5話:Pride (傲慢)

「………面倒だな。」


 路月はポツリと呟きながら僕と同じように女性の炎をローリングで避ける。

正直言って路月と僕の息が合っているのでは無いかと思うほどの動きで驚いてしまう。


「ウチお手製の“傲慢の炎”をなめてもらったら困るよ!」


 女性が怪しく微笑んだ刹那せつな、炎が追尾して僕のマントを燃やし始めた。焦げ臭い匂いが鼻を突く。

 女性が微笑んだ隙を突くように路月は鎌を女性に向かって振り下ろしたが、斧で防がれて鍔迫つばぜり合いのような状況になる。

 僕はマントを投げ捨てて路月を助けに行こうとしたが炎で行く道を塞がれてしまっていた。


「“傲慢の炎”か。ふっ、貴様にはお似合いかもしれないな。」


 武器と武器が擦れ合う音が響きながらも路月は余裕があるように言い放ち、軽くいなした後に足を払う。

 すると女性はバランスを崩したが受け身をとって立ち上がる。彼女の紫色の髪の毛が炎の色と相まってゆらゆらと輝いていた。


 傲慢ごうまん――

確か7つの大罪の傲慢はベリアルだと言うのは覚えている。

 天使達に反逆を起こした天使の1人であり、幾多いくたの人をあざむいて堕落だらくさせたという話は有名だった。


 もしや“アークゼノ”は7つの大罪に出ている悪魔の力を借りているのだろうか。

いや、確か誰かがそんなことを言っていたような気がしていたが、誰だか覚えていない。


「ふふっ、雑魚はウチの手の中で踊るといいんだよ。」


 女性は斧で路月の首元を狙いながらも僕が近づかないように炎で妨害をしかけていた。

しかし路月は涼しい顔でしゃがんで女性の攻撃を避けると、鎌で彼女のどうを切りつける。

 どうやら女性は2つのことをしようとするとどちらかがいい加減になるようだった。


「貴様、斧は攻撃後の隙が大きいことを忘れているようだな。」


 路月はシニカルに笑いながらも女性の血が付いた鎌を胸元を目掛けて切りつけようとした。彼の右目にかかっている長い髪の毛が彼の動きに合わせて揺れている。

 しかし女性はそれを読んでいたのか攻撃を跳ね返して彼の鎌が宙を舞い、僕の目の前に突き刺さった。


「鍵さん! 」


 僕は何とか炎を避けながら彼の鎌を拾う。

だが炎から逃げてばかりで路月とは距離が離れていた。

 彼に武器を投げるとしても女性に武器を取られてしまう可能性はゼロではない。

僕は色々と考えていたが、武器は引き離しても直ぐに戻ってくると前に友絵が言っていたことを忘れていた。


 彼に武器を届けようとしている間、路月は何も出来ずに女性にやられまくっている。しかしこんな遠距離では“ラミエル”の攻撃は届かないのでどうにも出来ない。

 僕がもう路月の目の前に来ている頃には彼の姿は直視できないほどボロボロになっていた。


「チェックメイト。冥土めいどの土産としてウチの名前を教えてあげる。ウチの名前は東方美火とうほう みか。ゼノアー…………アークゼノの1人よ! 」


 気づけば皮膚ひふただれてボロボロになっている路月の前で嘲笑あざわらうかのように言い放つ。

 しかしかっこいい台詞セリフのはずが、美火は“アークゼノ”を“ゼノアーク”と間違えてしまって急にダサく感じた。

ともかく路月がピンチならば僕がカバーしなければならないと思いながら美火の目の前に現れる。


「鍵さん!ここからは僕に任せてください! 」


 僕は美火の胴を目掛けて“ラミエル”を突き刺そうとしたが彼女の斧によって跳ね返されてしまう。

気づけば路月の元に鎌が帰っていたがそんなことは僕の意識から飛んでいた。


「ふふっ、あんたもあの男のように黒焦げでボロボロになりたいのかな? 」


 美火は僕との距離を詰めた後に足払いによって僕はバランスを崩してしまったのか左に転倒する。

 僕の父親が柔道部の顧問だったとはいえ、僕は柔道を習っている訳では無い。

僕は転倒したまま起き上がるのに時間がかかり、相手に隙を作っていた。


「燃え上がれ!“キンドル”! 」


 さらに立ち上がろうとした僕を邪魔するかのように体が急に発火し始める。このままでは全身丸焦げになって命を失いかねない。

 しかし転がって火を消そうにも全然消えずに逆に燃え上がる始末だった。


「ウチに勝てないのに立ち向かうなんて無駄な勇気にも程があるよ。ウチの前でひれ伏しなさい! 」


 彼女は高笑いをしながら僕を無視して路月にトドメを刺そうとしている。

路月の目はただただ高笑いしている美火を睨みつけることしか出来ずに詰み状態だった。

 こんな状況には勝てないと絶望しかけた時、“ラミエル”から声が聞こえた。


「六角形の宝石を握りながら“トランスフォーム”と叫びなさい……。」


 僕はラミエルがそう叫べば“ラミエル”の真の力が発揮できると言っていたことを思い出した。

この状況を打破だはするにはもうこれしかない。

 僕は体が燃えながらも立ち上がり、マントを留めている水色の宝石を握りながら叫んだ。


「トランスフォーム! 」


 そう叫んだ時、水色の宝石から謎の光が溢れ出し、一気に僕の体を包み始めた。


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