10話:Greed (強欲)

 「なっ……!き、君はアークゼノなのか? 」


 僕は彼の威圧を受けながら意気阻喪いきそそうしていた。

目の前にあんな目つきの悪い大男がいたら誰だって恐ろしさを感じるだろう。


「当たり前だ。俺はアークを倒しに来た。

アークを全滅さえすれば俺達は生きていられるんだ。もっと言えばアークたちを苦しめて殺したりあの3人が相打ちになって、俺が世界を支配したりするのもいい。」


 その男は微動だにせずに答える。こんなにも短いスパンでアークゼノに出会うなんて不幸以外何も無いだろう。

しかしそんなことを言っても仕方ないのだ。僕は“ラミエル”を男に向ける。


「おっと、戦う前に自己紹介を忘れていたな。俺の名前は鳶島颯太とびしま ふうただ。あの東方美火とうほう みかを苦戦させたという実力、見せてもらおうか。」


 そう言うと颯太は黒い棍棒を出して僕に襲いかかってきた。まさか僕と似たような武器と相手なんて思っておらず、彼の武器と“ラミエル”がぶつかり合って武器の擦れるような音がきこえる。

 こんな体格相手に互角ごかくに戦おうなんて無理に等しかった。

僕は軽くいなした後にラミエルを再び構えてマントを留めている宝石を握りながら唱える。


「トランスフォーム!!からの……“雷霆サンダーストーム”! 」


 その言葉で謎の光が僕を再び包む。

そしてバトルアーマーを装着した僕は早速手を彼に向けて雷を放った。


「ふっ、変身か。」


 颯太は僕の変身に対しても涼しい顔をして雷を避けた後に棍棒を振り下ろした。


「くらえっ!“稲妻槍ライトニングランス”! 」


 僕は軽く攻撃をかわすと“ラミエル”に雷の力をまとわせて詠唱すると彼にビームのようなものを発射する。

しかし颯太は軽々と避けるとニヤリと笑った。


「甘いな。それ程度では傷一つもつかんぞ。」


 突然彼の近くで強風が吹いて僕は勢いよく飛ばされてしまう。それと同時にかまいたちも起こしたのかバトルアーマに傷がついてしまった。


「くっ!まさかこの技は……。」


 僕はまだ吹き続けている強風にひざまづいて耐えながら颯太の方を見る。彼は強風に対しても微動だにせず、仁王立におうだちで僕を目つきの悪い目で見ていた。


「ふん、“強欲ごうよくの風”だ。」


 颯太は涼しい顔で強風に苦しんでいる僕を横目に接近して僕の頭を掴み、持ち上げた後にビルに向かって投げつける。

彼は短い黄色の髪の毛が強風で荒れていても気にもとめないようだ。


 強欲ごうよく――

7つの大罪の強欲はマモンだと言うのは覚えている。天使の時でも金銀財宝を愛しており、人々に貴金属ききんぞくなどの価値を見出みいだしたという記述があったような気がした。



「うわぁー! 」


 僕は投げられて為す術もなくビルに正面衝突する。少し意識を失いかけるが、死んではダメだという思いで何とか意識を保っていた。

 ビルも彼のが僕を投げつけたことにより崩壊して瓦礫がれきの山になっている。僕は何とか瓦礫がれきの山をき分けながら立ち上がった。

バトルアーマはもう所々壊れていて肌がき出しになり、1部は血が滲み出ている。


「ふっ、まだ生きているか。ただでは死なないようだな。」


 颯太はそう言いながら無表情のまま僕に接近した。

目つきの悪い目と無表情で段々心臓が悪くなるのを感じる。しかしどんな相手でも僕は逃げたくなかった。

 無茶と言われればそれまでだが、男であれば誇りを持って戦わなければならない。それは昔から守っていたことだった。


「くそぉ!“稲妻槍ライトニングランス”! 」


 僕は風に負けずラミエルに雷の力をまとわせてビームのように颯太に向けて発射する。


「なっ!? 」


 まさかこのような攻撃を相手はすると思っていなかったのだろう。何も出来ずにビームのような攻撃は直撃したようだ。

攻撃が当たったとはいえまだ自分が不利という状況はひしひしと感じていた。


「まだまだ僕はやれるんだ! 」


 僕は“ラミエル”を相手が回避されないように稲妻のようにジグザグに動かして攻撃する。


「しまった!まさかこんな奴に……。」


 どうやら美火と同じく体がしびれているのか動くことが出来ずに、僕の攻撃が颯太の左胸を貫通した。

僕は少し有利感に浸り、“ラミエル”を慣れた手つきで抜くと突風が吹き始めて僕は再び吹き飛ばされる。

僕がもう起き上がっている頃にはもう颯太が目の前に迫っていた。


「さてと、俺に本気を出させようとしたことは褒めてやろう。そしてここから俺の本気を見せてやろう。」


 すると颯太は勝ち誇ったように棍棒を掲げると叫んだ。


「トランスフォーム! 」


 その言葉を聞いて僕は驚いて頭が真っ白になってしまう。まさか“アークゼノ”も変身できるとは思っていなかったのだ。

黒い光とともに彼の姿は見えなくなってしまう。


「う、嘘だ……。」


 僕は無理矢理声を出してはみたが、その声もかすれてしまっていた。

黒い光が消えていくと同時に段々と針鼠はりねずみをモチーフにしたようなバトルスーツに身を包んだ颯太の姿が見えていく。


 マモンを動物の姿で例えると一説では狐やたぬき針鼠はりねずみなど色々ある。


「ここまで来ればもう後戻りはできない。お前はどこまで戦えるか試させてもらうぞ! 」


 蒼白する僕を横目に彼のバトルスーツは太陽の日を浴びてキラキラと輝いていた。

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