7話:Preparation (準備)

 僕達は無言のまま車に揺られていた。

それもそのはず、“イレギュラー”が起きているという現実を突きつけられて打ちのめされていたからだろう。

 もう外は暗くなっており、あらゆるところで地形が変化している。

まさか僕がいたマノ東京が“イレギュラー”によって荒廃していく姿を見たくないと目を背けても、隣にいた水羽の表情で全てを察してしまう。

 そんなことを思っていると車はあるところで止まった。


「着いたわ。この施設の中に入って。」


 僕達は防衛大臣に言われるがまま駐屯地ちゅうとんちのような施設の中に入る。

彼女はとある部屋の前で足を止めた。

 壁や床は全て白に塗られている中に一際目立つ7つの扉があった。


「これから貴方達は“栄光”と呼ばれるこの施設で過ごしてもらうわ。この扉の先に7つの部屋があるから名前が書いてあるものを使って。」


 そう言うと防衛大臣は唖然あぜんとしている僕達を置いて部屋を出ていった。

少し無言の時間が流れたがそれを断ち切るかのように癒月が言葉を発する。


「まさかあなた達とこう出会えるなんてね……。嘘だと思ってたけれども本当とは誰もが思わなかったわね。」


 癒月の少し皮肉めいた言葉に反応するかのように、詩音が一息つくと矢継やつばやに呟いた。


「はぁ。“イレギュラー”とか狂ってる。何もかもが狂ってる。狂気としか言いようがない。」


 彼女の言った通り今の状況はまさに狂気だった。しかし僕達はその状況を受け入れるしかない。

僕はゆっくりと深呼吸をすると辺りを見回す。みんな暗い表情をしているのがはっきりと分かった。


「オレ達しかこの“イレギュラー”をどうにかするしか方法がないんだ。しかし……どうすればいいんだろうな。」


 鉄秤は周りを元気づけようとしたが最終的にはテキトーな発言をする。彼の言葉をみんな生返事で聞いているあたり、疲れているのがはっきりと見えていた。


「ふっ、御剣は相変わらずだ。なんとかなると思うしかない。」


 意外にも次に口を開いたのは路月だった。言葉はめちゃくちゃだが、彼の気迫きはくでみんなが頑張ろうという気持ちになる。

そして何よりもこの現実に対して前向きに考えているということが彼の言動ではっきりとわかったような気がした。


「そ、そうですね。そしてもうこんな時間だし寝て明日考えた方がいですよね………?ね、みんなもそうですよね……? 」


 水羽が賛同した後に彼女は不安そうにみんなの意見を聞きに回る。僕達は彼女の言う通りだと全員思ったのか、頷いた後に部屋に入っていく。

そして僕もみんなと同じく自分の部屋へと入った。


 僕の部屋はベッドと机と椅子しか置いていないかなり質素なものだった。しかしクローゼットがあるのは設計した人の優しさだろうか。

入口以外にも別のドアが1つあって開けてみると3点ユニットバスの部屋だった。

 僕は部屋をじっくり散策した後、机に1枚の紙を見つける。

そしてそこに書かれている内容を読んだ。


 この部屋のクローゼットにある服に着替えなさい。

書かれていることは質素だったが僕は紙に書いてある通りクローゼットを開く。

 確かに服はあったが、金色の留め金が3つ程ついている水色のベスト、水色のラインが入った白いズボンとマント、そして白いシャツがそれぞれ3着ずつしかなかった。そして隅っこには水色のラインが入ったブーツが置かれている。

 服は全て新品のようだが先にシャワーを浴びてから着替えようと思い、僕はクローゼットを開けたまま3点ユニットバスの部屋に入った。


 シャワーの水が僕の体をゆっくりと濡らしていく。

その水は暖かいような冷たいような微妙な感じだったが気にもとめなかった。

 僕はしばらくしてシャワーの水を止めたあと、洗面所で鏡を見る。

そこには濡れた黒髪を触っている僕の顔が映し出されていた。

僕は髪の毛をかきあげて改めて見ると、自分の黒い瞳が明らかに疲れを訴えかけているのが分かる。


 僕はその目を見て急に眠気が襲ってきた。これは急いで服を着替えて寝た方がいいだろうと思い、急いで体を拭いたあとに3点ユニットバスの部屋を出て服を着替える。

前もって準備してくれていた服に着替ながらマントは寝る時には邪魔になるだろうと思い、つけないまま布団の中に入る。


 かなり疲れていたのだろう。僕は布団に入ると直ぐに寝てしまった。

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