18話:Lazy (怠惰)

 悪い予感がする――

理屈でなく直勘が僕にそう告げている。

 男性は黄緑色の長い髪をなびかせて、僕達を無視すると愛麗の方を見つめた。


「アイレちゃんに近寄らないで! 」


 友絵はその男性に向かって銃を撃つ。もしかしたら愛麗にそれが貫通しないかと不安がよぎった。

しかし何故か男性の前で銃弾が急激に遅くなり、男は愛麗に抱きつきながら避ける。

そして男性は彼女の顎を持ちあげて、満足げな顔でぽつりと呟いた。


「美しい……不完全で愚かな下等生物とは違う……。」


 男性が怯えている愛麗に向かって何か言っている姿は変態としか言いようがない。

そんな姿を見ながら助けたい気持ちになったが、僕は体が固まったかのように何も出来なかった。

僕に対して男性の呟きを遮るかのように、友絵が気分を害したような顔をしながら男性の頭に銃を向けて言い放つ。


「あのねぇ!アイレちゃんに触れないでくれる! 」


 友絵のあまりの剣幕けんまくに男性は少しにやりと笑いながら彼女の方を向く。あまりにもねっとりしたような動きが不気味な雰囲気をさらにかもし出していた。


「下等生物どもが……我の契約の邪魔をしないで欲しいね。」


 その男性の声と同時に突然友絵が力が抜けたように倒れる。

ひと睨みで人に危害を与えるその姿はあの時の路月と少し似ているような気がしていた。


 ”アークゼノ”

 僕の頭に浮かんだ言葉が段々と大きくなり、襲い掛かりそうな感覚を覚える。


「トモちゃん……幻夢さん……助けて……。」


 愛麗が震えるような声で僕と友絵を見つめている。彼女の翡翠ひすい色の目には涙が溜まっていて、今にでもあふれだしそうだった。


 彼女を助けなければ――

僕は初めて正義感に燃えるような感覚に襲われながら“ラミエル”を男性の方に向けた。彼女を助けられるのは僕しかいないのだと勇気を奮い立たせる。

 僕のオーラに気づいたのか男は面倒くさそうな顔をしながら僕の方を向いた。


「はぁ……だから下等生物は直ぐにオーバードライブするから望まない結末になるのだ。

我と決着をつけるつもりか? 」


 男性は僕をあざけりながら鎌を抜いた。

厨二病と判断せざるを得ない彼の台詞に僕はやや抵抗感を覚える。


『恐れてはダメだ、堂々と戦っていけ。』


 この言葉は父親から教えられてきた言葉だ。敵がたとえ大男であっても不気味であってもいざと言う時には恐れずに立ち向かわなければならないのだ。


「勿論です。トランスフォーム! 」


 僕は一息おいてラミエルを掲げて叫ぶ。

謎の光が辺りを包み、バトルアーマーを身にまとった。


「いくぞ!“雷霆サンダーストーム”! 」


 僕は男性に向かって雷を放つ。

しかし男性は軽々とかわすとめんどくさそうに鎌を僕の首元に振り下ろしてくる。

 僕は何とか“ラミエル”で受け止めた。

ここではやられる訳には行かないという強い思いがどんどん力になっていくのを感じる。

そしてしばくの間、膠着こうちゃく状態になった。


「全く……天使に選ばれし者もこの程度か。」


 男性は緑色の髪の毛を揺らしながら攻撃をいなし、バランスを崩した僕の右腕に鎌で切りつけた。

その攻撃はバトルアーマーを貫通し、僕の右腕に痛みが襲いかかると同時に血が流れる。


「ぐっ……! 」


 僕はうめきながらも何とかバランスを戻し、男に接近して“ラミエル”を突き上げた。

すると男はにやりと笑いながら攻撃を受け流して“ラミエル”をつかもうとしたが、謎のバリアによって弾かれて男は痙攣けいれんする。


「あんな男が我に触れるなど無礼だ! 」


“ラミエル”から激昴げきこうしたような声が聞こえる。彼のその隙を突いて僕は雷を放つと男に直撃してひざまづいた。


「幻夢くん、頑張って……。」


 友絵の弱々しい声が僕の耳に入る。彼女は抜けた力を何とかしようと踏ん張っていた。

僕も頑張らくてはと気合を入れる意味で“ラミエル”を構える。


「ふん、やるな。我の名は大熊黎斗おおぐま あきとだ。貴様に我の本気を出させたことを後悔させてやろう! 」


 彼はそう言いながら僕に手を向けると黒いもやのようなものが僕に襲いかかろうとする。戦っている時の台詞はかっこいいのに、普段はなぜあんなに変態みたいな台詞を吐けるのか僕には理解できなかった。


「“アケディア・オプスクリータース”よ!あの男を捕らえよ! 」


 黎斗は躍起やっきになりながらもやのようなものを追跡させる。


 怠惰たいだ――

7つの大罪の怠惰たいだはベルフェゴールだと言うのは僕も知っていた。

 確か人間観察を行って、不完全な生物だと結論づけたのはベルフェゴールだと言う話を資料で見た記憶がある。


「やられるものか! 」


 僕は雷でもやのような物を攻撃した。しかしそのもやは消えることも無く、僕に絡みついて拘束する。

抵抗してみるものの、むしろ拘束したものが体を傷つけて気づけば僕の体はボロボロになっていた。

 その姿を見て黎斗は僕を馬鹿にするように高笑いしながら僕の首元に鎌を向ける。



 殺される――

そう思い始めた刹那、突然辺りを光が襲いかかる。その途中で黎斗の悲鳴が聞こえるものの、目を開く事が出来ないので確認することは出来ない。

 光が消えて目を開けると、僕の目の前には黄色いバトルアーマーを身にまとっている男が黎斗と向かい合うように立っていた。


「ようやく間に合ったようだな。

さてと、オレとゲームをはじめようか。」


 その男は金髪の長い髪をなびかせ、黎斗に向かって言い放った。



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