4話:Fellow (仲間)

 僕は他にも“アーク”となった人達がいるのだろうかと思いながら詩音と共に鉄秤についてきていた。


「着いたぞ。入ってくれ。」


 鉄秤はとある部屋の前で歩みを止めてドアを開ける。この先に一体何が待ち受けているのだろうかと身構えていた。


「失礼します。」


 僕と詩音はお辞儀をした後に部屋の中に入る。その部屋には様々な服を着た4人の男女がいた。

僕と詩音と鉄秤を加えてここにいるのは7人と言ったところだろうか。


「あなた達、まさか残りのアークかしら? 」


 ダークブラウンのボブが目立つ女性が僕と詩音に話しかけてくる。彼女の白衣から職業は医者だろうと推測するが、なんの職業までかははっきりと分からない。


「よし! これで全員揃った。みんな! オレの話を聞いてくれないか。」


 鉄秤は周りを見回して全員に聞こえる声で言った。僕を含め全員彼の方を向いて彼の話に聞き入る。


「みんなをここに呼んだのはみんなが天使達から選ばれたからだ。」


 鉄秤はゆっくりとみんなに聞きやすく語りかける。聞いた感じ彼は相当話慣れているような感じだった。


「こんなことを言うのもなんだがオレ自身も天使達の言っていることは信じられない。

 しかしここに全員集まった以上、親睦しんぼくを深めて天使達の話が本当だった時に対して備えておくべきだとオレは判断した。」


 鉄秤の発言でみんなの顔が少し暗くなっていく。しかしそんなことを気にもとめていない態度で鉄秤は話を続けた。


「とりあえず天使達が言ったことをみんなで共有しよう。誰か言うことはないか? 」


 言葉が少し怪しくなりながらも鉄秤は周りを見回しながら言った。すると黒髪の男性が手を挙げる。


「情報と言ってもな……。“アークゼノ”という存在が“7つの大罪”っていう悪魔の力を借りているって言ってたぐらいだな。」


 鍵路月かぎ ろつきという男が刃が黒い鎌を気だるそうに持ちながら言った。

昔はプログラマーだったが今はエンジニアをしているらしい。

ミステリアスな雰囲気が少し近寄りがたさをかもし出していた。


「私は“アーク”が私を含めて7人いるってことね。」


 先程僕に話しかけてきた女性が腕組みをしながら言った。

確か名前は雅楽癒月うた ゆずき

職業ははっきりと言わなかったが医療系の仕事をしていると匂わせていた。

しゃべっている途中で彼女のかけている眼鏡がズレそうになったのか慌ててブリッヂを指で押し上げている。


「友絵はね、この武器達は引き離しても気づいたら持ち主の元へ戻ってくるって天使から聞いたよ。なくしても安心だね。」


 常にニコニコしている女の子は上地友絵かみじ ともえ

アッシュのサイドテールと童顔どうがんから僕よりも年下のように見えたが彼女に年齢を聞いてみると実際は彼女が5歳ほど年上だった。

彼女はアルバイトをしながらアイドルをやっているらしい。


「次はわたしですね。おおよそ1ヶ月後に“マノ世界”と“ゼノ世界”が融合する“イレギュラー”が起こると言っていました。」


 白百合水羽しらゆり みずはが不安そうな表情で呟いた。

彼女の震えに合わせて小刻みにブラウンの髪の毛が揺れる。

後で話を聞くと彼女はピアニストをしているらしく、指が細くてすらりとしていた。


「あとはあたしと幻夢か。あたしは“アーク”と対抗する組織が存在していて“アークゼノ”というだけだ。」


 詩音は少し慌てたようにみんなに情報を伝える。

あとは僕の情報を伝えれば全員だが、聞いていて僕の情報が1番深刻ではないかと感じて心の中で動揺してしまっていた。


「僕は……近々“マノ世界”と“ゼノ世界”が融合して不安定になる“イレギュラー”という現象が起きて数年後には世界が滅亡するらしいという情報です。」


 僕の情報を聞いて鉄秤以外全員の顔が青ざめていく。やはり僕の情報が1番重大すぎるものだったのだ。


「世界滅亡とか……わたし信じられない。」


 水羽が震えたような声を出した後に頭を横に振り始めた。


「まぁ嘘じゃないな。オレの情報は“イレギュラー”を解決する方法は“アークゼノ”を倒して“マノ世界”にすることだからな。」


 鉄秤も難しそうな顔をして情報を話したかと思えば、みんながいる部屋を出ていった。


「こんなの嘘よね。友絵はまだ相方とアイドルとして頑張って有名になりたいのに。」


「そんなこと信じられない……夢よ……。」


 女性陣はほぼみんなパニックになりかけている。しかし詩音だけは冷静に目を瞑ったままなにか考え事をしているようだった。


「あまりにも現実離れしてるな。馬鹿げてる。」


 詩音はポツリと呟いた後、しばらくの間無言の時間が流れ始める。

もうこのような状況になった以上、僕達は天使たちの言ったことが嘘であることを信じるしか無かった。

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