23話:Maverick (一匹狼)

 「貴方達、みんなが集まっているというのに何をしているのかしら。」


 従美は鋭い目で僕と詩音を睨みつけていた。彼女の態度から怒りのオーラを発しているのがはっきりと分かる。


「申し訳ない。全てあたしの責任だから幻夢をいじめるのはやめてくれ。」


 詩音は怒りのオーラを発している従美を物怖じせずにはっきりと言った。彼女の赤い目はただ従美を見つめている。


「ふん、もう集まらなくていいわ。

言う事としてはまたあの化け物が人々を襲っているから貴方達は戦ってちょうだい。」


 そう言って彼女は詩音を睨むと乱暴に扉を閉めた。常に上から目線の彼女の発言には少し苛立いらだちを覚える。僕は軽くため息をついた。


「ごめん、幻夢。あたしがまた空気を悪くしたな。じゃあ失礼するよ。」


 彼女はぽつりとそう言うと僕の部屋を出ていく。

やはり彼女は自分が殆どの責任を負うふしがあるように感じた。


 なぜ彼女は責任を負うのだろうか――

警察官としての宿痾しゅくあだとしても彼女の場合は過度のような気がする。しかしそうだとしてもそれに対する明確な答えは出てこない。

 僕はため息をついて自分の部屋を出た。


「幻夢さん。どうしたのですか? 」


 僕は外と部屋の間にある廊下を歩いていると死角から水羽が出てくる。

あの時重傷を受けたのに大丈夫だろうかと心配になったが、見た感じ元気そうで僕は安堵あんどした。


「いや、ちょっと朝火さんのことを考えていたんだ。朝火さん、基本1人だよな。」


 僕は水羽に詩音のことについて言った。

少しどもってしまったのは、影で詩音の事を言っていいのだろうかというちょっとした罪悪感から生まれたものだろう。


「そうですね。私は前に街に行こうと言ってもきっぱりと断られましたから。朝火さんは一匹狼なのかしら……? 」


 一匹狼――

この言葉を聞いて僕はまるで雷に撃たれたような衝撃が走った。

確かに詩音は自分の意見ははっきり言うし、真面目な所もあるし行動力も高い……。

そう言われるとまさに典型的な一匹狼とは彼女のことではないかと思えてくる。


「なるほど。確かにそうかもしれませんね。」


 僕はその事に集中していて曖昧あいまいな受け答えしか出来なかった。そんな答えに対して彼女は少し怒ったように頬を膨らませる。

頬を膨らませた彼女も可愛いと思ったのは僕だけだろう。


「もう……。それよりも幻夢さん。一緒にまた戦ってくれますか? 」


 そう言いながら彼女は人懐っこい笑顔を見せた。そのような笑顔を見せられたら僕は断りきれなくなる。

僕は彼女の笑顔を見ながら頷くと外への扉を開いた。


「グルルルル…………。」


 しばらく歩いているとエラーが僕達を睨むと僕に向かって襲いかかってきた。

僕は躊躇ためらいもなくエラーに対して“ラミエル”で突き刺す。

 するとエラーは僕の攻撃を弾くと鋭い鉤爪を僕に向かって振り下ろしてきた。

それと同時に矢が放たれるような音がする。気づくと化け物は矢が貫通して倒れていた。


「水羽さん、また――」


 僕は彼女にお礼を言おうとしていたその時、別のエラーが彼女を襲おうとしていた。

彼女は気づいていないのでここは僕が助けようと思っていたが、突然エラーの体が発火し始める。

 これはまさかと思いながら僕は周りを確認すると近くには詩音がいた。

発火を見てまさか美火が僕に襲いかかってくるのではないかと警戒していたが杞憂きゆうに終わったようだ。


「2人とも大丈夫か? 」


 詩音は凛とした表情で僕達に訊ねた。

彼女の紅色のウルフカットの髪の毛が風にあおられている。

僕は頷くと詩音はよかったと軽く行った後にきびすを返して去っていった。


「やっぱり朝火さんは……。」


彼女が去った後に水羽がぽつりと呟いていた途中で絹をさくような悲鳴が聞こえる。

 この声はどこかで聞いたことがある――

僕は何かに駆られたように悲鳴の聞こえる方へと走っていった。


「キャーーーーー! 」


 どうやら書佳がまたエラーに襲われているようだった。

僕はある既視感きしかんを感じながらもエラーに対して“ラミエル”をジグザグに動かして攻撃する。これならば相手に防がれることはないだろう。

 あんじょう化け物は僕の攻撃を避けきれずに突き刺さり、悲鳴を上げながらばたりと倒れる。

僕は慣れた手つきで“ラミエル”を抜くと彼女の方を向いた。


「あ、あの……また……。」


 書佳は怯えながら僕の方を見ている。これにも既視感きしかんを感じていた。

彼女の濃い翡翠ひすい色の髪の毛が風でなびいている。


「あっ!幻夢くんどこに――あっ……。」


 ようやく水羽が追いついたらしく、明るく僕に話しかけようとしたが書佳を見た途端に彼女は冷静になる。

少し無言の時間が流れたあと、書佳はぽつりと呟いた。


「あの……私、ついて行っていいですか? 」


 僕は二度あることは三度あるというように断って彼女がエラーに襲われるよりもここで保護した方がいいと判断する。

そして彼女に答えるように僕と水羽は頷くと書佳と共に駐屯地のような所へと向かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る