15話:Envy (嫉妬)

 僕は友絵の声がしたところへと着いたと同時にどこか磯臭いような匂いが辺りに漂ってくる。

何故こんな匂いがするのか僕は怪訝けげんに思っていたが、友絵を探すことに集中した。


「幻夢くん!いるなら助けて! 」


友絵の声が近くから聞こえるがどこにいるのかまでははっきりと分からなかった。

 諦めずにしばらく辺りを見回していると、ようやく1匹の大蛇と対峙たいじしている彼女を見つける。

 なぜ大蛇がこのような街にいるのだろうかと疑問に思っていたが、大蛇を見上げてみるとその上に青いポニーテールの女性が乗っているのが確認することができた。


「上地さん!下がって! 」


 僕は友絵の前に立ち塞がって“ラミエル”を抜き、大蛇に向かって突き刺した。赤い血液が僕の服を濡らす。


「フォォォォォォォォン!! 」


 大蛇が蛇らしくない叫び声をあげると同時に、赤い液体を出しながら暴れ始めた。しかし段々動きが鈍っていき、遂には大きな音を立てて倒れてしまう。

そして大蛇は何故か水になって地面に染み込んでいく。

 女性は大丈夫なのか不安になったがどうやら暴れ始めたときに飛び降りたようで、彼女の被害は無さそうだった。


「ふぅ……。幻夢くん、ありがとう。」


 友絵は僕に向かってニコリと笑う。彼女のアイドルスマイルはかなり可愛らしく、見た人をとりこにしてしまいそうだ。

そのかたわら、どこかから声が聞こえた。


「男と女が2人いる……なんであたしには来ないのかしら……。」


 僕は声のする方向を向くと、先程のポニーテールの女性がねたましそうな顔をしながら僕と友絵をじっと見ていた。

そんな彼女の手には槍が握られている。


「あなたは一体誰なの!?街を襲うなんて! 」


 友絵は少し怒ったような顔で女性を見ていた。それに対して女性は長いポニーテールをなびかせて答える。


「街を襲う?あたしは街を整備しているだけよ。そして人々に本当のことを教えてやっているだけ。」


 女性の回答を聞いて友絵は顔を真っ赤にしながら女性を指を突きつけて言い放った。

僕は完全に蚊帳かやの外になっているような気がしたが、介入かいにゅうをするのも邪魔をするようで良くないだろう。


「この嘘つき!あなたアークゼノでしょ!人々に嘘を振りまくなんて……許せないわ! 」


 顔を真っ赤にしている友絵に対して女性は鼻で笑っていた。風で僕と友絵のマントがはためく。


「そう、あまりあたしを怒らせない方がいいと思うけど……。」


 そう言いながら女性は槍を僕に突きつけようとする。ここは変身した方が良さそうだと本能が告げていた。


「トランスフォーム! 」


 僕はマントを留めている宝石を握りしめて叫ぶ。すると謎の光と共にバトルアーマに身を包んだ。

中距離ならば謎の光で女性が目をくらませてくれると思っていた。

 あんじょう、彼女は謎の光で目がくらんで攻撃をキャンセルすることが出来る。


「もう許さないから! 」


 友絵は女性が目を眩ませた隙に銃を向けて何発か銃を放つ。しかし彼女には何故か当たらなかった。

よく見ると彼女は水を操り、盾のようにして銃弾の衝撃を弱めたようだ。

 水なら……僕は有利かもしれない。


「“雷霆サンダーストーム”! 」


 僕は女性に向かって雷を放つ。

すると雷は直撃して彼女は感電したかのように痙攣けいれんしたと同時に、水の盾のようなものが消える。


「変身するなんて聞いてなかったわ。こうなったら……あたしも変身するわ。トランスフォーム! 」


 彼女が叫んだ時、黒い光が彼女を包んだ。アーク相手にここまで追い込まれるとは思ってもいなかったのだろう。


「ここまで“アーク”がやるとは思わなかった。あたしの名前は古蛇七海こじゃ ななみ。“アークゼノ”の1人よ! 」


 七海の言葉と共に黒い光が一気に消える。彼女の姿はまるで先程襲ってきた大蛇のようだった。


「その身に刻みなさい!“嫉妬しっとの蛇”! 」


 彼女の声と同時に地上から先程の大蛇が8匹ほど現れて僕達を囲んだ。

その姿は八岐大蛇ヤマタノオロチを連想させる。


 嫉妬しっと――

7つの大罪の嫉妬しっとはレヴィアタンというのを覚えている。

 元々堕天使ではなく巨大な怪物で他の悪魔たちとは違う斬新ざんしんな存在だと言うのは知っていた。


「幻夢くん、これどうするの! 」


 友絵は銃で何体かの大蛇と交戦を繰り広げていた。

しかし大蛇も銃弾を避けるらしく、彼女の攻撃は当たらない。それに対して大蛇の叩きつけなどでボロボロになっていた。


「上地さん、変身してください。」


 僕は大蛇の攻撃や七海の攻撃を避けながら叫ぶ。打開策はそれしか無かった。


「あらあら、余裕がなくなっちゃったかな。でもねたましい……。あなたたちみたいな存在が早くやられないなんて。」


 彼女はそう言いながら僕に槍を突きつけた。僕は何とか“ラミエル”で攻撃をいなしたものの大蛇の攻撃によって吹っ飛ばされる。


「幻夢くん。友絵、本気出さなきゃ! 」


 僕が吹っ飛ばされたのを見て友絵がぽつりと呟いた後、彼女はマントを留めていた宝石を外して掲げながら叫んだ。


「トランスフォーム! 」


 その声と同時に彼女は謎の光に包まれた。

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