4話:Affair (事件)

「幻夢……鍵さん…………? 」


 詩音は肩で息をしながら僕と路月の方を見た。

彼女の服は白がベースで赤のラインが入ったバトルスーツだったのかそこまでエラーの血液が目立たない。

しかし唯一バトルスーツの白い部分にはべったり血がと付着していた。


「詩音!なんでこんな時間までいるんだ。みんなが待ってるぞ。帰ろう。」


 路月は詩音に近づくが、詩音は首を振ってから言葉を発した。


「化け物達が人を襲ってるんだ。銃だけじゃ化け物は倒せないしあたしがなんとかして人々を救わないとダメなんだ。」


 どうやら拒否をしたのは人々を助けたいという真面目な思いからだった。彼女のその思いは僕の父親の指導について行っていたからついたものなのか、彼女の元々持っているものなのかは分からない。

 しかし殴ればエラーは倒せると思っていたので銃で倒せないという事に驚いた。


「えっ?それって本当なんですか?それと……あの化け物はエラーって言うらしいですよ。」


 僕は詩音に質問した。

彼女の周りにはエラーが数体倒れていたが、起き上がる様子はない。

しかしエラーが突然どこからか襲いかかってくるなんてこともないので、完全に安心とは言えなかった。


「そう、一応あたしは警察官だから銃を持っている。

しかしそれで撃っても化け物は弾を跳ね返していたんだ。これが撃った銃だ。」


 そういうと詩音は僕と路月に銃を見せる。

 その銃を見て僕は即座にその銃がどんなものか分かった。


 ニューナンブM60――

回転式拳銃で警察官が護身用に使っているポピュラーなものだというのは僕の父親に教えられた知識だ。

 父親も元々は警察官になろうとしたが、試験に何度も落ちて結局は高校の体育教師になったという話は耳にタコができるほど聞いたことがある。

そんな銃の弾を跳ね返すなんて化け物はどんな体でできているのだろうか。

撃ってみたい気持ちを抑えながら僕は詩音に言葉を返す。


「なるほど、ただの拳銃じゃダメってことなんですね。」


 僕は言葉に詰まる。

1番最悪な状況を想定するとエラーを倒せるのは“アーク”の持っている武器しかないというパターンだ。

 もしそうならば僕達は人々を守るかなめのような存在になっているのだ。

 僕達がいなくなれば……。


「幻夢!危ない! 」


 突然詩音の叫び声が聞こえたと同時に僕の体は宙を浮き、左斜めに倒れていく。

 その後大きなトラックが炎上した後にクラクションの音と同時に横転し始めた。

詩音が僕を左に突き飛ばさなければ僕はトラックの下敷きになっていただろう。

 しかしそうなったことで僕と詩音は炎上によって横転したトラックによって分断されてしまい、離れ離れになってしまった。


「幻夢、大丈夫か? 」


 倒れている僕に対して路月は手を差し出す。僕はその手を掴んでようやく立ち上がった。

僕は考え込みすぎて今まで気づいていなかったが、どうやらある街に僕達はいるようだった。


「大丈夫です。」


 僕がそう言ったと同時に横転したトラックは爆発した後に炎上がさらに激しくなる。爆風によって僕のマントと路月のマフラーがなびいた。

こんなシーンなんて映画かアニメの世界かと思っていたが、まさか現実で起きるなんて信じられなかった。

僕は辺りを見回しても燃え盛る炎以外はほぼ視界に入って来ない。


 詩音は無事だろうか…………。


僕の頭には彼女のことが気になっていた。

しかしこの状況で考えるのダメだという路月の言葉を思い出しながら耳を傾ける。


 すると人々はこの騒動の一部始終を見て混乱しているような声が聞こえた。

おそらく突然トラックが炎上して横転するという現実ではありえないことが起きたことによる混乱だろうと僕は推測する。

 どんどん現状が普段の生活と乖離かいりしすぎているように肌で感じながら僕は路月の方を向こうとした。


 その刹那、女性が高いビルから僕の目の前へと飛び降りてくる。女性がそのまま落ちて大怪我をしてしまうかもしれないと不安になっていた。

 しかしそれは杞憂きゆうと言ったようにふわりと着地する。それと同時に僕達の周りが炎に包まれるとにやりと笑った。

まさか……あの女性がトラックを炎上させていたのだろうかと僕は警戒し始める。


「アハハ、逃げれなくなったね。しかし赤い髪の人はやるねぇ。自らを犠牲にしてまで彼を助けるなんてね。」


 女性は紫色の長い髪を手でなびかせながら上から目線で僕達に話しかけてくる。

彼女は黒と紫色のライダースーツに身を包み、黒い斧を堂々と持っていた。


「貴様……“アークゼノ”の1人か? 」


 路月は鎌を女性に向けながら呟く。彼の左目はただ女性を睨んていた。

僕は女性に詩音の自己犠牲心を馬鹿にされたようで気分を害していたが、彼は女性に対して怒ったりしないのか不思議で仕方がなかった。


「そう言うならウチと戦ってみる?まぁあんた2人相手でも今のウチに敵はないわ! 」


 そういうと女性は手から炎を出して僕達に襲いかかってきた。


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