17話:Diva (歌姫)

 「えっ……アイレちゃん? 」


 友絵は動揺していた。そして友絵と女の子は2人で手を組んで再会を喜んでいる。

それに対して僕は彼女がまさか友絵と知り合いだという事実を突きつけられて動揺していた。


「えっと、彼女の名前はなんでしょうか? 」


 僕は動揺しながら友絵に訊ねる。昼間の太陽が桃色の彼女の目とマントを留めている宝石をキラキラと輝かせていた。


「えっ? 彼女は“ディーバーズ”の相方の平和愛麗ひらわ あいれだよ。幻夢くんは知らなかったの? 」


 相方ということは、つまり“ディーバーズ”は2人組のアイドルグループなのだろうか。

そして僕はこの2人は一体どのような歌を歌うのだろうかと疑問に思っていた。


「彼がわたくしの名前を知るはずもないですわ。

先程は申し訳ありませんでしたわ。まさかトモちゃんの知り合いに手を出そうとしていたなんて……。」


 愛麗は僕に対して頭を下げる。僕は大丈夫だと軽く言うと彼女は頭を上げた。

彼女の橙色のロングヘアーが風になびく。その髪が彼女の色白の肌にあいまって美しく見えた。


「ところであなたの名前はなんでしょうか? 」


 彼女は少しかしこまって名前を聞く。先程から口調を聞く限り、どこかのお嬢様じょうさまみたいな雰囲気を感じた。


「僕は雷電幻夢って言います。えっと……愛麗さん、よろしくお願いします。」


 僕はにこやかに愛麗に手を差し伸べると、彼女は恐る恐る手を掴んで握手をして直ぐに手を離してしまう。

彼女の表情を見る限り、どうやら彼女は握手に慣れていないように感じた。


「はぁ……。しかしこの街も深刻なことになりましたわ。一体何が起こったのですか? 」


 愛麗はため息をついて街を見回していた。彼女の翡翠ひすい色の瞳が荒れ果てた街を映し出している。

その後にしばらくの間は無言になっていたが、それを打破するかのように友絵が口を開いた。


「友絵達のいる“マノ世界”と“ゼノ世界”が融合するイレギュラーっていう異常現象が起こったの。」


 そして彼女は愛麗にアークが得た情報を伝える。するとそれを聞いていくうちに彼女の顔は段々と青ざめていく。


「それは、本当なのですか?そうだとしたらかなり深刻ですわ。」


 全ての話を聞き終えた愛麗は震えた声でぽつりと呟いた。本当の話だと信じたくなかったのだろう。

しかし荒れ果てた街や土地がそれを現実だと物語っていた。


「このままだと人々も街と一緒に荒れ果ててしまいますわ……。」


 愛麗は腕を組んで周りを再び見回していた時、友絵がなにかひらめいたようで書佳の肩を叩いて言った。


「あっ、そうだ!アイレちゃん。“ディーバーズ”のあの曲を歌わない? 」


 友絵は笑顔を愛麗に向けると彼女も笑顔になる。

 歌で周りを元気づけさせる――

僕はなかなか悪くないことを考えたのではないかと友絵に感心した。


「そうね。歌いましょう。わたくし達のデビュー曲を。」


 愛麗はにこりと笑うと友絵に向かい合うようなポジションをとると、2人とも真面目な顔になって歌い始めた。

 2人の歌声は爽やかで、周りを元気づけさせるような雰囲気を感じる。

そしてダンスも息が整っていて歌声に上手くマッチしていた。


 これがアイドルの力なのだろうか――

僕は歌いながら踊っている彼女達を見ながらそんなことを思っていた。


 歌の力は偉大で、人々を嬉しい気持ちにさせたりはたまた悲しい気持ちにさせたりなどして様々な感情を与えてくれる。

そして歌だけなら歌手でもできることだが、ダンスも一緒となればアイドルにしかできない。

 彼女の歌声とダンスが上手く噛み合わさっているからこそ、人をより元気づけさせたりする力を増幅ぞうふくさせることが出来るのだ。


 遂に彼女達の歌もサビに入って2人の歌声がハーモニーを奏で始め、ダンスもより激しい動きになっていく。

その声に誘われたのか、気がつけば僕達の周りには人々が集まっていた。

 1部の人は彼女達の歌声に感動したのか、涙を流しながら彼女達を見ている。

人々はイレギュラーによって変わった土地で過ごして不安や焦りのようなものを感じていたのだろう。

 それが彼女達の歌声やダンスでやる気や元気に置き換わっているのだ。


 そして歌い終わった時には全員が歓喜の声を上げ、外なのに割れんばかりの拍手が彼女達を出迎えていた。

それに対して僕はその光景を見てただ呆然と立ち尽くしていた。まさかここまで大盛況になるとは思っていなかったのだ。


「幻夢さん……。わたくし達、やりましたわ! 」


 愛麗もあまりの大盛況に驚きと嬉しさを前面に出していた。彼女の翡翠ひすい色の目にはうっすらと涙が見えたのは気のせいだろうか。


「あぁ、よか――」


 僕がそう言いかけた時、愛麗や周りにいた人々が突然力を失ったように座り込んでしまった。


「な、なんなの!? 」


 友絵が動揺しかけた時、僕達の目の前に男性が現れる。

その男性は僕達を指さしてあざけるように笑っていた。

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