16話:Snake (蛇)

 その光は段々と消えていくと彼女のバトルアーマーを見に包んだ姿があらわになった。

彼女のバトルアーマーには所々ところどころにフリルがあしらわれていて、魔法少女のような可愛らしい印象を受ける。


「七海さん!この友絵が成敗せいばいするから! 」


 彼女は勢いよく彼女を指さして言い放つ。彼女の桃色のサイドテールが風に揺れていた。


「ふふ、やってみなさいよ。絶対に後悔させてやるから。」


 七海は変身でさらに長くなったポニーテールが、風でなびきながら真顔で友絵を見つめている。

僕は何とか体力を回復させてから立ち上がると“ラミエル”を構えた。


「上地さん、僕と共闘きょうとうしましょう。蛇は僕が処理するから上地さんは古蛇さんをよろしくお願いします。」


 僕は肺胞を震わすような低い声で言う。

高い声だと七海にこれからやることを気づかれてしまう恐れがある。そのことを聞いた後に友絵は頷くと、七海の方へと駆けていった。


「さてと、僕が相手するよ……。かかってきなさい! 」


 八岐大蛇ヤマタノオロチのような威厳を放っている5匹の蛇は、獲物のような目で僕をにらみつけている。

友絵が先程3匹処理したらしいが、それでも5匹いるなんて信じたくなかった。

しかしやらなければいけない。活路を開くのは自分しか居ないのだ。


「シャー! 」


 そのうちの1匹が僕に向かって噛み付こうと口を開いた。粘りつく大蛇の唾液だえきと鋭い牙があらわになり、鼻がもげそうな程の異臭が鼻を突く。


「はぁっ! 」


 僕は“ラミエル”を大蛇の口に突っ込んだ。大蛇は驚いたように目の虹彩こうさいが小さくなったあとに口から大量の血液が僕に降りかかった。

その血液が僕の体をほぼ全身真っ赤にしていた。

 僕が“ラミエル”をゆっくり抜いてもまだ大蛇の血液は出続け、ばたりと倒れても壊れたポンプのように血液を吐き出していた。


 この状況を見て他の大蛇たちは僕に対して恐れをなしたようで、身を引こうとする。しかし七海の声で大蛇はビクリと跳ね上がった。


「“嫉妬しっとの蛇”……。全くあなたたちは使えないわね! 」


 その声と同時に大蛇達は急に活気づき始め、僕に襲いかかってきた。

これは厳しいかもしれないと思っていると何故か“ラミエル”から声が聞こえる。


「我の雷の力を使いなさい。我も協力する。」


 僕はその言葉に頷きながら“ラミエル”に雷の力をまとって大蛇に向かって“ラミエル”を突きつけると太いビームとなって大蛇に襲いかかる。

まさか“ラミエル”が力を貸してくれることによって力が増幅ぞうふくするとは思っていなかった。

 技の名前は“稲妻槍ライトニングランス”の進化系として“雷神槍ライジングランス”と言ったところだろうか。


「フォ、フォ、フォォォォォォォォン! 」


「フォォォォォォォォン! 」


 大蛇達が蛇らしくない叫び声を上げながら大きな音を立てて倒れた。


「くそっ!“怪物の大洪水”! 」


 しかしその蛇達に気を取られすぎて七海の洪水による攻撃を避けきれず、水に流されて建物に衝突する。


「幻夢くん! 」


 友絵が銃を七海に向けたまま驚いたような声を出していた。

僕は建物に衝突したとはいえ、頭を打ったわけでもなく、水が衝撃を吸収したのか怪我はしていない。何とか立ち上がると血液が洗い流されていつもの色に戻っていた。


 もしかしたら七海には優しさがあるのかもしれないと思っていた矢先に再び大蛇が僕を食べようと口を開く。

粘っこい唾液だえきが僕の体を濡らし、蛇の舌が僕の体を包みはじめようとしていた。

 その刹那、友絵が叫んだ。


「絶対に許さないんだから!“グランドクエイク”! 」


 彼女の声とともに突然地面が揺れる。

 大蛇は揺れによって体を保っていられなくなり、水になって僕の体に降りかかった。

 ”嫉妬しっとの蛇”は恐らく彼女の水の力で大蛇を生成したのだろう。

その大蛇が無き今は最大の攻撃チャンスだった。

 僕は地面の揺れに耐えながら“ラミエル”を握りしめて七海の元へと向かう。


「いけっ!“雷霆サンダーストーム”! 」


 そして収まったと同時に僕は彼女に向かって雷を落とす。

しかし雷は何故か七海を避けて、明後日あさっての方向に当たった。


「運のいいやつね。今度はそう行かないから! 」


 七海は僕に水で生成した大蛇を向けようとしたが、友絵の銃撃で大蛇は直ぐに水へと変わる。もうここしかチャンスはないだろうと思いながら叫んだ。


「豪運とは言わせない!“稲妻槍ライトニングランス”! 」


 僕は雷の力を“ラミエル”にまとわせて七海に向けてビームのように放った。すると彼女に命中して彼女の体はボロボロになる。


「ふ、ふふ……。地面と雷……あたしとの相性は良くないわね。」


 七海はへらへらと笑いながらも水になって僕達の目の前から姿を消そうとしていた。友絵は鋭い目を彼女に向けて銃を構える。


「ま、待ちなさい! 」


 友絵が七海に向かって銃を撃とうとしたが、その時には彼女は消えてしまっていた。

僕はため息をついて友絵の銃を右手で下ろす。

 それに対して彼女は動揺したような顔で僕を見ていたが、それと同時に僕と彼女の変身が解ける。


 逃げられてしまったがとにかく何とかなったのだ。

僕は胸を撫で下ろそうとした時、後ろから声が聞こえた。


「あっ!トモちゃんだわ! 」


 その声と共に僕は後ろを振り向くと、そこには先程僕にナイフを向けた橙色の髪をした少女が僕達に向かって走っていた。

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