第17話
横井の停学が明けてから二週間経った日、俺は沢村と一緒に下校していた。
「でさ……」
「へえ……」
何気なく会話しているように見えるかもしれないが、俺も沢村もサシはちょっと辛いと思っているところだった。しかし横井はバスケ部脱走組の三浦とカラオケに行っているし、茂田は道を歩いていたらヤケドしたとかいう姉貴の世話で今日はもう家に帰ってしまっていた。それにしても茂田の姉貴の行動圏内には歩いてるだけで手を焼かれるところがあるのかと思うとこの町から出て行きたくなる今日この頃である。満喫ないし。
「誕生日のプレゼントって、何がベストなんだろうな」
「ベストを求めるから悩むんだよ。ベターで満足しとけ」
「おお……なんか深いな後藤」
「ああ、あとはこの理論を実践する機会さえあればな」
「なんかごめん」
「ははっ、気にすんなって」
と言いつつ、てめー沢村、俺は今笑顔を振り向けているが貴様が最近一年生の美少女と非常階段裏で昼飯を喰っていたのを俺はすでに目撃済みだ。枕を高くして寝ていられるのも俺の五月病が治るまでだと思えよな。
そんなこんなで俺が腹の中に底知れぬ闇を溜め込んでいると、横断歩道の向こうから不穏なツラがやってきた。
天ヶ峰である。
「お? おー、沢村と後藤だ。きみたち付き合ってんの?」
「でさ、停学してる間に横井んちで起きた乱闘騒ぎのことなんだけど……」
俺と沢村は話に夢中になっていて呼びかけに気づいていないフリをしたが無駄だった。天ヶ峰はすれ違いざま、俺たちの腹にポンと拳を当ててきた。
「なにしてんの?」
逆らえません。
俺たちは駅前のアイスクリーム屋でチョコミントアイスを食べたいのだということを打ち明けた。
「あたしも食べたい」
ほら見ろこれだ。これだからテレビで出てきたものをすぐに食べたがるやつには言いたくなかったんだ。ついてくるに決まってやがる。
「いや、天ヶ峰、あそこのアイスすげーまずいらしいぜ?」
「えー。大手チェーン店でおいしいとかまずいとかあるの?」
小ざかしいこと言いやがって。誰だよこいつに日本語を教えたのは。
「知ってる? チョコミントのあの緑の部分って虫を使ってるんだぜ?」
アイス屋の親父がうしろにいたら首を絞められかねない嘘で沢村が打って出た。が、天ヶ峰はアハハハと笑う。
「篭城戦を思えば少しはマシだね」
思うなよ。てかよく覚えてるなあんな嫌な思い出……
俺と沢村は小学校時代の悪夢を思い出してうなだれた。九つかそこらで篭城をキメこんだ経験があるなんてこの町で育つか戦国に生まれるかのどちらかだと思う。
「で? 今日は二人のうちどっちがお金持ってるの?」
ちっ、この人肌を暖かいまま剥ぎ取る悪魔め。
「アイス屋のクーポン券を重ねがけしてタダにするから、天ヶ峰の分はないんだ。ゴメンネ」
「じゃあそのクーポンはわたしのものだった気がする」
違います。
「あそこのクーポンは裏に名前を記載していないと使えないんだ」
「ええ? なにそのクーポン? そんな制度聞いたことないよ」
「アイス屋の親父に言ってくれ。とにかく俺たちは夏に向けてどういう手順で120種のアイスを攻略していくか考えるのに忙しいんだ。手芸部は部活でもしてろ」
天ヶ峰の脇を通り過ぎようとしたが、沢村がついてこない。なにしてんだ。
沢村は中空を見つめて、
「悪い、俺いかなきゃ……」
などと言い出した。
「腹でもいてえの? 無理すんなよ」と俺。
「すんなよー」と天ヶ峰。
「ちげえよ! くそ、おまえら人の気も知らないで……!」
「いいからいけよ。俺たちアイス食いにいくから」
「クーポン券を置いていけ」
「……! うわあああこの人でなしどもがああああああ!!!」
沢村はクーポンを投げ捨てて走り去っていった。
「ふふふ、クーポンゲット! ……でも沢村、どこいったんだろ?」
「なんだおめー知らねーのか。遅れてるな」
「ええ? なんなの? 教えてよ後藤!」
どうしようかな、と言おうとしたら腹に拳を添えられてしまった。やめてよこれ。ダメージないのに背筋が冷えるんだよ。
俺は仕方なく白状した。
「正義の味方やってんだよ、あいつ」
「ああ、バイト?」
違います。
「ほれ、あいつ手から火ぃ出せるようになっただろ?」
「?」
覚えてないねその顔。忘れるか普通? 記憶野が脳内麻薬で燃え尽きてんじゃねーの。
天ヶ峰は餌を待つ小鳥みたいな面になって、
「ああー。なんかあったかもそういうの。あれまだやってたんだ。で? 手から火を出してバイトしてんの?」
「バイトから離れろよ。ガスコンロがあればあいつなんかいらねえだろ。……おまえはその調子だと知らないんだろうが、最近沢村の周りには他の能力者がたくさん来るようになってな。野良の能力者とか犬飼さんのBITEって組織のやつらが」
「やっぱバイトじゃん」
だあ! やっとそこから離れたのに! 誰だよこんなわかりにくいネーミングにしたの……かっこいいと思ってたの?
「とにかく!」俺は仕切りなおした。
「なんだかしらねーが最近超能力者がこの界隈にうろついてんだろ。で、沢村はそいつらと戦ってるってわけ」
「つまり、今から戦闘パートってこと?」
うん……まあ……そうだね。
天ヶ峰はその場で地団駄を踏んだ。
「なにそれ見たい見たい見たい見たい見たーい!」
「じゃあ見にいくか?」
「え、いいの?」
俺に拒否権ってあります?
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