12話:Report (報告)

 水羽に肩を借りられながらもいつもの場所へと戻った。

その間、彼女は無言で照れたまま僕の顔も見ないままうつむいている。

 なぜ照れているかはよく分からないが、僕も何も言う言葉が見つからず黙ることしか出来なかった。


 いつもの場所へと戻ってきた時、僕は安堵すると同時に、怪我も完治していないのに外へ出たことで誰かに怒られないか不安になる。

 駐屯地のような建物の中の扉を開けても誰もおらず、不安になりながらも僕は横にあった扉を開いた。


「おっ、幻夢も水羽もおかえり。」


 ドアを開けるとそこは調理室で鉄秤が笑顔で僕達を出迎えてくれた。

彼の長い髪の毛はなにかで結んでいて、それが光に反射してキラキラしている。


 これが男のかっこよさなのだろうか。

僕は彼の姿に見とれていると突然僕の頭を何かで叩かれた。その鈍い一撃に思わずノックアウトしそうになる。

 こう見えて父親に何度も殴られているので慣れているがこのような痛みは経験したことの無いような感じだった。


「幻夢、怪我をしてるのにどうして外に出たんだ。」


 僕はヒリヒリしている頭をさすりながら後ろを向くと、エプロン姿の詩音が怒ったような顔で僕の後ろに立っていた。

その手にはフライパンが握られている。恐らくそのフライパンで僕の頭を叩いたのだろう。


「詩音、全くお前は真面目で厳しい人だな。ともかく幻夢が生きてただけ良かったじゃないか。」


 鉄秤はやれやれといったジェスチャーを詩音に向ける。なにも外に出たくらいでフライパンで頭を叩くことはないだろうと思った。


「そうか?でもアークゼノがいるのに疲弊ひへいをしている仲間が外に出るのは危ないだろ。また幻夢がアークゼノに出会っていたらどうする。仲間が死ぬんだぞ。」


 僕はギクリとした。先程まで“アークゼノ”の1人と戦っていたのだ。彼女は預言者か何かのように見えてくる。


「だから生きてるから大丈夫だろ。幻夢が狙われている訳でも――」


「もし狙われていると言ったらどうするか、御剣。」


 鉄秤が腰に手を当てて何か言いかけたのを邪魔するかのように、横から聞き覚えのある声が聞こえる。

僕は誰だろうかと声が聞こえた方向を向くと、そこには片腕に包帯を巻いている路月の姿が見えた。


「えっ?路月、それは嘘だろ? 」


 僕が唖然あぜんとしているのに対して鉄秤は驚いて路月に訴えかける。しかし路月は左目で僕を見つめた後に冷たく言い放った。


「ああ、本当だ。あいつらにとって幻夢が1番の脅威に思えたんだろうな。」


 その言葉を聞いて一気に緊張感が張り詰める。それと同時に僕の背筋が一気に凍りつきそうになった。


 僕が狙われている……?何故?

違和感を覚えながらも僕は美火との戦いを思い出してみる。

どう考えても最後に追い討ちをかけたのは路月であることには疑いはない。それなら路月が狙われるはずだ。


「厄介なことになったな。しかし……鍵さん、その情報はどこから聞いたのか? 」


 詩音は腕を組んで鍋とにらめっこしながら路月にたずねる。彼女の方から少しずついい匂いがしてきた。匂いからどうやらカレーをつくっているようだ。


「俺が外に偵察に行っていた時に“アークゼノ”の2人がなにか話し込んでいた。

1人は見たことないやつで、もう1人は幻夢も知っている東方美火だ。相当あいつは幻夢と俺にやられかけたことを根に持ってたみたいだな。」


 路月は僕を見つめて何かを思い出しながらしゃべっていく。彼に見つめられると、あの時の美火のように自分の体がボロボロにならないか心配になってくる。


「キミ1人で行ったのか?危ないじゃないか! 」


 詩音がそう言うと同時にご飯が炊けた音が辺りに聞こえる。

どうやら気候や地形が変化したり通信障害が起きていても電気は通っているみたいだ。


「俺が単騎で行ったりしたら不味いってことは1番俺が知っている。雅楽さんと一緒に行った。

まぁ……向こうにはいっぱい振られたが話しはしなかったけどな。」


 路月はどうやら癒月さんと2人で同行してあの情報を手に入れたということがわかったが、彼が嘘をついている可能性もないとは言えないが、そこは癒月に聞けばはっきりとわかる事だと自分で結論づける。

 すると詩音が突然困ったような顔で路月に再び何かをたずねた。


「えぇ……。あたし女なのにどうして気兼ねなく話せるのか? 」


 確か路月は女性と話すのが苦手だというのは結構前から知っていた事実だった。

しかし男っぽい口調と性格から男間違いしそうだが詩音が女性であるのも嘘ではない。

 路月はその質問に対してぽつりと答えた。


「君が女らしくないからだ。」


 その言葉にすぐさま詩音は反応した。


「えっ!?何それ酷いじゃないか! 」


 このやり取りによって一気に場の緊張感が解けていく。やはり路月も詩音が男性だと勘違いしていたようだ。


「2人とも落ち着いて。ともかく雷電さんが狙われてると言われてもなにもできないってことですよね。」


 それに対して再び場を引き締めるかのように水羽が口を開く。

確かに彼女の言うとおり何も出来ないしどうにも出来ない。ただ僕が狙われているという情報だけは覚えておこうと思った。


「まぁともかくご飯できたぞ。みんなで食べよう。」


 詩音がそう言いながら数人分のカレーライスを並べたトレーを持って部屋を出ていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る