第31話 譲れない物ってありますか?

 大きなシャンデリアがいくつも立ち並び、大きな部屋を照らす。照らされ、勝ち誇るように咲く黄金であしらわれた装飾品達。赤い絨毯と、重く垂らされる重厚なカーテン。


 何個も丸いテーブルが立ち並び、それを覆う大きなシルクの布。その上に立ち並ぶ、豪華すぎる和洋折衷の料理達。


 映画の中だと錯覚するけれど、これは紛れもない現実の会場。けれど、これが高校の中にあります、なんて誰が信じるんだろうと僕は思う。


 優雅に着飾られた美男美女が楽しげに笑う社交界の真っ只中、いやに手触りが気持ちいい黒いスーツに彩られた僕、花影日向。


 そう、学園を上げての高校交流会が遂に来てしまったのだ。


「ええ、そうなんですねぇ。うふふ、それはとても喜ばしいですわ。」


 赤い花が咲きほこるような真っ赤なドレスに身を包んだ杠華蓮先輩が優雅に談笑を続けている。


 あれ誰ですか?つい数日前まで、包丁投げてた人には見えないんですけど......。


 化粧をしている杠先輩は、その記憶があったとしても、とても美しく感じる。リップグロスで彩られた唇が踊る度、目の前の男性陣はとても動揺したように笑みをこぼす。


 そしてそんな男性陣に優しく微笑みかけている風だ。実際は、心の中で色々な罵詈雑言雨あられの嵐を呟いているんだろうなぁと思ってしまう。


「これ、うちの新商品です〜ぜひぜひ感想を〜」

「あらまぁ、皐月家の。」

「可愛い〜」

「これ美味しいですねぇ〜ぜひわたくしの商品も―」

「あらあら、わたくしのも〜」


 もち丸くんこと、皐月駿くんは自社の新商品やケーキを会場まで運んで、来客達をもてなしている。なるほど、好感度を上げながら、アピールもできるんだ。すごいよ、もち丸くん。


「おほほほほ!この優美な交流会に、似つかわしくないお方がいてよ!」

「あ?」


 あっちでは、一人ご飯を浴びるように食べている翡翠桜雅くんがなにやら女性と、その付き人の女性達に絡まれている。


 白いスーツに身を包んだ桜雅くんは、ピアスも外さないし、腹が減ったと自分を貫いている。それが気に食わなかったのかな、長いブロンドの髪の毛が大きくカールされた女性に詰め寄られている。


 今日び、おほほなんて初めて聞いたけど......。


 助け舟を出そうと、動こうとしたけどそれに気がついた桜雅くんがこちらにニヤリとしたり顔をして、待てと合図をしてくれた。


 その様子に付き人の女性たちはなんだか頬が赤らんで、僕もなんなら少しドキドキしてしまった。


「聞いてますの!?」

「あーあー聞いてるぜ。それであんた誰?」

「野茨(のいばら)ですわ。庶民」

「へー」

「やはりくるべきではなかったですわね。こんな庶民の―」


 なにやら文句を言おうとしている野茨さんの桜雅くんは近付き、顎をクイッと上げた!?何その技!?


「良いじゃねぇかそんなことは。あんたみてぇな別嬪さんに会えるんだからな。」

「な!?ぶ、無礼な!」


 振り払おうとする弱々しい手を桜雅くんがすかさず、掴み、手の甲にそっと口付けをした。


「またな。」


 そう言いながら、茹でダコとなってしまった野茨さんと付き人の皆さんを置いて、スタスタとお皿を持って、その場を離れてしまった。


 あわあわとなっている僕と目が合った桜雅くんは華麗にウインクをしながら


「な?」


 とだけ小さく口パクして次のテーブルへ行ってしまった。


 いや、な?じゃないけど?


 もう怖いんだけど桜雅くん。そっちの道で食っていけると思うし、なにより将来ナイフとかで刺されないか不安になってきた。


「あら、花影家の」

「は、はじめまして。」

「うふふ、こういう場は初めてかしら?」


 突然話しかけられた僕はちゃんと返答できただろうか。桜雅くんよりも大きい付き人の執事のような人を従えた女性。


 赤いロングの髪の毛がシュシュで、整えられ、キリッとした瞳が非常に特徴的な女性。杠先輩とは系統が違うけど外見だけで判断すると強気な女性に思える。


「高校交流会とは言ったものね」

「?」

「この社交界もどきでどれほどのお金が、動いているのかしら。うふふ、面白いわ。」


 確かに、言われてみればそうだ。僕や桜雅くんは商売を生業としているような家じゃないけど、もち丸くんは自分の会社を存分にアピールしている。


 杠先輩も他校と、自身の生徒会という地位で様々な交流を取っている。


 なんで僕はここに......。


「なんでここにいるんだろうって、貴方思った?」

「え?」


 見透かされた。僕の表情からか分からないけれど、僕の返答を聞くと、とても挑戦的な笑みを浮かべられた。


「ふふふ、姉の後ろで隠れている貴方には不釣り合いかしらねここは?」

「そ、それは......」


 何も言い返せなかった。僕は今まで、姉に仕事を任せていたけど、それは花影家の為だと言い訳していたに違いない。


 慣れないからと家事をして逃げていただけなのかもしれない。


「まぁあの子もそうだと思うけど?」


 あの子と刺された先にいる女性。


 長い絹のような美しすぎる黒髪。素朴でいながら、主張しすぎないピンがその綺麗な黒髪を支えている。


 どことなく可愛らしさと美しさを兼ね備えたかのような、調和の取れたような顔はピンのそのおかげで、この社交界の中でも負けない主の顔を出させていた。


 そして淡いドレスに隠せないスタイル。世の男性の目を引き、世の女性に恨みったらしく憎まれるようなそんな小悪魔的効果を出している。


「とても綺麗な人ね。知り合い?」

「ま、まぁ」


 美空先輩先輩。隣の女性の評価は正しく、現在も多くの男性にダンスの誘いを受けている。


 でも、必死に誤魔化すようなその笑った顔を僕は真っ直ぐに見れないでいた。視察授業の時のような、そんな顔をして欲しくない。


「私はもう行くわ。花影日向くん?うふふ、暇つぶしにはちょうど良かったわ」


 それだけ言い残し、つかつかとヒールを響かせながらその女性は行ってしまった。



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