバズバと切り倒していく。

 まさに彼女の戦う姿は破壊の天使の1人と呼ばれているウリエルそのものに見えた。

そして詩音はトドメと言わんばかりに大量のつるのようなものに向かって大剣にある宝石を触る。

 すると炎の玉のような弾幕を展開していき、彼女は勝ち誇ったように叫んだ。


「“神の炎”! 」


 その炎に対して大量のはえが炎を防いでいた。仔細しさいに見てみると、表面にいたはえが詩音の攻撃を受けて散っている。

一体彼女の体は何匹のはえで生成されているのだろうかと疑問に思ったが、知ったところで何かしらの打開策が開けるとも思えなかった。


「ふふっ。甘いわね。こうするなら……“暴食の草”。」


 その刹那せつなつるのようなものが咄嗟とっさに水羽と癒月を捕まえて縛り上げる。

その後に詩音と僕にも襲いかかっていたが、僕は“ラミエル”をつるのようなものを突き刺してなんとか排除することが出来た。

 詩音も大剣で切りつけて捕縛ほばくから逃れるとニヤリと笑う。

それに対して捕縛ほばくされた水羽は砂那を睨むと、突然彼女に向かって詠唱した。


「離しなさい!“真理の雨”! 」


 その瞬間、突然の豪雨とともに僕達も含めて全員が時々降るひょうによって体を傷つけられていく。それを見た水羽は攻撃を止めようとしたが止まる気配も感じられない。

 そして水羽は攻撃の止め方が分からないような顔をしながら顔を青くして慌てふためく。

僕は部屋の中で雨が降るという異常事態の中でこの状況をなんとかする方法を考えようとしたが何も思いつかなかった。



「ふふふ……これ以上あたしに攻撃するとこのふたりがどうなるか分かるわよね? 」


 砂那は人型を形成してニヤリと笑いながら僕と詩音を脅している。

逆らえば最悪水羽が放った矢のように彼女に食べられてしまうことも考えられた。


 暴食――

7つの大罪の暴食はベルゼブブというのは誰でも知っているだろう。地獄ではサタンに次ぐ実力の持ち主で“皇帝”と評されているという記述があるのは講義で習っていた。


 僕が必死に頭を捻る。打開策を考えなければこの状況は変えられない。僕と詩音にできることはなんだろうか。

すると僕は1つの打開策をひらめいた。


「朝火さん。僕は水羽さんと雅楽さんを助けますから朝火さんは砂那さんと戦ってください。」


 僕は砂那さんに気づかれないように肺胞を震わせるような声で彼女に提案する。彼女達を助ける道はそれしかないと僕は確信していた。

ひょうがバチバチと音を立て、彼女に僕の声が聞こえているかどうか不安になったが不安になったがそれは杞憂きゆうに終わる。


「そんなことはしなくていい。2人を先に助けてから傷つければいい話だろ? あたし1人で充分だ。」


 彼女も僕のやっていることに配慮するかのように小声で僕に対して答えを返してきた。

彼女達を助けたとしても助ける前に砂那が何かしらの手を彼女達に下すかもしれないと僕は危惧きぐしている。最適解としては彼女達の救出すると同時に砂那を攻撃するのが1番良いだろう。

 しかしこれには問題があった。水羽が詠唱してから止んでいない雨とひょうである。

そのせいで詩音が炎でつるのようなものを排除して僕が救出する方法が最善だと考えたが、それが出来なくなってしまっていた。それならば僕が変身して救出すれば一番いいという結論しか出てこないのだ。


「1人では無理ですよ。僕は――」


 僕は彼女を止めようとしたが、途中で彼女の叫んだ声によって遮られてしまった。


「あたしに任せろ!トランスフォーム! 」


 それと同時に謎の光が襲いかかり、僕は思わず目を腕で塞いだ。至近距離だと目くらましをくらってしまうと七海と戦ったことで学んだのに忘れてしまっている自分に苦笑する。

そしてバトルアーマーに身を包んだ詩音は誇らしげに笑った。


 それと同時につるのようなものが突然消えてしまうと同時に何故か砂那の変身が解けて黒い特攻服のような姿になってしまった。


 なんとか癒月と水羽を救出したが、彼女達はひょう混じりの雨によって疲弊して動けなくなっている。

詩音が変身すると相手の技による攻撃を完全にキャンセルすることが出来るのだ。

僕は1度天魔との戦いで見ているはずなのにそれを考えていなかったことに思わず苦笑してしまう。


「“暴食の草”を解くとは…。異教徒はユルサナイ……ユルサナイユルサナイユルサナイ! 」


 砂那は発狂すると大量のはえとなって僕達を目掛けて襲ってくる。

先程からひょう混じりの雨を受けまくっていて、僕達全員の体はボロボロになっていた。詩音も先程の攻撃で体力を消費したのか荒い息で大量のはえを睨むことしかできない。

全員が水羽の攻撃によって満身創痍まんしんそういになっていた。


 ここは僕がやらなければいけない。

ふと僕はその言葉が頭をよぎる。味方が援護をしている中で何もしていない僕がこの状況を打破しなければいけないという意識がつき動かす。

 僕は覚悟を決めてマントを留めている六角形の宝石を握りながら叫んだ。


「トランスフォーム! 」


 その叫び声に答えるかのように謎の光が僕の体を包んだ。

この状況を打破するのはこの僕しかいないと勇気を振り絞りながら僕は詠唱する。


「“雷霆サンダーストーム”! 」


 僕は手のひらを大量のはえに向けて雷を落とした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る