14話:People (人々)

 僕は駐屯地のような建物の外で友絵を待っていた。

外は真っ暗で風が僕の肌に寒さを届けてくる。僕はあまりの寒さに両手を擦り合わせていると、後ろから声が聞こえた。


「幻夢くん、待った? 」


 僕が後ろを振り返ると友絵が笑顔を振りまきながら現れる。彼女の右肩には武器であるマスケット銃をかけていた。


「別にそうでもないですよ。ところでどこに行くんですか? 」


 僕は恐る恐る彼女に訊ねる。

話の筋からして街に行くとか言い出さないかと心配になっていたが、その心配は斜め上の方向へと向かった。


「ランドマークの電波塔だよ。幻夢くんは知らないと思うけどここはマノ東京らしいよ。」


 まさかあの遠くから見える電波塔まで行くと言うとは思っていなかった。しかし彼女に誘われてここまで来たのに取りやめるということは出来ないだろう。


「そうか、せめてここの周りくらいにしないか? 」


 僕は考え込む。遠出は流石に詩音や鉄秤に気づかれたら1番まずいのは分かりきっていた。

 僕はアークゼノに狙われているのだ。その事実が呪いの装備のようについてまわっている状態で、もしかすると彼女に迷惑かけないか心配になっていた。


「わかった。じゃあ行こう! 」


 彼女は生返事で答えた後に僕の手を掴んで引っ張って行く。果たして彼女は僕の意見を聞いてくれたのだろうかと心配になった。


 僕達はただ無言で道無き道を歩いている。

“イレギュラー”の影響で道も完全に荒れ果ていて、1部は寸断すんだんされているような状態だった。


「はぁ……“ディーバーズ”の相方さんは元気かな。」


 友絵が突然ポツリと言葉を発した。

確か彼女はアイドルだったというのは前に何度か聞いている。おそらく“ディーバーズ”というのは彼女の所属しているアイドルグループなのだろうか。


「元気だといいですね。上地さん、大丈夫ですか? 」


 僕は彼女に対して言葉が見当たらないまま彼女に聞く。彼女の濃い桃色の瞳はただ真っ直ぐを見つめていた。


「うん、大丈夫だよ。友絵はアイドルだからみんなに笑顔と元気を届けないとね。」


 彼女はそう言いながら右手でピースサインを作ってアイドルらしい笑顔を向ける。しかし直ぐにそのサインは崩れて急に彼女の顔も真顔になった。


「だから……みんな元気になって欲しいな。そのために友絵はなんでもするから。」


 彼女の言葉が胸に刺さる。彼女はみんなが笑顔になるようにと今までピエロを演じていたのだ。

これがアイドルの裏の顔だろうかと思いながら空を見上げた。

 気がつけば空は段々と明るくなっていく。どうやら夜が明けたようだ。


「あっ!そんなことより幻夢くん、街が見えたよ。」


 それとほぼ同時に彼女が歓喜の声を上げる。その声につられて僕は視線を元に戻す。するとそこにはビルが立ち並ぶ街が見えていた。



 僕達は街に足を踏み入れる。まだ朝も早く静まり返っていた。

その傍らで少女が僕達の横を走っていく。その少女は見覚えがあった。

 黒い髪の毛とピンクのカチューシャ――


「紗羅! 」


 僕は少女に向かって叫びながら追いかける。どうして彼女が生きているのかよく分からない。

しかしあれはどう見ても紗羅だという確信がある。彼女の後ろ姿はどう見ても彼女としか思えなかったのだ。

 僕が少女を追い詰めようとしていたその時、周りにいた人達に僕は道を塞がれる。その間に少女との距離は離れていって遂には見えなくなった。


「キサマ、“アーク”って言われているらしいな。キサマが土地を荒れ果てさせたんだろ! 」


 リーゼントでどこか絡んではいけなさそうな人に僕は胸倉を掴まれた。あまりにも突拍子とっぴょうしで僕の頭は一気に真っ白になる。

どうやらこの街の人達は“アーク”がイレギュラーを起こしたと考えているようだ。

その事実は明らかに嘘であるのは分かっていた。そこは相手が誰であろうと修正しなければいけないと思いながら口に出す。


「それは僕達“アーク”のせいではありません。ふたつの世界が融合して――。」


「そんなの信じられないわ! 」


 僕が説明しようとしかけた時、リーゼントの人の隣にいる橙色の髪をした少女が拳を作りながら叫んだ。

 その少女はどこかのお姫様のような雰囲気を醸し出していた。

少女は話を続ける。


「わたくしは“アーク”を倒せば元の世界に戻るって聞きましたわ。あなたを倒せばおそらく……。」


 少女はそう言いながらナイフを僕に突きつけてきた。少女の翡翠ひすい色の目が僕を睨みつけている。

 このような少女がどうしてこんなものを持っているのだろうか。


「ちょっと待って!その話は誰から聞いたんだ。」


 僕は少女に向かって訊ねる。ここまで苛立ちが高まると人も変わってしまうのか、僕の丁寧口調が崩れてしまっていた。


「キャーーーーーー! 」


 その刹那、女性の叫び声が辺りに響く。この叫び声はどう聞いても友絵としか思い浮かばなかった。


 友絵が危ない――

僕はそう思いながら街の人達を振り切り、僕は叫び声のする方に走っていった。


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