5話:Consideration (考察)
「おかえり。幻夢。ところで…お前は誰を背負っているんだ? 」
僕が施設の中へ入ると鉄秤が僕を出迎えてきた。
彼の質問に対して答えずに
どう見ても鉄秤と天魔がかなり似ているような気がしていた。
「幻夢、また考え込んでいるのか。」
僕は鉄秤に肩を叩かれてハッとする。
こんなことを考えるよりも先に詩音の容態の方が先だと心にいいきかせながら意識を失っている詩音を下ろす。
そして彼女をゆっくりと床に寝かせてから口を開いた。
「すみません。朝火さんがアークゼノと戦っていて……。」
僕は彼に状況を伝えたが途中で言葉が見当たらなくなり、遂には黙ってしまった。
それに対して鉄秤は詩音の状態を確認しながら僕に言葉を返す。
「どうやら詩音はただ気絶しているだけだな。幻夢、相手はどんなやつだったか? 」
僕は彼女の無事に
彼の見つめる黄色い瞳が天魔との瞳と重なって見え、その瞳に僕の心が段々と追い詰められていく感覚を覚える。
「幻夢、また考えているのか? 相手のアークゼノはどんなやつなんだ? 」
僕に対して鉄秤は再び同じ質問を突きつける。それと同時に僕の頭はぐちゃぐちゃになってしまい、思考がまとまらなくなってしまう。
「その件についてなんですがその人と御剣さんがそっくりだったんです。もしかしたら御剣さんは双子とか……。」
僕がそう言っていた時、彼は遮るかのように話し始めた。
改めて考えてみるといかにそっくりだったとしてもすぐさま双子と考えるのは野暮以外の何ものでもないだろう。
「オレには双子なんていない。しかし……それほどそっくりだったのか? 」
僕は頷くと改めて考え始める。
アークゼノは僕達のいるマノ世界とは別に存在しているゼノ世界にいる選ばれた者達だ。
僕達とは別の世界の者なので双子という線はありえなくなる。
しかしそうなると彼の言った片割れとはなんだろうか?
可能性があるとすればマノ世界の人とゼノ世界の人がリンクしているぐらいだろうか。もしそうだとしたら鉄秤と天魔はリンクしているという可能性が大きいだろう。
しかしアークもアークゼノは無作為に選ばれている場合だとすればその線は限りなく少なくなってしまう。
そうなるとしたらなんなんだ――――
僕は
「そっくり……か。幻夢、起きる事象で1番確率が低いものを知っているか? 」
1番低い確率――――
そんなことは1度も考えたことは無かった。
宝くじで1等が当たる2000万分の1ぐらいが僕の知識として関の山だが、彼のまともな顔を見ているとそのようなことを言うのが恥ずかしくなってくる。
僕は分からないような素振りをすると彼はニヤリと笑った。
「1番低いのはこの世に産まれてくる764兆分の1だな。」
彼はそう答えると金髪の長い髪を
「詩音が言ってただろ? マノ世界とは別のゼノ世界があると。
まず……ゼノ世界自体で人間が産まれていると思ってるのか? 」
確かにそう言われると否定はできない。ゼノ世界の人達が同じ人間だと思っている時点で間違っていたのだ。
だとしたらアークゼノは何者なのだろうかという疑問が更に深まっていく。
僕は情報が枯渇していてなおかつ未知の相手と戦うものほど恐ろしいものはないと痛感した。
癒月が前にアークゼノについて疑問に思っていたが、他のアーク達も疑問に思わないのか不思議な気持ちになる。
「いや、思っていないですが……。御剣さんはアークゼノについてどう思っているんですか? 」
僕は恐る恐る彼に訊ねてみると思わぬ回答が彼の口から飛び出してきた。
「アークゼノの事は正直言って考えるだけでも無駄だな。オレ達はマノ世界を守るためにアークゼノと戦っているんだ。」
「でも御剣さんは未知の相手と戦って怖くはないんですか! 」
僕は少し驚いたと同時に今までの考察を馬鹿にされたような気がして彼に訴えた。
「怖くはない。もちろん情をかけるつもりもない。あいつらのことは考えるだけでも無駄だ。」
彼は有名なプロゲーマーで2つ名は“
ゲーマーとして無駄なことを考えることが嫌いな理由は何となく分かるような気がする。
しかしこれだけの理由で彼がそこまで嫌いになるだろうか。
何もかも疑問に思ってしまったり色々考えてしまうのは僕の悪い癖だが、彼のような考えを持つのは難しかった。
「そうですよね。鍵さんもあのことは忘れてないと言ってましたよ。」
僕は反論できないと心の中で思いながらも話を逸らすような形で彼に言葉を返す。
できるだけ仲間同士が険悪になるのは良くないということは分かっていた。
「そうか。お前も頼りにしている。だから………死ぬなよ。」
彼は意味深な言葉を残すと癒月を探しに行くと端的に言って去っていった。
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