5話:Reality (現実)

 僕のスマートフォンの着信音が自室に響く。


 もうあの時から2週間が経っていた。

正直に言えばあの時は何をしていたのかさっぱり覚えていないが、連絡先を交換したのは覚えている。

 慌てて電話に出ようとしたが、電話が切れて携帯のロック画面が映し出される。

その画面には黒髪のセミロングにピンクのカチューシャをつけて笑っている妹の写真だった。


 雷電紗麗らいでんさら――

妹は僕が高校生の時に殺人事件で亡くなっている。死因は絞殺で数年経った今でも犯人は見つかっていない。

妹が殺害された時には家族みんなが涙に包まれていたことを思い出した。


『お兄ちゃん!お兄ちゃん!幻夢お兄ちゃん! 』


 妹の言葉がふっと蘇ると、僕の目頭が少し熱くなる。

彼女は僕に懐いてくれて頭もいいし運動もできるハイスペックで誇りを持てるような妹だった。

 もし紗麗が生きていたら彼女はどうなっていたのだろうか。大学に行って充実したキャンパスライフを送っていただろうと思っていた時、それを阻害するように再び着信音が鳴る。

僕は動揺しながらも通話ボタンを押す。

 着信元には白百合 水羽という名前がスマートフォンの画面に映し出されている。


「もしもし、白百合さん。どうしましたか? 」


 僕は電話に出ると彼女の動揺したような声が耳に入ってくる。まだ完全に目が覚めていないのか、彼女に電話が来たという重大な事に気づいていなかった。


「どうしたでしょうかじゃないですよ!

 そんなことより外を見てください。大変なことになっているんです! 」


 僕は彼女に言われるがまま外を見る。

すると僕の目に入ってきたのは現実とは受け止めきれない異様な光景だった。


 “何か”が地形を異形化させている――

 僕の表現ではそういい表すことしか出来なかった。

その“何か”は段々と侵食していき、侵食された場所は荒廃した地形へと変貌させている。


 僕はそれを見て動揺するとスマートフォンを落としてしまう。その衝撃でスマートフォンの側面に傷がついてしまったことなど気にもとめなかった。


「幻夢くん!幻夢くん!聞こえていますか! 」


 僕は水羽の一言でハッとする。彼女もこれを見て僕と同じような状況だったのだろうか。

落としたスマートフォンを手に取ると口を開いた。


「あぁ……聞こえています。まさかこれが“イレギュラー”ですか?あの天使達の言葉は嘘じゃなかったんですか? 」


 僕は震える声で水羽に言葉を返す。嘘ではないかと思っても現実は非情で、外は“何か”によって段々と侵食されている。


「ほ……本当なんです。わたしだって信じられないんです。」


彼女の声が段々と暗くなっていく。


「白百合さん、大丈夫……大丈夫ですよ。」


 彼女を励ますのが1番いいと判断したが、自分も同じ状況下に置かれていると考えると自然と声が震えていた。


「だ、大丈夫ですよね……。」


 彼女の声が一瞬落ち着いたかと思えば少し泣き出しそうな声になっていく。彼女も頼りになる人がいなくて不安だったのだろう。

しかし僕で本当に良かったのだろうかという疑問が頭をよぎっていた。


「幻夢くんのおかげでわたしもう少し頑張れそうな気がします。では――」


 彼女はそう言うと、何故か彼女の方から通話が切れる。

 僕は通話の切れた画面を見つめながら軽くため息をついた。

他のアーク達も同じ境遇に遭っているのは事実だろう。

 他のアークたちは今何をしているのだろうかと思いながら僕はスマートフォンをポケットに入れた時、どこかからドアを叩くような音が聞こえる。


 一体なんだろうと疑問に思いながら僕はドアを開けると、そこには政府の人が僕を取り囲むようにそこに立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る