19話:Destroyer (破壊者)

 「御剣……さん? 」


 僕は満身創痍まんしんそういになりながら出血している右腕を左手で押さえながら鉄秤を見る。

太陽の光を浴びて輝く彼の姿はまさしく救世主ヒーローのようだった。


「ゲームか、いいだろう。“アケディア・オプスクリータース”よ――」


 黎斗はゆっくりと詠唱しながらもやのようなものを周りに浮かせようとした。


「“正義の刃”! 」


 それに対して鉄秤は光の玉を作ってもやのようなものを消し飛ばした。

そして黎斗に急接近して右頬に目掛けて拳で殴ると黎斗は左に吹き飛ばされてバランスを崩す。

 しかしすぐさま彼は唇から血を流しながらもバランスを戻して鎌を構えた。


「貴様、なかなか楽しませてくれるじゃないか。」


 黎斗が鉄秤を目掛けて鎌を振り下ろしたが、彼はそれをひらりと身をかわした。

 彼がプロゲーマーだからこそ、相手の動きを察知してカウンターをとることが得意なのかもしれない。

誰もが鉄秤と黎斗の戦いに夢中になっているのかそれとも力を抜かれて逃げれないのか分からないが、誰もその場を動く人はいなかった。


「まぁな。幻夢や友絵だけではなくこの街の人を傷つけたことが許せないからな。」


 鉄秤は真顔で言いながら流れるかのように剣を抜き、彼の右腕を斬りつける。

その姿はまるで彼の体を別の誰かが操作しているような鮮やかな動きだった。


「まだ我はやられはせん!トランスフォーム! 」


 黎斗はそう叫ぶと黒い光が彼の周りを包み込む。

そして熊をモチーフにしたようなバトルスーツに身をまとった黎斗が鉄秤に襲いかかった。


 確かベルフェゴールを動物の姿で例えると熊だと言うのは知っている。他にも牛や蝸牛かたつむりなど色々説があるのだがよく覚えていない。


「さてとオレの動きについてこれるかな? 」


 鉄秤は余裕そうな顔をしながら黎斗に接近して剣で横へ斬りつける。

しかし黎斗はそれを鎌で受け止めて剣と鎌の擦れるような音が辺りに響いた。

 そして軽くいなした鉄秤は何か閃いたのか、マノ東京のランドマークである電波塔の展望台の部分に鉄骨を飛び移りながらも登っていく。


「貴様……逃げる気か? 」


 黎斗はにやりと笑いながら鉄秤を見上げている。

何故鉄秤は電波塔に飛び乗ったのかよく分からない。しかし彼にはこの電波塔が勝利のカギになると思ったのだろう。

 彼の長い金色の髪が眩しいほど輝いて風になびいていた。


「オレはただ無関係の人を傷つけたくないだけだ。ここで戦わないか?もしかしてお前は高いところが苦手か? 」


 鉄秤はそう言いながら黎斗を挑発する。すると彼は鉄秤の挑発に乗ったようで、彼と同じ要領で電波塔に登っていった。

 恐らく展望台と地上からは150メートルある。もし足を滑らせたら命は無いのは確定だろう。

僕はヒヤヒヤしながら上を見上げると鉄秤が突然飛び降りると同時に叫んだ。


「幻夢!雷を撃て! 」


「はいっ!“雷霆サンダーストーム”! 」


 何故なんだと僕は思ったが鉄秤のあまりの言葉の強さにそうせざるを得なくなり、僕は彼の言うとおりに電波塔に向かって雷を放った。

それと同時に“ラミエル”から声が聞こえる。


「全く……博打と来たか。高いところから雷を落とすとは。自分の命を犠牲にしてまでやるとは素晴らしい。」


 しかしそこには重大な欠陥があった。確かこのような建物には避雷針があるはずだ。もしあったとすると雷を落としても無意味になる。

 そして飛び降りた鉄秤は――


 目を開けると突然、後ろから肩をたたかれる。

僕は慌てて後ろを向くと、そこにはかすり傷ひとつもない普段の姿をした鉄秤を見ると同時に僕は変身が解けた。

 ラミエルが言うには、地上150メートルから生身で飛び降りるとバトルアーマーがあったとしても命はないはずなのにどうして生きているのだろうか。


「また幻夢は考え込んでるな。路月から言われただろ。今は考えるなってな。もしあいつがまた襲い――」


 鉄秤は僕が気づいた途端、急に真顔になって話しかけたが、その声は友絵の叫び声によってかき消された。それと同時に街の人達の歓声も聞こえる。


「御剣さん!幻夢くん!上を見て! 」


 彼女の声に導かれたように僕と鉄秤は上を見上げると、そこにはボロボロになった茶色い鉄板のような布のような破片が風に舞っていた。


 もしかしたら僕はあの人を殺してしまったのかもしれない――

僕は上を見上げながらも段々と罪意識を感じたがぐに思いとどまる。

“アークゼノ”を滅ぼさなければ僕達のいる“マノ世界”が滅びるのだ。


「どうやら逃げたみたいね。今度アイレちゃんに手を出したら許さないんだから! 」


 友絵が僕の横で突然思いっきり叫んだ。逃げたというのはどういうことだろうか。

もしかしたら落雷の衝撃で彼のバトルアーマーが壊れて破片になったが、それをカモフラージュにして死んだと思い込ませているのだろう僕は結論づける。

 それを確信に変えるために黎斗が死んだという事を確認するすべを持っているのだが、僕は鉄秤のようにあの電波塔に登る勇気はない。


 しかし何とか何度目かの難を逃れて僕は胸をなでおろす。

正直言うと鉄秤だけで何とかなったものだがとにかくやったのだと感慨にけていると、突然鉄秤が僕の肩に手を置いて耳元で僕だけに呟いた。


「幻夢。お前がヒーローだ。」


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