第3話

 駅前には制服姿の高校生がちらほら見えた。最近、帰宅部というのは爆発的に増えているらしい。俺もそうなのであまり言えた口ではないが、吹奏楽部の演奏やバスケ部のバッシュの音が放課後になっても聞こえてこないのは少しだけ寂しい。

 俺がそんな郷愁に駆られていることも知らずに、茂田と横井は仲良くドーナツを頬張っている。茂田は食い物を食べると機嫌が一発で直るので、横井はたまにこうやって茂田に与えたストレスゲージをチャラにしている。またさらにたまに、おごっている時などはその健気さに涙が出てくる。己のKYに魅入られし哀れな男よ。


「このチョコのぬめり加減がたまんないよなー」

「もぐもぐ」

「茂田は何味が好き? 俺はねー」

「むぐむぐ」


 はたから見ると怪しい二人組である。俺はちょっと距離を開けた。そして茂田の身体で隠れていた向こう側が見えた。

 沢村が走っている。その姿はすぐに路地に吸い込まれて消えた。俺は茂田の脇を肘で小突いた。


「んあ? どうした後藤」

「沢村が走ってんのが見えた。ちょっち追っかけようぜ」

「おう」


 茂田がごくんとドーナツを飲み込んで頷いた。


「えー……走るのー?」

「うるせえ横井」


 俺たちは駆け出した。

 ひとつ路地に入ると駅前の喧騒が嘘のように消える。聞こえるのは、先をいっているらしい足跡。

 だがどうやらそれは、


「二人いるな」

「気づいたか茂田」


 俺は眼鏡のつるを中指で押し上げた。


「やりおるわ、西高の流星群(シューティングスター)よ」

「ふっ、まあな……修羅場くぐってきた数は伊達じゃねえってことよ」


 こんなことばかり言い合っているから横井がまじめな話も小芝居だと受け取ってしまうのだろう。

 たったったったった。

 俺はバテた。


「ひぐっ……うぇ……げふっ……」


 わき腹に乳酸がたまって爆発しかけている。呼吸ができない。

 じぐざぐ走行し始めた俺に横井が肩を貸してくれた。


「横井……!」

「無茶すんなよな、まったく!」


 白い歯を見せて横井が笑う。その笑顔が最高にむかついた。俺は最後の力をこめて横井にボディブローを食らわした。


「げうっ!? なんで……」

「うるせええええええ!!!!」


 ランナーズハイになった俺は茂田を追い越して路地裏の暗闇めがけて突っ走った。


「いいぞ後藤! おまえいま輝いてるよ!」

「あったりまえだろおおおおおお!!!!」

「うう……こいつら意味わかんねえ……」


 横井の嘆きを背に、俺はビルとビルの隙間、路地裏の空白地点へと飛び出した。

 飛び出して、その灰色の空き地に広がっている光景を目の当たりにし、そのまま室外機の裏へ転がりこんだ。茂田、横井も避難してくる。

 俺たちは室外機から頭三つ並べて顔を出した。

 空き地の真ん中で、沢村と少女が対峙している。

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