第32話 譲れない物ってありますか? 2

「主が失礼を、私から謝罪を。申し遅れました、私は執事の玉木棗たまきなつめと申します。以後お見知りおきを」


 差し出された手を僕は驚きながらも、ゆっくりと掴む。握手のような格好になったけど、このあとどうしたらいいんだろう。


「花影日向様...ですね。お噂はかねがね。どうか主の言ったことはお忘れください。悪い癖なのです。」

「いやまぁ事実ですし......。ありがとうございます、棗さん。」


 にこやかに笑う棗さん。だけど、慰められたような気がして、気持ちの悪い感情で胸がモヤモヤとする。


「敬語でなくていいですよ。私もあなたと同じ高校1年生ですから」

「ええ!?棗さん、僕と同い年なんですか!?」

「ええよく言われます。喝采学園の中でも。おや...あの方は......。」


 僕達が軽く挨拶をしている間に、美空先輩を誘っていた男子達が、急にサーと引いていく。そしてその奥から、一人の男性が、先輩の手を取った。


 それは、白馬の王子、と呼称しても控えめなような人物。


 綺麗なブロンドの髪の毛、どこか異国を感じさせる綺麗な緑色の瞳。それに負けない美しい顔立ちと恵まれたプロポーション。


 純白のスーツに身を包んだその男性は、美空先輩に近づいた。


「ふむ、日向様。ご無礼をお許し下さい。」


 そう言われ、僕は棗さんに抱え上げられた!?ち、ちょっと何してるんですか棗さん!?


 制止する声を聞かずに、棗さんはぐんぐんと群衆を抜けるように走り抜け、その男性の少し後ろ辺りに下ろしてくれた。


 驚いたような、笑いをこらえるような美空先輩と、訝しげに僕を眺める白馬の王子様。


 文句を言おうと後ろを振り返ると、棗さんはもうそこに居なかった。一体、何がしたくて.....。


「邪魔が入ったけれど、僕のお誘いをお受けしてくれるかな、麗しい人?」


 は?


 何が起こってるんだ?なにやら周りでは女性がキャーキャーと黄色い声援を上げているし、男子もまぁあいつが出るならといった諦めた空気が漂っている。


「い、いや、さ、先程言いました......よね?」

「踊る相手をもう既に決めていること......ですか?ですが、貴方をより美しく踊らせるのは僕以外いないと思いますが?どうか、お考えを」


 バキィと何かが潰される音が聞こえたような......。恐る恐る目を向けると、青筋をうかべた杠先輩が、金属製のお玉をへし折っていた。


 え、凄く怒っているんだけれど?とても怖いんですけど?というか金属製なんだけど......。


 僕はまた視線を美空先輩に向けると同時に、アナウンスが響く。


「これより、最後の演目が開催されます。どうか皆様、ステージの方へお越しください。」


 ダンスを促すアナウンスが響き渡る。そういえば、僕もダンスの相手を見つけないと!


 でも、僕は......。


 そう思っていると視界に映る美空先輩。


 美空先輩はとても顔を赤らめながら、つかつかと僕の目の前まで歩いてきて、棒立ちする僕の両手を取ってにこやかに笑った。


「私のダンスの相手......お願いしてもいいですか?」


 少しだけプルプルと震える指先。その行動に驚くような白馬の王子様と周りの視線。遠くでガッツポーズを決めている杠先輩と桜雅くんも目に映った。


「え、で、でも、これじゃあ......」


 これは交流会だ。他校生と親睦を深めるという小さな目的もある。だから、普通は違う学校の人と踊る為に、会話をしたり、食事をするんだ。


 だから杠先輩も桜雅くんも、もち丸くんもあんなに動いて......。


「貴方がいいんです。日向くんがいいんです......日向くんじゃなきゃ......嫌なんです......。」


 この学校の為とか、生徒会の為とか、部室の為とか、その全てがその笑顔で霞んでしまう。ああ、なんて幸せなんだろう。


 僕はゆっくりと、美空先輩の頬に触れて


「いいん......ですか?」


 なんて震える声で呟いた。それでも、美空先輩はゆっくりとうなづく。


「僕も、僕も、貴方と踊りたいです......。」

「はい......!」


 美空先輩の顔にはどう映っているだろう。変な顔してないかな、変な感じになっていないかな。


 でも、僕は嬉しすぎて涙が流れるのをぐっと堪えてステージへと美空先輩を引っ張っていった。



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「あとがき」


 色々と考えましたが、あと4話で完結と致します!同じく毎日更新ですが、よろしくお願いします!!!

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