8話:Chaos (混乱)

 僕はドアを叩く音で目が覚めた。一体誰が叩いているのだろうか。眠い目をこすりながらドアを開けた。


「幻夢くん!朝だよ! 」


 目の前で友絵が笑顔をふりまいていた。

彼女は僕と似たような服装を着ていたが、女性なのか白色のスカートを履いていて彼女は桃色がベースだった。桃色のサイドテールと相まって彼女がとても可愛らしく思える。

 いや、確か彼女はアッシュの髪の毛だったような気がしたが気のせいだろうか。


「お、おはようございます。」


 僕は狼狽うろたえながらも返事をする。まだ完全に目が覚めきっておらず、じっとしていればまた寝そうな気がしていた。

覚醒と半覚醒の狭間はざまというのは今の状態だろうというのがわかったような気がする。


「防衛大臣の従美さんが大切なお話があるって。みんな待ってるよ。」


 一体なんの話だろうか……いや、待てよ。

大切なお話と言われると少し嫌な予感がして僕の目は一気に覚醒へと近づいていく。


 天本従美――

確かに防衛大臣はそんな名前だった気がする。


「分かった。急いで行くよ。」


 そうと決まればもう行かなければいけないと思いながら、僕はマントを羽織って自分の部屋を出ていった。


「遅い、雷電幻夢! 」


 僕は集合場所である“栄光”の会議室に着くとすぐさま従美から怒号が襲撃してくる。

昨日に彼女が言ってくれればよかったのだが、そんなことを言うのは言い訳にしかならないと抑えるしかなかった。


「申し訳ございませんでした! 」


 僕は急いで頭を下げる。すると彼女はいいぞと軽く言うと、椅子に座って話を始めた。


「さて、貴方達に伝えることがある!空間が歪んだりしている“イレギュラー”についてだが……。その歪みから沢山の化け物の存在が確認できた。」


 周りに動揺が起きる。

しかしそんな僕達をよそに従美は話を続けた。


「まだ人に危害が加えられたという報告はないが、いつか危害を加えかねない状況になるだろう。」


 僕達が寝ている間にそんな惨劇さんげきが起こっているのだ。改めて“イレギュラー”の恐ろしさを知って背筋が凍りそうになる。


「そこで“イレギュラー”の対策のために自衛隊を配属することになった。貴方達の努力と自衛隊の力でマノ世界を守ってくれ! 」


 従美は熱のこもった演説を僕達の前で繰り広げる。

それに対して僕達は唖然あぜんとしていた。まだ化け物がこの世界に現れたことを飲み込めていないのだ。

 無言の中、口を開いたのは路月だった。彼の左目はまるであらゆるものを見透かすかのように彼女を見つめていた。


「本当に化け物は現れているのか? 」


 その質問に対して従美はにべもなくねつける。

彼女の紫色の髪の毛が彼女自身の動きで揺れた。


勿論もちろんです。もし確認できないならば外へ出るといいですよ。そのお腰につけた武器で戦えるでしょうし。」


 僕は彼女の対応に苛立ちを覚えた。警察官である詩音はまだ別として、一般人で戦いのすべすらも覚えていない僕達にそんなことを言うのはどうだろうか。


「天本さん!それは言い過ぎです。オレ達一般人なのだが…………。」


 僕と同じく鉄秤も怒りを覚えていたようだ。防衛大臣でなければ掴みかかろうとしていただろう。

鉄秤は鋭い目つきで彼女を睨みつけながら喋っていると、それを遮るかのように従美が反論した。


「一般人?こんな武器を持っていて一般人とはよく言えたものだわ。」


 周りの空気が一瞬にして険悪になっていく。僕はその空気が嫌になり早く誰か何か起こしてくれと祈っていた。


「2人とも。対立してどうするの。友絵は2人とも世界を守るために仲良くした方がいいと思うな。」


 止めたのは意外にも友絵だった。確かに彼女の言う通りこれからどうするべきか考えなければいけないのに今更いざこざを起こすのは致命的だろう。

彼女は従美に向かって話を続けた。


「従美さん、友絵達を責めるのは良くないと思うな。

あなたが友絵達みたいな立場じゃないからそんなことが言えるんでしょ?友絵達は天使達の気まぐれで武器を貰ってこの状況下に置かれたのよ? 」


 友絵の言葉の弾丸がマシンガンのように彼女の心を破壊しにかかる。


「そ、そうね……。でも一般人でも貴方達の力が必要なの。それは分かってちょうだい。」


 僕はほっとした。友絵のおかげでこの険悪な空気が消えたのだ。少し無言の空気が流れていたが、誰かの言葉によってすぐさまその空気は壊されることになった。

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