9話: Lance (槍)

「はぁ…………。」


 何も無い自分の部屋のベットで僕は独りごちる。

あれから僕は自分の部屋に戻ってただただ休んでいた。僕はふと数分前にボロボロの体で動くのはダメだという何度も癒月に言われたことを思い出す。

 確かに外に出るのはまずいが、物音ひとつもしない空間にずっといるのも僕としては嫌だった。


 自分の部屋に戻っても何もやることは無い。唯一やることといえば部屋でゴロゴロするかシャワーを浴びることや何か考え事をすることの3択しかなかった。


 僕は勿論もちろん考え事をすることを選択する。

ここから“アークゼノ”との熾烈しれつな戦いに巻き込まれる可能性しかない状況で、考え込む時間は少ないのかもしれない。

1人でいる今だからこそ、改めてこれからどうして行くか考えないと後に大惨事を引き起こすというのはわかっていた。

 人には臨機応変に対応出来る人とできない人がいるが、僕はできない部類に入る。臨機応変に対応できない人だからこそ、こんな時間は無駄なく使うことが1番大事なことだろう。


 改めて状況を整理する。

マノ世界とゼノ世界が融合する“イレギュラー”。

エラー達や“アークゼノ”がいることから“イレギュラー”が起きているのは明らかだった。

 ”イレギュラー”の影響はそれだけでは無い、地形や気候までも変化しているのだ。

 さらに電波障害も起きており、スマートフォンの電波は圏外けんがいで親にも電話が出来なくなっている。

 親は無事なのだろうかと安否を気にしていた矢先、きぬを裂くような悲鳴が外から聞こえた。


 突然の悲鳴に動揺しながらも“ラミエル”を掴んで外への廊下を走っていく。

額から首にかけてゆっくりと汗が落ちたり、火傷やけどひりひりとした痛みが体をむしばんでいたがそんなことはもうどうでも良くなっていた。

 ただ悲鳴をあげていた人が無事なのか気になっていることだけが僕の体を突き動かしているのだ。


「きゃぁぁぁ!! 」


 近くでまた悲鳴が上がった。

どうやら悲鳴をあげたのは女性だと耳を通して素早く反応すると同時に僕の鼓動が段々と早くなるのを感じる。

 もしかしたらエラーに襲われているかもしれないと思いながら、僕は意を決して外への扉を開けた。



「誰かぁ!誰か助けて! 」


 しばらく走っていると女性がエラーに襲われているのが見えた。

襲われている女性も見覚えはあったが、どこで会っていたのかははっきりとは覚えていない。確か彼女の名前は――


「秘田さん!!助けに行きます! 」


 僕は“ラミエル”を抜いて構えた後に、エラーに向かって突撃する。まだエラーはこちらに気づいておらず、突撃によって“ラミエル”がエラーの体を貫いていた。


「あ……あなたは…………。な、何故……。」


 書佳は震える声でぽつりと呟いた。彼女でも“イレギュラー”がこんな状況を引き起こすことは予想出来なかったのだろう。

僕は倒れたエラーに刺さっている“ラミエル”をまっすぐに引き抜くと彼女の方を向いた。


「えっと……秘田さん、大丈夫ですか? 」


 僕はニコリと笑って手を差し伸べるが、彼女はまだ怯えたままで僕の顔すらも見てくれない。


「あ、貴方の名前は…………? 」


 彼女は震えた声で名前を尋ねてきた。彼女の灰色の目が僕を見つめている。


「僕の名前は雷電幻夢です。実は――」


 そう言いかけた時、エラーの声が僕の言葉をかき消した。


「クギャァァァァァ!! 」


 僕は咄嗟とっさに後ろを振り向くと2体のエラーが僕に襲いかかろうとしていた。

 それに対して槍を構えずに足元を払ったあと、よろめいたところを突くように槍で突き刺す。1体は体を貫かれて倒れたがもう片方はまだ処理できていない。

 僕は槍を引き抜いた後にもう1体の攻撃を槍で受け流して胴体を目掛けて槍を突き刺した。もう片方のエラーもそのまま槍で貫かれて絶命する。

 まだまだエラー達による攻撃の波は来ていた。


「はぁっ! 」


 僕はエラーに向かって槍を軸に回転蹴りを放つ。エラーは攻撃をかわすと飛び上がり、僕に向かって鋭い鉤爪を振り下ろす。


「見切った! 」


 僕はエラーが飛び上がったと同時にステップで攻撃をかわして“ラミエル”でエラーの頭を突き上げる。

するとエラーは頭を貫かれたのか血を出しながら絶命する。その血が僕の頭に降り掛かっても僕は気にもとめなかった。

 僕はゆっくりと“ラミエル”を引き抜く。この作業にもう手馴れている感じがして僕は嫌な気分になっていたが、この現状に文句は言えない。


「この槍さばき、流石さすが美火を退しりぞいたまでもある。」


 突然聞き覚えのない声が聞こえ、咄嗟とっさに声のするほうを向く。

そこには黄色い髪の毛をした大男が書佳を拘束していた。


 ”アークゼノ”――


 僕の頭にはその言葉が文字ではなく音声として蘇ってくる。もしや彼もアークゼノなのだろうか。

もしそうだとしたら……いや、考えるのは流石にやめようと僕は頭を横に振った。


「こいつを返して欲しければ俺と戦え。拒否権はない。」


 彼の目つきの悪い黒い目が威圧いあつするかのように僕を見ていた。


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