3話:Strategy (戦略)

「ギャァァ!! 」


 僕が栄光という施設の外への扉を開けるや否やエラーが飛び出してきた。

あらゆるものが腐敗したような匂いが鼻を刺激する。


「…………中まで入ってきたか。」


 路月は涼しい顔をしてエラーを見つめている。それに対して何故かエラーは彼を見て怯えたような態度をとると、同時に首が彼の鎌によって刈り取られていた。

 彼は無言のまま外へ投げ捨てると何食わぬ顔で何故か扉を閉める。

僕はあまりにも彼が手際よく化け物を処理する姿を見て呆然とするしか無かった。


「幻夢、幻夢、行くぞ。」


 路月に肩を叩かれたことで僕はハッとすると彼の背中を追った。

そして扉を開けると外はもう暗く乾燥しているような空気が肌を刺激していた。前までは少し湿っていたような気がしていたがこれもイレギュラーの影響なのだろうか。

つくづくイレギュラーが原因とさえ言ってしまえばなんでも通るように感じてしまう。


 しかしエラーはどこから来たのだろうか。

イレギュラーの副産物と言えば響きがいいかもしれないが、そんな単純なものでは無いと僕の感が告げていた。

 謎が深まり段々答えがわからなくなる。

歩きながら考えていても答えが出ないが、僕は必死に答えを捜し求めて考えていた。



「幻夢、何か考え事をしてるな。考え事はするな、この状況で考えるのは致命的になる。」


 路月は歩きながら僕のことが気になっていたようだ。僕にとっては何を言っているのか理解が出来なかった。

考えすぎることが致命的になるとはどういうことなのだろうか。

 すると突然路月が思わぬ質問をぶつけてきた。


「幻夢はオンラインゲームをしたことがあるか? 」


 オンラインゲーム……。

最近では色々なオンラインゲームが普及しているのは僕も知っている。

しかし僕は父親が厳格なせいかゲームをまともにしたことがない。友達がゲームで課金したとか寝不足だとか聞いたことがあるが自分は経験したことがなかった。

 僕が横に首を振ると路月は驚いたような顔をした。


「今時オンラインゲームもしないとは珍しい。こう見えてオレは昔はゲームはうまかったんだぞ。プロの大会に一般人枠として出るくらいにな。」


 確か彼の職業はプログラマーからエンジニアだったような気がする。ゲーム上手い人がプログラマーになるというのは僕の世界では良く聞いていた。


「おおよそ5年前程だな……俺はとあるオンラインカードゲームでゲーム会社主催の大会に出たことがある。」


 路月は昔話し始める。僕にとってはゲーム界については全く知らず、見たことがない世界の話に興味をそそられていた。


「あの時の僕は幻夢と同じく考え込んで戦略を練っていたな。

しかしその大会のトーナメントである人に当たってから僕の考えが変わるような事が起きたんだ。」


 路月は天を仰いだ。

もうかなり暗くなっただろうか、段々と夜目よめが利き始める。白いシャツとパンツを履いているおかげで自分の姿だけでなく路月の姿が闇夜やみよに紛れることはなかった。


「そのある人って誰ですか? 」


 僕は誰なのか分からず彼に訊ねる。すると彼の口から僕が予想していなかった人の名前が出た。


「ゲーム界では“破壊者デストロイヤー”と呼ばれていた御剣鉄秤だ。

俺は彼と戦ったが、彼の奇抜な行動に対応出来ずに柔軟な考えができなかったという理由で惨敗したな。

全く手も足も出ないってのはこういうことを指すんだなと思って彼と握手したのは覚えている。」


 僕はこのような話をしている路月の姿を見ているとどこか楽しそうだった。

最初はミステリアスで怖いと感じていたが話してみるとそうでも無いことを痛感する。

そして彼は黒い髪をなびかせて話を続けた。


「しかし試合後に彼に言われたよ。

『状況は刻一刻と変わるんだ。考えることも大事だが想定外の事態には考えたって無駄になる。』とね。

手も足も出ないとかじゃないんだ、考え込み過ぎたのが悪かったんだ。」


 彼の言葉がずしりと僕にのしかかってくるのを感じる。経験談というだけで言葉の重みを感じるのは初めてだった。


『言葉はどんな武器にもなる。』


 昔に父親に言われていた言葉だったがこの意味を今になってはっきりと分かるようになった気がした。


「正直に言うとあの人には感謝している。博打が大好きで基本的にテキトーな人だけどな。しかし……まさかこんなことで御剣と出会うとは思ってもなかったな。強いてもの幸運ってやつかもしれないな。」


 改めて鉄秤と路月にはこんな関係性があったということが確認できた。だからこそ鉄秤は路月の性格を知っているからこそ少し頼っていたところがあったのだろうと思う。

 偶然の出会いだとはいえ、こんなドラマが隠されているなど僕は予想もしていなかった。


 しばらく歩いていると目の前に化け物に向かって大剣を振り回している女性が見えた。

 目に入ったのは白に赤いラインが入っているブーツとバトルスーツ、そしてウルフカットの紅色の髪の毛…………。

どう見てもその女性は詩音にしか見えなかった。


「朝火さん! 」


 僕は声の限り彼女の名前を叫んだ。

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