20話:Reveal (種明かし)

 僕はその言葉を聞いて困惑した。

颯爽さっそうと現れて敵を倒すなんてどう考えてもヒーローは鉄秤では――


 その時、何か耳にパチンという音が聞こえて僕は我に返った。鉄秤のポーズを見る限り、僕の耳の横で彼が指を鳴らしたようだ。

 僕が彼に気づくと彼は少し笑った。そんな彼を見て僕も思わず笑顔になる。


「また考え込んでるな。オレがああ言ったのはお前があいつにトドメを刺したからだ。

トドメを刺したのはオレじゃない。幻夢だろ? 」


 いや、違う。トドメは僕がやったとしても、ほとんど鉄秤がやったことじゃないかと思いながら僕は彼に向かって反論する。


「でも僕は彼に殺されかけたし僕は何も――」


 すると鉄秤は真顔で僕に対してぽつりと呟く。その時の彼の黄色い目が鏡のように僕を映し出していた。


「幻夢、自分を卑下ひげするな。お前がいなければあいつは確実に倒せなかった。

 オレはただお前をサポートしただけだ。違うか? 」


 鉄秤は僕の肩を再び叩くとにやりと笑った。


『――君が居てくれてよかった。』


 僕はふと路月の言っていたことを思い出す。

鉄秤も路月と同様に僕が居てくれてよかったと思っているだろう。それは僕も同様だった。

 僕は背を向けて帰ろうとした時、突然誰かに止められる。


「幻夢さん、ちょっと待ってください! 」


 その声を聞いて僕は振り向くと、そこにはナイフを持っている愛麗が居た。

その横には友絵が申し訳なさそうな顔をしながら僕と鉄秤の顔を交互に見ている。


「幻夢さん、助けてくれて本当にありがとうございます。あなたがいなければこの街の人々はみんな死んでいたでしょう。」


 愛麗はにこりと笑うとすぐに真顔に戻る。

そして自分の髪の毛を手でなびかせながら話を続ける。


「あと……相方のトモちゃんをこれからもよろしくお願いします。」


 愛麗はそう言って礼をすると友絵を置いたまま背を向けて去っていった。

 僕がいなければ街の人達は助けられなかっただろうという言葉がナイフのように僕の胸に突き刺さる。

 確かに周りの人が力を抜かれている間、僕が1人で戦っていたのだ。

それは誰が言おうとも変わらない事実だろう。


 僕はにこりと笑って彼女を見送った後、再び背を向けて街を去ろうとする。

後ろには鉄秤がにこりと笑って僕について行く。

 そしてその動きに友絵は慌てながら僕達の後を追った。



「あの……御剣さん。」


 僕は彼の後ろを歩きながら声をかける。

彼にあることを訊きたかったのだ。

今聞かなければもうその機会はない可能性が高くなるという強迫観念きょうはくかんねんが僕の心を支配していた。


「幻夢、何かあるのか? 」


 彼は足を止めると僕の方を振り向く。

夕日をバックに彼の姿が写り、どこか神秘さを感じた。


「御剣さん、言いづらいんですがあの時どうして電波塔に登ったんですか? 」


 僕にはあの事の謎がこびりつくようには残っていた。

 電波塔には避雷針があるはずだ。しかしどうして黎斗は雷を受けて大きな傷を受けたのかか分からなかったのだ。

鉄秤はふっと笑うと再び歩きながら口を開いた。

 砂利道に入ったのか歩くと砂利と砂利が擦れ合う音が辺りに響く。彼の横では友絵が無言で鉄秤と僕の話を聞いていた。


「幻夢、避雷針は知っているか?それと避雷針がどのような効果を引き起こすのもな。」


 元々雷はマイナス電荷であり、地面のプラス電荷に状態を解消するために起きる現象だ。

 その落雷から電波塔などの建築物を守るために生まれたのが避雷針である。

最近はマイナス電荷を出して雷を抑制するタイプの避雷針もあるが、プラスの電荷を出して引き寄せた後に地面に誘導するタイプが主流だ。

 だとすると地面へと鉄骨を伝って雷の電流が外部に流れるとなれば――


 その時僕はハッとした。避雷針があったとしても内部は守られるが外部は危険なのだ。

それを知っていた鉄秤はそれを狙って感電を逃れるために電波塔から飛び降りたのだろう。

 しかしそれには僕が雷を出せるという知識がなければ無理なはずだ。僕が再び考え直そうとすると再び鉄秤が話をし続ける。


「まぁ……わかんないだろうな。とにかく……良かったな。」


 彼はニコリと笑うと誤魔化すかのように僕の肩を再び叩いた。

 何故彼は誤魔化したのだろうか。

僕はふと彼を見て疑問に思ったが、答えは出てこない。

 彼には会った時から僕達の名前を知っているなどおかしな所があったが、色々なことを考えてみても何も浮かばず、時間だけが過ぎていた。


 これとは別にもう1つ謎が残っていたが、彼が話したことによって謎が解かれてしまった。


「あと情報を共有しておこう。変身を解いてる間は無敵になる。これがなければオレは死んでたな。」


 そう言いながら彼はにやりと笑う。すると横から聞いていた友絵が目を丸くしながらぽつりと呟いた。彼女の童顔と相まって大人に新しい事を訊く子供のように見えてしまう。


「お約束ってやつね。なんというか……戦隊ヒーローっぽいね。」


 彼女の武器である銃の宝石がキラキラと夕日で輝いている。確かに彼女に言われればそのような気がしないでもない。


「あぁ、そうだな。」


 僕はそう言いながら少し笑う。

夕日が沈んでいき、夕焼けの空が段々と暗くなっていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る