第16話


「ううん……はっ?」


 佐倉が目を覚ました。


「起きたか」

「あんたたち……ちょ、何コレ?」


 佐倉は縄跳びの縄で両手両足を縛られ、生徒会室の床に転がされていた。もぞもぞして縄から逃れようとしたが、縄は紫電ちゃんが全力で縛ったのでたぶんもう解くことはできない。


「くっ……この変態ども……この縄をさっさと外してよ! あたしに何をする気なの!?」

「事情聴取です」


 人をけだものみたいに言いやがって。


「ハンッ。事情聴取? あたしが口を割ると思ってるの?」

「と、申しておりますぜ、大将」

「ほう」


 学ランに白手袋をはめた恐ろしい紫電ちゃんが腕組みをほどいた。それを見ただけで佐倉の喉から引きつった悲鳴が上がった。あの左拳はすっかり彼女に西高生徒会副会長の危険性を刻み込んだらしい。

 紫電ちゃんが転がされた佐倉の顎を上履きの爪先で持ち上げた。それだけで佐倉は泣いた。


「あう……ごめっ……なさっ……なんでも……言いますからあっ……助けて……!」

「おとなしく質問に答えれば見逃してやろう」

「ありがとうございます!! ありがとうございます!!」

「さて……まず、誰の差し金で襲ってきた? 目的はやはり沢村か」


 佐倉はこくんと涙目で頷いた。


「はい……上からの命令で……」

「上?」

「私みたいなサイキッカーを集めて私兵団を作っている政府の機関です。BITEっていうんですけど、そこから指示を受けて……沢村くんを仲間に引き入れるようにって」


 仲間に? その情報は初耳である。


「沢村を仲間に誘ってんのか?」

「はい……というか誘うつもりで潜入したんですけどいつの間にかこんなことになってて……」


 まさかこれほどのフリッカー使いが都内の高校にいるとは思ってなかっただろうからな。


「沢村くんが入院してた時に上司が一度話を振ったみたいなんですけど保留されてしまって……で、今日、また断ってくるようなら殺してしまえとのことで」


 紫電ちゃんが胸糞悪そうな顔をした。


「標的が沢村だったからよかったようなものの、うちの生徒を殺そうなんて言語道断だ」


 紫電ちゃん?


「聞きたいことはまだある。おまえに指示を出した上司というのは?」

「犬飼って人です……」


 佐倉は床に額をこすりつけた。


「お願いです、命だけは! 命だけはご勘弁を!」


 すげえ大事(おおごと)になってるなあ。


「どうする紫電ちゃん。許してあげようか」

「駄目だ。地下牢に監禁する」


 聞かなかったことにするよ。

 紫電ちゃんは泣き叫ぶ佐倉の首根っこを掴んでどこかへ引きずっていった。俺と茂田は本当に自然な気持ちから、彼女の行く末に向って合掌した。


「強く生きていってほしいな」

「ああ」


 さて、昼飯も食わずに昼休みが終わろうとしている。


「それにしても今度は敵対する超能力者の集団……BITEだっけ? 沢村も大変だな」

「同じサイキッカー同士の争いか……俺たちには関係ないな」

「まったくだ。平和な学園生活を乱さないで欲しいぜ。本音を言えば冬まで沢村に用はないんだ」

「ハライタで二次災害起こすしな」


 俺たちは散らばった文房具類を片付けて生徒会室を後にした。ちょうどチャイムが鳴ったので小走りで教室へと向う。


「あのさ」


 と茂田が言った。俺は睨んだ。


「なんだ」


 茂田はにやにやしている。こういう時のこいつはどうせろくでもないことを思いついたに違いないのだ。


「いや、大したことじゃないんだけど……最近の女子高生って」


 茂田は頬をぽりぽりかきながら、


「バイトで人を殺しに来るんだな」

「………………」

「ほら、BITEで、バイト……」


 ははっ。

 そうだね。

 死ねばいいのに。



『登場人物紹介』

 茂田…もうちょっと間合いを計ればもっとウケたなと思っている。

 佐倉…BITEの構成員。PK能力者とのコンタクトミッション中に失踪

 紫電ちゃん…テコ入れだと思われている

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