第2話
放課後。
俺はとりあえず茂田とバスケ部に入ってやめた横井と教室に居残り、沢村キネシスについて話し始めた。
「……というわけで、五限の異臭騒ぎは田中くんのものすげえ屁ではなく、沢村の仕業だったんだよ」
はあああ、と横井が深々とため息をついた。どこか嬉しそうだ。
「まったく後藤は仕方のないやつだなあ、俺たちもう高二なんだぜ? そういう実は自分たちのクラスに秘められた力を持ったなんとかの生まれ変わりが! みたいなのさー小さいうちはいいけどもうどうかと思うよ? なあ茂田」
「問題は沢村が沢村キネシスをどうするつもりなのかだな」
茂田の華麗なスルーっぷりに横井が吹いた。
「茂田!? なんで信じてんの!?」
「え、いや、だって俺も見たし」
俺は満面の笑顔を茂田にくれてやった。
「おまえならそういってくれると思ってたよ」
「当たり前だろ」
ピシガシグッグッ、と俺と茂田は熱い友情を交換しあった。横井は呆然としている。
「お、おまえら俺を担ぎやがって……あれだろ俺が話に加わったら笑い者にする気なんだろ?」
俺は不思議そうな目をつくろって横井を見た。
「あれ、横井いたの?」
「おまえが呼んだんじゃねーか!!」
「そうだっけ? 覚えてないなあ」
首を捻る俺に、茂田が深刻そうなツラを向けた。横井はハブられて押し黙る。
「で、沢村は?」
「帰ったんじゃね。あいつ部活もやってないし学校に残ってたら逆に怖いわ」
「おいおい後藤」
茂田が顔をしかめた。
「なんで追いかけなかったんだよ。沢村が沢村キネシスを使って悪さを働くかもしれないじゃないか」
「俺は沢村をな、信じてるんだよ。これでも幼稚園からの付き合いだから」
「嘘こけ。おまえと沢村んちだいぶ遠いじゃねーか」
「それが答えだ」
横井が箒をぶんぶん振り回しながら「あー野球やりてー」とか言い出した。話に混ぜてもらえないのでストレスがたまってきたのだろう。これだからゆとりは困る。クソでもしてろ。
「まあいきなり人間燃やしたりはしないだろ。そんなやつだったらすぐにNASAに電話して引き取ってもらうわ」と俺。
「NASAって宇宙開発のなんか偉いとこだろ、沢村は管轄外じゃねーかな」と茂田。
「じゃあ何SAだったら沢村を引き取ってくれんだよ」
「何SAでも無理だろうな。可能性があるのはSASAKIか……」
SASAKIというのは、俺たちの通っている高校の体育教師である。熊みたいなおっさんなので新入生からは恐れられているが、実は結構気のいい人だったりする。たまにお菓子をくれる。
「佐々木教諭か……案としちゃ悪くねーな。大人を頼るっていうのは」
「せやろ」と茂田。ちなみに埼玉出身である。
「だがまあ、言っても信じてもらえんだろう。沢村も自分から進んで沢村キネシスを人に見せびらかすとは思えん」
「するってえと、沢村本人にも話は聞けそうにねーか」
「ヘタに刺激すると俺らが沢村キネシスの餌食になるかもしれん。あいつは追い詰められると机をひっくり返して泣き喚くタイプだ」
「なんだか俺、沢村のことが嫌いになりそうだ」
「そういうな茂田。なんとか助けてやろうじゃないか、クラスメイトのよしみで」
「ねー」横井が箒に顎を乗せて不服そうに言う。
「まだその小芝居続けんのー? もういこうぜー俺さー新作のドーナツが食いたいんだよー明後日までだからさー一緒いこうぜーなー」
茂田が戦争映画を見るようなツラで横井を見た。
「いけば?」
茂田、ちょっとキレ気味である。まあ気持ちはわからなくもない。さっきから横井は水を差す以外のことは何もしていない。そのまま傘でも差して帰れと言いたいのは俺だって同じだ。なんでこいつ呼んだんだろ。
横井はちょっとひるんで、
「あー……あ、沢村はさ、その沢村キネシス昔からできたわけ?」
話に乗ってきた。これ以上茂田の右拳に眠るコークスクリューを目覚めさせるのは俺にとっても得ではない。俺はボールを受けてやった。
「その線は薄いだろうな。俺が見たとき俺よりも沢村がびっくりしてたからな」
「じゃあ急に沢村キネシストになったわけか……」
ふうーむ、と横井は口に手を当てて考え始めた。
「なんでなったんだろな?」
「沢村の三次元への絶望が未知への扉を開いてしまったのだろう」
したり顔で茂田が言う。
「え、沢村って二次元派なの?」
「むしろこのクラスの男子で純血の三次元派はおまえしかいないよ横井」
横井はショックを受けている。時代に取り残された哀れな男よ。
ちょうど話題も二次元という一般教養へ入り込んだところだし、横井の腹がぐうぐう鳴るので俺たちはドーナツを食いにいくことにした。そしてそこで、俺たちは横井のあだ名を再認識することになる。
人呼んで『当たり屋横井』。
適当に町をぶらついただけで、なにかしらのイベント事に遭遇する体質を持つ男。
でなければこのKY野郎を俺と茂田のパーティに組み込んだりはハナからしないのだ。
魔よけならぬ暇よけというわけである。
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