1話:Beginning (始まり)

「……きろ。」


 近くから聞き覚えのない声が聞こえるが、曖昧模糊あいまいもことしていて聞き取りずらく感じた。

五感の中で1番聴覚が最後まで残る感覚であるというのを誰かから聞いた事がある。

しかしこのような状況でそのような知識は役に立ちそうになかった。


「起きろ……。」


 先程はっきりと聞こえなかった声が時間が経つにつれて段々聞こえてくる。それと同時に視覚が戻り、僕はゆっくりと目を開いた。


「起きたな。雷電幻夢らいでん げんむくん、君にお話したいことがある。」


 目を開いても周りには誰もいなかった。

僕は幻聴か何かが聞こえているのではないかと疑ってしまう。

しかしその割には声が鮮明で何かがいるような形容しがたい気配のようなものを感じていた。


「まずは自己紹介からだ。

 われの名はラミエル、7大天使の1人だ。君も知っているだろう? 」


 ラミエル――

エノク書では7大天使の1人として扱われ、幻影げんえいの支配者と呼ばれているのは知っていた。

ミカエルやラファエルなどの他の7大天使に比べると有名ではなく、どうしても曖昧あいまいな知識になってしまう。

 ラミエルがなぜ僕に話しかけているのだろうかと僕はその声を聞きながら疑問に思っていた。


「その顔は知っていそうだな。

本題に入るが君を“アーク”の1人として我が選んだ。君はこれからアークとして“イレギュラー”が起きた世界を救って欲しい。」


 僕は困惑した。突然“アーク”とか“イレギュラー”とか言われても理解が出来なかった。

なにも答えることが出来ずにしばらく無言の時間が流れていく。

 その時間が苦痛で夢なら覚めてくれと願っていたがそれもむなしく、ただ無言の時間が長くなるだけだった。


「そんなことを言われても…………。」


 僕はラミエルに向かって正直な気持ちを述べる。

重大な事ならば“アーク”とか“イレギュラー”とかいう言葉を理解しなければ後に悲惨なことが起きるのは分かりきっていた。

僕は唾を飲み込んでラミエルに訊ねる。


「まず“イレギュラー”ってなんですか?

まさか……世界が崩壊するとか言いませんよね。」


 この状況では悲観的に考えたほうがいいと判断し、ラミエルの声がする方を向く。

流石にそんなことはないと心の中で思っていたが、ラミエルの言葉により裏切られることになった。


「世界は“マノ世界”と“ゼノ世界”がある。君のいる世界は“マノ世界”だな。

それが融合されてイレギュラーが起きると数年後には世界が崩壊して人間だけでなく全ての生物が死んでしまう。」


「そんな……。」


 僕は絶句した。

もうひとつ世界があるなんてパラレルワールドとか現実味のないことだと思っていたので衝撃を受ける。


 世紀末――

あまりにも現実的ではないが、もしそうだとしたらマノ世界が滅ばなくても世界が壊滅的な影響を受けるだろう。



「イレギュラーは避けられない。だからこそ君にこれからの世界を“アーク”の1人として託しているんだ。頼む……。」


 僕は頷く。それと同時に僕でいいのかという不安感が足元から襲いかかってくる感覚を覚える。

それが武者震むしゃぶるいなのかははっきり分からない。

しかしラミエルの話が本当ならば恐ろしいことになるということだけは確実だった。


「流石だ、我がマノ世界の人間の中で君を選んで正解だったようだ。

 そんな君に我から武器をさずけよう。」


 その声と同時に僕の手にずっしりと重いものを感じた。よく見ると槍のようでの部分は真っ白だがの部分が水色で逆輪さかわの所に水色の六角形の宝石がはめられている。


「これは……? 」


「この武器の名前か?“ラミエル”と呼んでくれ。

 これだけでも充分強いがトランスフォームと叫ぶと君は“ラミエル”の真の強さを発揮出来る。」


 ラミエルにそう言われ僕は“ラミエル”と呼ばれる槍をまじまじと見つめる。


「おっと、少し話しすぎたようだ。君はこの武器を持ってとある場所に行って欲しい。

 大丈夫だ、その場所へはこの武器が導いてくれる。では幸運を祈るぞ。」


 そう言うと何かがいるような感覚が一気に消えてしまっていた。



 それと同時に僕は目が覚めて飛び起きる。

変な夢というよりも明らかに夢でない不思議な感覚に襲われる。

もしさっきの夢が言っていたことが現実になって欲しくないと思っていた時、枕元になにか違和感を感じた。

しかし毛布が邪魔になっていてなんなのかははっきりと分からない。

 僕は恐る恐る毛布をがす。

違和感の正体を見た時、僕の血の気は一気に引いていった。


 そこにはラミエルの言っていた武器が僕に現実を突きつけるかのように道標みちしるべのように水色の光を発しながらそこにあった。

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