11話:Relief (救援)

 変身した颯太は僕に向かって棍棒を振り下ろす。

美火との戦闘で傷も癒えていない中でこんな相手と戦うなんて絶望以外の何物でもなかった。


「くそっ! 」


 僕はやけくそになりながらも彼の攻撃をローリングでかわす。すると彼の棍棒から針が飛び出してきて、僕のバトルアーマーを傷つけた。


「覚悟しろ!“強欲の風”! 」


 そう言うと再び強風と同時にかまいたちが僕に襲いかかってくる。


 このままでは確実に勝てない――

それは分かっていたが、美火と戦っている時とは違って助けてくれる人はいないのだ。

 それでも諦めずに僕は“ラミエル”を支えに蹴りあげた後に手を颯太に向けて雷を発生させようとする。

しかし蹴りあげた足を素手で止められてしまった。


「その程度か?俺に本気を出させたことを後悔するんだな。」


 颯太はあざけるような顔で僕を“強欲の風”で吹き飛ばす。ここまでは予想していたので転がりながらも何とか立ち上がる。

バトルアーマはもうボロボロでいつ壊れてしまうかも分からないレベルだった。


「まだまだっ!“雷霆サンダーストーム”! 」


 僕は手を向けて雷を何発か彼に向けて放っていたが彼は軽々とかわしていく。

そして再び強風が吹き始め、僕を吹き飛ばそうとする。それに対して何とか耐えようとしていた。

 しかし僕が耐えているのをあざ笑うかのように強風は全く止む気配はない。

そして何故か段々と自分の力が抜けていくのを感じた。


「まだ耐えるか。お前の力はまだあるようたが……特別にこの技を出してやろう。」


 すると僕が抵抗するや否や颯太は無表情のまま手のひらを僕の方に向けると段々と体の力が抜けていくのを感じた。

まさか、颯太が僕の力を奪おうとしているのだろうか。

 もしそうだとしたらこんな相手に1人で勝とうとしている自体馬鹿げていることじゃないかと僕はなかば自分をせせら笑っていた。

そんなことをしてもこの状況は良くなるどころかむしろ悪化する一方だ。


「相手が悪かったな。“強欲の風”! 」


 僕は颯太の技に抵抗も出来ずにそのまま吹っ飛ばされてビルに体をぶつける。流石に強風でビルは壊れなかったのか壁に背中から打ち付けたあとに強風が止み、バタリと僕は倒れ込んでしまうそれと同時に変身が解けた。

 変身形態で戦っていたので傷は美火と戦っていた時に受けた火傷のみだったが、体力はもう底を尽きていて立ち上がることもままならなかった。


「もう限界か? 」


 颯太はにやりと笑いながら僕の胸倉むなぐらを掴んで持ち上げた。あまりの力に僕は息が詰まり、呼吸をするのが苦しくなる。

なんという力を持っているんだと思いながらも僕は颯太を睨みつけていた。

 こんなの勝てるはずがないと諦めて満身創痍まんしんそういになりかけていた時、後ろから突然声が聞こえた。


「あ……あなたの罪を……つぐないなさい! 」


 どこか恐怖で震えているような声と同時に何かが頬をかすめて颯太の胸に刺さる。それによって彼は胸倉を離して僕はしりもちをついた。

しかし全身がしびれるように痛くてたちあがることはできない。


 助かった――――

僕は呼吸が自由にできるようになり、何度も酸素を取り込もうと息が荒くなる。


「なっ……!? 」


 僕は声を何とか出そうとするが途切れ途切れになってしまう。僕を助けてくれたのかもしれないがあまりにも急展開でさっぱり分からなかった。


「矢……だと? 」


 颯太の胸にははっきりと矢が刺さっていた。

 矢ということはまさか――

僕はテストをカンニングするような感覚を覚えながら後ろを振り向く。

そこには弓を構えている水羽がいた。


「み……水羽…………? 」


 僕は何とか声に出そうとしたが体力が底をつき、彼女の名前を名前を言うのがやっとだった。

颯太も水羽の姿を見て不満げな顔をする。

 目つきの悪い黒い瞳には僕を殺せるチャンスがあったのに、それを邪魔させられたと言うような感じだった。

その間に彼女は颯太に向かって矢を放とうとする。


「ふっ、仲間が来たか。来なければこいつはやれたはずなのにお預けか。」


 水羽が矢を放った時には颯太は風と共に消えていて、矢は空を切りどこかへと飛んで行った。


「水羽……また、助けられたよ。」


 僕は水羽に向かってお礼を言う。まさか彼女にまた借りを作るとは思わなかったのだ。

彼女の青い髪の毛と白いリボンが対比するかのように風になびく。その風も刺さるような強風ではなく、柔らかくて優しい風だった。


「そうですね。で、でも次はいつか助けてくれると思っていますから。」


 彼女はうつむいて照れたような顔をした。お役に立てて嬉しいと思っているのか、ただ僕と話すのが恥ずかしいのかは分からない。


「そうか。水羽、僕は君に感謝してるよ。」


 僕はそう言って彼女の肩に手を置く。すると彼女の頬が段々と赤くなっていく。


「は、はい……。そう言われて光栄です。」


 彼女は顔を僕に向けてニコリと笑う。その笑顔はまるで天使のようだった。

しかし僕は水羽ばかりを見ていて、書佳がどこかへと消えてしまっていたことに僕は気がつかなかった。

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