第17話 視察授業ってなんですか?
鐘の音を聞きながら、夕陽で照らされた廊下を先輩達と歩きながら学校を出ようとしていた。
「いいんですか、本当に借りても?」
「いいですよ〜。」
僕は、鞄に入っているPAPを確認すると周りをキョロキョロと警戒しながら歩く。
「大丈夫よ誰も盗りゃしないわよ。」
「そ、そうですか?」
「でも、やっぱり操作が下手ね〜。なんオチしたのよ?」
「いやぁボタン操作がやっぱり覚えきれなくて......」
「でも、初めてにしては覚えが早いと思います!いやぁ〜楽しみですねぇ楽しみですぅ。ふふふ」
そう笑う美空先輩は可愛いと思ったけど、背景に並ぶまだ見ぬ多くのゲームたちの残像が見えたような気がして、背筋が凍る気がした。
「そういえば花影。あんた今度の視察どうするのよ」
「あ、そういえば美空先輩のクラスに行こうと思ってたんですよね」
「ふぇ!?私のクラスですか!?な、何故に......?」
「え?だって先輩となら楽しそうじゃないですか?授業も」
少し頬が赤くなる美空先輩と、少し驚いて笑みがこぼれる杠先輩。
「驚くわよ〜花影。」
「ちょ、ちょっと華蓮ちゃん!」
何やら慌ただしく手を振る美空先輩。ん、なんで焦るんだろ。あ、普段の若干ドジっぷりが顕著に出る所を危惧してるのかな?
僕はあわあわと顔を隠すような先輩の手を取り、瞳をじっと見つめながら心を告げた。
「先輩大丈夫ですよ!」
「ふえぇ?」
「僕はどんな先輩も受け止めますよ!」
「は、はわわわわ!」
耳まで真っ赤になる美空先輩と、ジト目で睨む杠先輩。
「あんた、なんでデートイベントすっ飛ばして好感度上げてくるのよ。なに、チーター?」
「?」
何やらよく分からないことを杠先輩が言っているけど、うん、これを理解するにはなんだっけえーと。......経験値が足りない?だっけかな。
「まぁいいわ。私達は二年F組よ」
「F組......やっぱりマンモスですね......」
多分F以上まだ続くんだろうけど、僕は聞かないでおいた。その後もたわいも無いような話をし、僕と杠先輩はLimeを交換した。
美空先輩は何やら複雑な面持ちで見ていたけど、とりあえずスルーしました。
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そして先輩達から借りたPAPでモヌハンのエンディングを見ることができた僕には、これから待ち受ける1週間にも及ぶ視察期間が訪れる。
もちろん、僕は美空先輩と杠先輩のいるクラスに選択をした。あとは桜雅くんやもち丸くんと被るように選択した。
さすがに1週間ベッタリと一緒なのは気が引けたし、どうせ見るなら様々な授業を見てみたいと考えが変わったからだ。
そして視察授業の一日目。僕は二年生の階へと行き、二年F組の教室に来た......はずなんだ......けど?
そこには教室から溢れかえるような人の波があり、鬼気迫る表情で我先にと教室に入る生徒達。
視察授業は一応人数制限が無いとの事なので、大きい教室で行われる場合もあるんだけど......。
「おい、奥がつっかえてるぞ!」
「私が先よ!」
「このビックウェーブに乗るしかないでしょ!」
「授業するってレベルじゃねぇーぞ!」
まさにこれは......
「「阿鼻叫喚だ」ね」
ぽつりと呟いた台詞が誰かと被った。
「あれ、日向くんも?」
「橘さん?」
我らがクラスの副委員長、橘昂。深い緑色の髪の毛が窓から吹く風に揺れる。長い三つ編みが二つ肩から伸びる。眼鏡姿の彼女はゆっくりと微笑みを僕に向けた。
「日向くんも、美空先輩と杠先輩狙い?」
名前を言われてるドキッとした。確かにそうではあるんだけれども、僕の口はどうやら濁すことを選んだらしい。
「え、えーと授業に興味が?」
「なんで疑問形なのよ。ふふ、まぁ私も同じような感じね」
「それで、さっきの先輩方の名前は?」
僕は疑問に思ったことを口にした。見知った名前が出ることは嬉しいんだけど、その名前とこの人集りが関連するのかなぁ?
「マンモス高校だからね。いるのよ、学園のアイドルみたいな先輩とか同級生とかが。他にもいるけど、美空先輩と杠先輩はその二強ね」
た、確かに美空先輩は本当に可愛いし、杠先輩も美空先輩に負けないぐらい可愛いと思う。え、というかアイドル的立ち位置なの?それってすごい事じゃないの?
「運動と勉強が出来る文武両道、それに加えてミステリアス美人の美空先輩と」
「!?」
「お淑やかで、何事も笑ってくれるお人形さんみたいな杠先輩」
「!?!?」
え、ん?言い間違いかな?いや、でも橘さんは当然な事を言ったような雰囲気だし、え、でも今の説明はちょっと......。
運動音痴で不器用で、おっとりとした可愛らしさの美空先輩に、お人形さんみたいな可愛さはわかるけど、すぐ感情を露わにする杠先輩...だよね?
「まぁうちの男子も、なんなら女子もそれ目当てが多いわ。今のうちに席取りに行きましょ?」
そう言われ、つかつかと歩く橘さんの後ろについて行くことしか出来ない。混乱したような感覚だ。
モヌハンで混乱したキャラクターに早く立ち直ってくれよとか思ったりもしたけど、こんな気分だったのかな。そりゃすぐに行動出来ないや。
僕は人の波をかき分け、何とか橘さんと席に着くことが出来た。それでも後ろの方で、どうやら教室に入れない人達は、前の席に座ることで揉めていたらしい。
確かに言われるとクラスの男女の姿を数名見つけた。それでも膨大な生徒の数で、すぐに見失うけど。
僕は教室の中を目を凝らしながら、探すと件の彼女達を見つけた。美空先輩と杠先輩だ。
美空先輩は席に座りながら、何やら数名の男女と話をしている様に見える。杠先輩も同様だ。
その姿に見惚れる男子達。確かに美空先輩は、誰もが見惚れるような顔なんだけど......美空先輩はその長い美しい黒髪で顔を隠すようにしている。それに話しているというよりかは、ずっと話しかけられているみたいだ。
先輩はプルプル震えながら、苦笑いをしているように見える。
会話は聞こえないが、何やら先程から僕のスマホがプルプルと震えていた。恐る恐る中を見ると美空先輩から長文のような殴り書きが来ていた。
『なんなんですか、なんなんですか、怖いんですけどすごく怖いんですけど、いや合コンとか絶対に嫌ですしアニメ見たいしゲームしたいですし、いやいや初めてあったのになんでそんなグイグイ来るんですかね。
ああ本当に怖いです怖いです、リアルはこわいですぅぅぅぅぅうううううううううううううううぅdjねmlしふrねmdlそいdkfねmそしfじぇm』
え、まさか先輩話しながらどうにかしてこれ殴り書きしてるんですか?僕の既読に気がついていない様子でさらにメッセージは続く。
なんか見てはいけないものを見てしまった気がして、目を逸らした先に杠先輩がいた。
僕と目が合うと、ふいと顔を逸らし、笑顔のまま話していた人と別れて席に座り、何やらスマホを取り出して打ち込み始めた。
なにか嫌な予感がした瞬間、僕のLimeにメッセージが届く。
『今から吐き出すけど気にしないで、あんたの事じゃないから』
一呼吸置いて、怒りのメッセージが届く。
『あああああああああああぁぁぁああああああああああああぁぁぁ腹立つ!!!!!!!!!何がお人形みたいに小さいよ!意味わからないわよ!こっちが適当に愛想笑いしてりゃ調子乗りやがって、全然面白くもくそもないのよ!ふざけんじゃないわよ!
というか普通にほぼ初対面なあんた達とデートなんて行くわけないでしょうが!
ネトゲする時間減らすんじゃないわよクソが!というかクラス違うんだからさっさと帰りなさいよねほんとの!!!あああああああああああぁぁぁムカつくぅぅぅぅ!!!!!!!!!』
その後も二人からのメッセージは授業の開始ベルがなるまでそのメッセージが止まることは無かった。
「日向くん、なんか青ざめてるけど大丈夫?」
「い、いやぁ...は...はは......」
僕は心配してくれる橘さんに苦笑いを返すことしか出来なかった。
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