3章: Intensification (激化)

1話:Doubt (疑い)

 僕達は書佳を連れて施設へと戻ってきた。

そして中へのドアを開けるとそこには“ラファエル”を持った癒月が待っていた。


「どうしたの?あっ……。」


 僕と水羽の顔を見るや否や彼女は何か察したような顔をした。

水羽の後ろには書佳がいて怯えたように僕と水羽を見つめている。


「あの時の……これはみんなを待たなきゃ行けないわね。秘田さん、お菓子はいるかしら? 」


 彼女はにこやかに書佳にお菓子をすすめるが、彼女は怯えたまま首を横に振った。


 何かがおかしい――

僕の頭の中では彼女に対する違和感を訴えていた。僕達とは初対面ではないはずなのになぜ怯えているのかという疑問が頭にこびりついてくる。


「多分秘田さんは疲れていると思います。休ませたらどうですか? 」


 水羽は怯えている書佳の目を見ながら癒月に語りかける。

それに対して癒月が頷こうとした時、外への扉が開いて誰かが入ってきた。


「はぁ…………。」


 バトルスーツを返り血で真っ赤にした詩音が一息ついてゆっくりと中へ入る。

彼女の武器である大剣の先には血が滴っていた。

それを見て僕はぎょっとしたが、彼女は涼しい顔で僕を見ている。


「詩音さん、またですか。」


 癒月は呆れながら詩音に話しかける。すると彼女はどこか暗い顔をして椅子に座った。

どう見てもいつもの詩音とは違った雰囲気に違和感を覚える。

彼女に一体何があったのだろうか。


「朝火さん、どうしたんですか。」


 僕は恐る恐る彼女に訊ねる。すると彼女はうつむき始め、ぽつりぽつりと呟き始めた。あまりにも彼女らしからぬ姿に僕は不安を感じる。


「人を守れなかった。あと1歩早ければ……。」


 彼女はエラーの手からある人を守れずに意気消沈いきしょうちんしているようだ。

彼女の場合そっとした方がいいのではないかと思いながら、僕は何も言わずに詩音の隣にある椅子に座ろうとした時、書佳が口を開いた。


「貴方達が生きていればそれでいいのにどうしてそんなことを言うの? 」


 エラーは“アーク”の持っている武器ぐらいでしか倒せない。自分の命が1番大事なのは分かっている。

しかし元々マノ世界を守るために“アーク”になっているのだ。他人を見捨てて世界を守るのはなにかおかしくないだろうか。


「何っ!?キミは人々を見捨ててもいいのか! 」


 突然詩音は顔を真っ赤にして書佳に掴みかかる。彼女の赤い目はまるで敵を見るような目で従美を見つめていた。

人の安全を守る職業である警察官の宿痾しゅくあがその言葉に反応して怒りの火をつけたのだろう。


「それよりも早くあの現象を止めないと……。」


 激昴している詩音に対して書佳は涼しい顔で彼女に反論する。

どうやら彼女は他人のことなどあまり考えないようだ。その考えは間違っていないので意見としては受け止めるが、僕としては詩音の方を支持したい気持ちだった。

 詩音は書佳の胸倉を離したあと、水羽はぽつりと呟く。


「その通りだわ。本命はこの世界を守ることじゃないですか。人々を助けるのも大事ですがアークゼノを倒さないと本末転倒ですから。」


 確かに彼女の言うことは間違っていない。僕は唇を噛んだ時、突然詩音が僕に耳打ちしてきた。


「あの人おかしいぞ。」


 僕にとっては彼女のどこがおかしいのかはっきりと分からなかった。それを言うならば何か彼女はおかしいと思った証拠でもあるのだろうか。

 とはいえ僕にも少しは彼女がおかしいという証拠はあった。その証拠により確信に変わればいいのだが変わる気がしないという気持ちもないと言えば嘘になる。


「そうですね。この人の言う通りだわ。」


 書佳がそう言うとしばらくの間無言の時間が流れる。

僕は聞き耳を立てているせいか、その時間がかなり長く感じていたがようやく書佳が口を開いた。


「えっと……皆さん名前なんと言いましたっけ? 」


 確か僕達と書佳が初めて出会ってからそんなに1年も経ってないはずないのに、どうして名前を忘れているのだろうか。

もしかしたらイレギュラーによって混乱して忘れている可能性があるかもしれない。

 しかしそれ以降に僕は2度も彼女を助けて1回目に名前を言ったはずだ。忘れているなんてありえない。


「私は白百合 水羽です。私の隣にいるのが雷電幻夢さんで――」


 水羽は懇切丁寧こんせつていねいに書佳に教えていた。そして紹介し終えると彼女は水羽にお礼を言い始める。


「水羽さん、ありがとうございます。では私はこれで――」


 書佳はそう言いかけた時、突然詩音が彼女を止めた。


「ちょっと待て、これから2人で話をしないか?胸倉を掴んで怒ってしまったびもねてな。」


 彼女はそう言うと怯えた顔で詩音に対して頷くとドアを開けた。びるなら僕達のいる前でもすればいいのに、なぜ彼女は2人きりでするのだろうか。

 おそらく彼女は別の理由があって2人きりにしたのだ。もしかしたら疑わしい証拠でも突きつけるかもしれないと考える。


 僕は横で話をしている水羽と癒月を横目に、詩音と書佳が閉めた扉へと向かった。

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