第8話
伊澄総合病院についた。
「懐かしいな……昔はここがよく戦場になったもんだ」
「そうだね……回復したてのチームメンバーを回収に来たり、逆に息を吹き返した幹部クラスをもう一度ICUにぶちこんだり」
郷愁に駆られる俺と天ヶ峰を遠くから見て横井がため息をついた。
「なんだその思い出……おまえらいったいどんな小学校時代を送ってたんだよ」
「中学から引っ越してきた温室育ちは黙ってろよ」
「そうだよ、血の赤さも知らないくせに!」
「知らなくてよかったわ……おまえら目が荒んでるもん」
エントランス脇の駐車場に留めてあった高級車のミラーを見ると確かに俺たち二人は人殺しの目をしていた。が、俺は当時メッセンジャーをやっていたのでそれほど前線にはいなかった。それでもこの目つきか……
天ヶ峰がぽんぽんと馴れ馴れしく肩を叩いてきた。
「勲章だよ、後藤」
「うるせえ」
余計なお世話である。
俺たちは病院に入った。受付で沢村の病室を聞くと六階だった。
「案外すんなり教えてくれるもんだな」と俺。
「ね。でも受付には鉄格子がまだハマってたけど。もう病院戦なんてやらないのにねー病院に逃げ込む前に足潰しておくのセオリーだし」と天ヶ峰。
横井が頭を抱えた。
「もうやだこの町……」
「元気出せよ」
「おまえらのせいだよ!!」
「もー、横井うるさいよ? ここ白ビルなんだから静かにしなよ」
「白ビル……? やだ、その言い方がすでに怖い……」
横井はなにやら怯えているが少なくとも俺は手から炎を出したりはしないのでビビられるのは心外である。天ヶ峰に関しては口から火を噴いても少しも不思議じゃないが。
俺たちはエレベーターに乗って六階まで上がった。
「この浮遊感がたまんないよねえ」
扉が開くと天ヶ峰が真っ先に飛び出していった。きょろきょろしている。そんなに金が欲しいのか。いや、沢村キネシスが見たいのか。
「ねー病室ってこっちだよね」
「ああ」
俺たちは連れ立って廊下をいく。
横井が俺の肩を突いてきた。
「あん?」
「沢村さ、天ヶ峰の顔見たらなんて言うかな」
「なにも言えないだろうな」
「かわいそうに……俺、気が重いよ」
「仕方ない、やつに目をつけられた方が悪い」
「うかつに入院もできないのか……世知辛いな……」
俺と横井は顔を向け合って俯いた。
すると、前方から口論する声が聞こえた。天ヶ峰の声だ。
「ちょっと待って、面会謝絶ってどういうこと? そんなの受付で言われてないよ? しかも今自分で謝絶の札出したよね。そういうこと勝手にしていいの?」
天ヶ峰の前、沢村の入院している個室605号室を通せんぼするように、スーツ姿の女性が立っていた。べっこうぶちの赤い眼鏡をかけている。
「あなたには関係ないことよ。沢村くんは疲れているの。今日は……いえ、もうここへは来なくていいわ」
女性の高圧的な態度は俺でも少々腹に据えかねた。けど美人だからすぐに許した。美人じゃしょうがねえな。
俺は天ヶ峰の肩を叩き、
「仕方ない、天ヶ峰、今日のところは引き下が」
ごきっ。
「ギャァァァァァ俺の腕がァァァァァ!!」
「後藤ォ――ッ!」
横井が駆け寄ってくる。
くそっ、頭に血が上っている人間にうかつにさわったのが間違いだったぜ。
俺は気息を充実させて痛みに耐えた。
天ヶ峰は俺の腕をねじった姿勢のまま、女性をにらみつけた。
「カチンときてるんですけど」
「あら、ごめんね。でももう子供じゃないんだからわかるでしょ? 世の中には事情ってものがあるのよ」
「ふうん――子供、ね。そういう割にあんたもまだ大学出立ての歳なんだね」
「えっ……なっ!?」
女性が驚いたのも無理はない。天ヶ峰はいつの間にか、何かの身分証明書らしきものを指でつまんでしげしげと眺めていた。いまの一瞬で女性からスッたらしい。
「いつの間に……まさかあなたもサイキックを……?」
「さあ、どうだろね、国家異能特別監察局局員の犬飼今宵さんなら……わかるんじゃない?」
天ヶ峰はにやにやしながら身分証を女性――犬飼さんに投げ返した。犬飼さんはぎっと歯を食いしばったが、大人の女性らしく、呼吸ひとつで冷静さを取り戻した。
「ここじゃ都合が悪いわ。屋上へいきましょう」
『登場人物紹介』
天ヶ峰美里……伊澄西小の『愛死苦(アイシクル)』。元いじめられっ子。圧倒的な戦闘力を誇る。
犬飼今宵……国家異能特別観察局局員。
茂田……逃げた。
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