第30話 交流会ってなんですか? 2

 その日から特訓の火蓋は切って落とされた。元々、人の前に出ることがない僕にとってダンスやらなにやらはとんでもなく大変だった。


 ダンスのステップを間違えれば竹刀が飛んできて、ターンのタイミングを間違えたら包丁が飛んでくる。


 包丁あたりで、杠先輩を杠教官として改めて呼んでいたのだが、僕は間違えて普通に『杠教官』と口に出してしまったりした。


 恥じらいながらも、訂正も包丁も飛んでこなかったので、良しとする。


 その後もグラスの置き方をミスしたら、ドロップキックが、社交的な会話で直ぐに答えが出なければ無駄に硬いゲーム機が飛んできた。とりあえず角が痛い。


 後で、なんのゲーム機か聞いておこうかな。


 そして、それは美空先輩も同じで、元からちょっとドジっ子らしく何も無いところで躓いたり、グラスを滑って落としそうになって、太ももでキャッチ。


 したのはいいのだが、そのあとどうすることも出来ずに泣きながら助けを呼ぶなど。


 グラスが羨ましいなんて考えてないです。本当です。


 反対にもち丸と桜雅くんはとても素早く上達していった。もち丸くんは大企業お菓子メーカーの一人息子からだろうか、ほぼ全てをつつがなくこなす。


 こんなもち丸くんは見たことがなかったので、純粋に尊敬した。


 桜雅くんも学年一位をキープするほど頭が良くて、地頭もいいのですぐに飲み込んで上達していく。


 若干ホストみたいだな、と思ったけどこれ以上怪我を増やしたくないので口を噤んだ。


「まったく、少しは桜雅ともち丸くんを見習いなさい。」

「滅相もないです......」

「ぐ、ぐぅの根も出ない正論です〜......」

「おい、なんでもち丸だけ、若干丁寧なんだよ」

「金髪ヤンキーは黙ってなさい。はぁ、あんた達はリズムに乗れて居ないレベルじゃないわね」


 ぐ、確かにリズムには乗れていないけど、初めて聞く曲をどうしろって言うんですか〜。


「き、曲のチェンジを提案します!」

「はい?」

「き、きっと踊れないのは、そのぉリズムに乗る以前の問題だと思います!全然面白くないです!アニソンとかボカロがいいです!」


 ふんすふんすと、可愛く抗議する先輩の横で僕も真顔で頷く。


 ボカロってなんだろう......。


 呆れた、とでも言いたそうな杠先輩はスマホをポチリポチリと操作すると、僕も聞いたような歌が響いてきた。


 これって......。


「先輩の家で見たアニメの歌だ......。」

「ま、これで適当に踊ってみなさい。それである程度は、基礎の基礎のそのまた基礎ぐらいは理解できるでしょ?」

「は、はい!ありが―」

「ちゃんと踊れなかったら、覚えてなさい?花影・くん♡」


 こ、殺される......。この感じは確実に殺られる。


 にこやかに笑っているけれど、あれは確実に殺意のこもった笑みと語尾だ。


 初めて先輩のゲームをやらせてもらうっていう時に、間違えてセーブデータ消そうとした時に感じたあの悪寒。


 というかなんで僕だけなんですか、教官!?


「み、美空先輩......」

「は、はい......。華蓮ちゃん...目がマジですね。本気と書いてマジです......!」


 僕達はコクリと頷き、慣れない手つきで踊り始めた。


 最初は杠先輩の殺意が怖かったけれど、サビ前になると不思議と体は動く。先輩と初めて見たアニメのシーンが脳裏に浮かぶ。


 リズムも、歌詞が表現したいことも、全部全部が僕の体を動かしてくれる。今までの思い出が、僕達を動かしてくれるみたいだ。


 曲が終わり、お互いに息を切らしているけれど、そんな僕達の顔には満足感が満たされている気がする。


 ぱちぱちと小さな拍手が、僕達を包み込んだ。


「良かったわよー」

「日向やるじゃん!」

「花ちゃん、良かったよ〜」

「皆......!先輩やりましたね!」

「ええ、ええ、やりましたよ私達!これで―」

「さ、体が覚えているうちにどんどん踊るわよ。」

「「え」」


 ありえないものを見る目で僕達は教官を見る。だって、一曲だけでこんなに疲れているんですよ?足が産まれたてみたいなんですよ?


「及第点ギリギリよ。というかアニソンかけれるわけないじゃない。さ、次よ」

「「......」」


 そうして僕達は、文字通りぶっ倒れるまで踊り続けた。翌日、無事筋肉痛になってしまった僕だけど、それでも杠教官の指導は、続いていった。


 やっぱり入る学校間違えたのかなと少し真剣に考えてしまった。





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