8話:Assault (襲撃)

 詩音の声に反応したかのように中へと大量のはえが僕達に向かって襲いかかってくる。

 僕の頭が一瞬真っ白になった。

何故こんなことになっているのか頭が追いついていないのだ。

しかしそんな僕にはつゆ知らずといったように詩音は大量のはえに対してニヤリと笑うと口を開いた。


「“神の炎”! 」


 詩音が詠唱すると大量のはえに向かって火の玉を弾幕のように放つ。

すると大量のはえは炎に耐えきれなかったのか、燃えたあとに床へと大量に落ちると同時に動揺混じりの声が聞こえる。


「な!なんなの!こ、これは! 」


 その声に反応するかのように大量のはえが近くへと一気に集まって人のような姿を形成する。

まさか体が大量のはえで作られているのかと疑いかけた時、緑色の髪の毛の中年の女性が僕の目の前にいた。


 これはまずい――

僕がそう思った刹那せつな、癒月が詠唱する。


「“栄光の風”! 」


 彼女の詠唱によって突風が女性に襲いかかり、再び大量のはえとなっていく。

何故詩音も癒月も変身せずに技を唱えられるのだろうか。


 4大天使はミカエル・ラファエル・ガブリエル・ウリエルというのは知っている。それに対応するのは鉄秤・癒月・水羽・詩音なはずだ。

もしかしたら4大天使に選ばれたことで何かしらのアドバンテージがあるのかもしれない。


「くっ……風に炎に……。」


 女性は再び姿を現すと詩音と癒月を睨んだ。女性をはっきりと見てみるとどうやらはえをあしらったようなバトルスーツを身にまとっているようだ。


 はえ――

僕は再び天魔を見た時のような感覚が襲いかかる。

確かはえといえば……まさかそんな敵と僕達は対峙たいじしなければ行けないのかと思いながら、一瞬目眩めまいのようなものを感じた。

しかし天魔と出会った状況に比べて遥かに今の方がマシだが、予想外なことは起きて不利になるとは言いきれないのだ。


「いきます! 」


 突然水羽はにこりと笑って女性の方に矢を放った。彼女の少し姑息こそくな手に僕は意義を唱えたくなったが、彼女にはそんなことを言っている暇などないのだろう。

 すると女性は大量のはえになることもせず、素手で矢を掴むとその矢を何故か口の中へ入れ始めた。


「なっ……!? 」


 僕はその光景に思わず立ちすくんでしまう。壊れた扉から風が吹き込んでその女性の髪をなびかせている。

 残りは暴食と色欲――

そう考えると僕は彼女が何の悪魔の武器を手に入れたのかわかった。

しかしまだ確実な証拠が来るまで待とうかという考えがあったのも嘘ではない。


「ふふっ、こんな姑息こそくな手を使おうなんて悪い子ね。」


 その瞬間、突然水羽につるのようななにかが襲いかかる。

僕はそれを察知すると彼女の前に出て“ラミエル”でつるのようなものを排除しようと試みた。


「うぐっ! 」


 しかしそんな思いが通ったのか分からないが蔓のようなものによって胴に傷を受けたが、なんとか撤退させることには成功する。

僕自身かなり無茶な行動をしたとは思っている。しかし彼女の遠距離攻撃ではあの謎のものを排除出来ないのは目に見えていた。


「雷電さん……わたし、初めてあなたに……。」


 僕は水羽の方を振り向くと彼女は感激したような声を出していた。

彼女を守ってやると何度も言っていたがむしろ彼女に借りを作っていたが、今回初めて借りを返せたような気がして少し嬉しくなる。


「あぁ、借りを返しただけだ。水羽さんに怪我がなくてよかった。」


 僕はぽつりと呟くと彼女はにこりと笑う。

彼女の笑顔はとても可愛らしいなと思っていたが、すぐさま癒月の声で吹き飛んでしまった。


「水羽! 幻夢! 2人ともそんなこと言ってる場合!? そんなことはあの女性を倒してから言って! 」


 彼女はそう言いながら大剣を振り下ろしたが、彼女は即座に大量のはえとなって無効化してしまう。

おそらく彼女には物理攻撃を蝿化はえかすることによって無効化しているのだろう。

 そうなればやることはひとつしかない。


「朝火さん!水羽さん!雅楽さん!技で戦わないとダメですよ! 」


 僕は叫んで彼女達に情報を伝える。僕は変身をしなければ技は使えないので変身をしたいのだが、変身をするタイミングが見当たらずにただ時間を空費くうひしていた。


「わかったわ。あと……“癒す者”。」


 彼女の詠唱によって先程の攻撃を受けて出血していた僕の胴がみるみると癒えてくる。

そして完全に治癒した時に癒月はぽつりと呟いた。


「あなたを癒すだけでこれを唱えた訳じゃないですからね。死なれたら困るだけだから。

“栄光の風”。」


 彼女はそういった後に真顔になって女性に風の魔法を唱える。彼女が少し好戦的になったのも気のせいだろうか。まさにその姿は“ラファエル”を感じさせる。

そして疲弊したのか突然女性はひざまずいた。


「ふっ、キミは“アークゼノ”なんだろ?名前はなんて言うんだ。」


 詩音はそう言うと大剣を女性に向ける。すると突然女性は笑い始めた。何がおかしいのかは全く分からないがその笑い声に僕は凍りつきそうになる。


 これから何がまずいことが起きる――

僕の理論ではなく直感がそう告げていた。


「あたしの名前は薙王砂那なおう さな。さてこれから本気を出すわね。アーク達よ、ここから覚悟しなさい。」


 そう言うと女性は大量のつるのようなものを出すと、蔓のようなものは突然僕達に襲いかかってきた。

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