6話:Transformation (変身)

 僕は謎の光に包まれているとどこかから声が聞こえた。


「幻影の天使、ラミエル。今から君に我が力を貸そう。」


 その声に困惑しながらじっとしていると痛みが嘘のように消える。

 僕は信じられないような気持ちになりながら自分の姿を見ると、水色のバトルアーマーが現実を突きつけるかのように光によって輝いていた。

これが“ラミエル”の真の力なのだろうかと拳をぐっと握りしめた時に“ラミエル”から再び声が聞こえてきた。


「幻夢、我の力を使って戦ってくれ。君ならばこの力を制御できるはずだ。」


 僕は“ラミエル”を構える。胸元と同じ六角形の宝石が謎の光を吸い込んで元の情景を映し出す。

 絶望的な状況で武器の力を借りて変身などがありきたりだとかそんなことを言っている余裕はない。

変身したことによりこの状況を打破できる可能性が一気に高まって自信が湧いていた。


「幻夢……お前…………。」


 路月は僕の姿を見てようやく口を開いた。


『 状況は刻一刻と変わるんだ。考えることも大事だが想定外の事態には考えたって無駄になる。』


 僕の頭の中で路月が鉄秤に言われたことを思い出す。

 アークゼノ1人相手に2人で闘っても勝てないという想定外の事態が起きているのだ。

戦いでは一瞬の隙が命取りになる以上、考えることで隙を見せるなんて自殺行為以外何物でもないだろう。


 臨機応変に考えて戦わなければならない。

あの時の鉄秤が路月に言いたかったことはこれではないかと思う。


「鍵さん、僕に任せてください。彼女は必ず倒しますから。」


 僕は美火に距離を詰めていくと槍を胴に突き刺そうとするが彼女はひらりとかわした。


「変身したんだね!あんたをふっ殺してやるよ!かがって来て! 」


 美火の言葉にはつっこんでは行けないだろうが、あまりにも言い間違いが酷すぎる。彼女がわざとそうさせて隙を出させようという魂胆こんたんだとしても2つも言い間違えるだろうか。

 もうこの言い間違いは素ではないのかといつもの僕なら思っていたが、今の僕にはそんなことを考えている余裕はなかった。


「いけっ!“雷霆サンダーストーム”! 」


 僕は手のひらを美火に向けると彼女の元に雷が落ちる。

彼女は何とか避けて斧を振り下ろそうとしたが僕の槍の一突きが彼女の右肩を貫いた。


「雷…………。

あんたはウリエルなんだね。ウチよりも遅く生まれた天使に負けそうになってるなんて許されることじゃないよ! 」


 僕は槍を真っ直ぐに引き抜く。

すると彼女は血が出ている右肩をちらりと見ると鬼気迫ききせまるような顔で僕を睨んだ。

 相変わらず言い間違いがあったが、そんなことを考えている余裕はなかった。


「ウチが負けるなんてこんなことは認められないよ! 」


 美火が僕に向かって斧を振り下ろそうとしたがあまりにも遅くて回避は余裕だった。

その間に僕は雷の力を“ラミエル”にまとわせる。


「これでもくらえっ!“稲妻槍ライトニングランス”! 」


 僕は雷を纏った“ラミエル”を美火に向かってビームのように発射した。彼女はこの攻撃を回避できずに直撃する。


「まだまだっ! 」


 僕はさらに追い打ちをかけるように美火に接近して槍を軸にして回転蹴りを放つ。

彼女は先程の攻撃で体が痺れて動けなくなったのか、回転蹴りを回避できずに顔に直撃して鼻血を出した。


「くそっ…………。やったわね! 」


 美火はボロボロになりながらも平然と立ち上がる。

相手が“アークゼノ”とは言えちょっとやりすぎたのではないかと僕は不安に思ったが、まだ彼女が立ち上がることにびっくりした。


「こんな天使相手に負けなんか認められないよ!こんなのノーカウントよ! 」


 彼女はそう言うと僕に向かって斧を振り下ろそうとしたが、とある一言でピタリと彼女の動きが止まった。


「いい加減負けを認めたらどうだ。」


 この言葉と同時に美火の体が更にボロボロになり始める。慌てて僕は後ろを振り向くと、黒と白のバトルアーマーに身を包んだ路月がいた。

 彼の左目はボロボロになっている彼女を睨みつけている。まさか彼のひと睨みだけで彼女はボロボロになっているのだろうか。

僕は彼に対する恐ろしさを覚える反面、改めて味方でよかったと安堵あんどする。


「イ……邪眼イービル・アイ…………。くっ、覚えていなさい! 」


 美火はそう言うと炎と共に突然姿を消した。

何が何だか分からないが、ともかく危機は去ったのだ。

 僕はほっとすると同時に疲れが溜まったのか急に目眩めまいが襲いかかってくる。それと同時に変身が解けてボロボロの服に戻った。


「幻夢、大丈夫か。」


 路月は僕の異変に気づいたのか僕の体を支える。

美火の“傲慢の炎”で辺りが火の海になっている状況で意識を失うなんて死ぬのと同じだと思い、意識を何とか保っていた。


「大丈夫……じゃない…………。」


 僕は路月に訴えると彼は僕を背負いながらぽつりと何かを呟いたが、途中で意識が朦朧もうろうとし始めて聞き取ることが出来ない。

朦朧もうろうとし始めた意識は段々あやふやになっていき、遂には途切れた。

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