第18話 視察授業ってなんですか? 2
「ああ疲れましたあああ〜日向くん〜〜!!!」
そう言いながら僕の肩にグリグリと頭を擦り続ける美空先輩。もちろんこんな姿を先程の教室でしたなら、『花影日向討伐クエスト』が樹立されてしまう。
これはもちろん、部室での出来事だ。
すごい嬉しい状況では、いやとてつもなく幸福な時間ではあるんだけれど、あの大変な状況を見せつけられると、なんだか素直に喜べない。
「ああ〜なんか安心します〜ああ〜」
あの後、僕は桜雅くんとスポーツの授業を受けに違うクラスに行ったんだけど、おそらく5限が終わるまでずっとあの調子だったに違いない。
部室の前で待っていた僕に、美空先輩がすぐさま抱きついたのがその証拠だ。決して僕のことが好きだからとか、そういうことではないと、僕は僕に言い聞かせている。
ただでさえ、先輩の髪の毛が、感触が、暖かみが、香りが制服を通して伝わるんだ。理性の糸を太めないとやっていけない。具体的には荒縄ぐらいにしとかないと。
「去年もそうでしたけど、この時期は他のクラスの人も混ざって入ってくるんです。それでやれ合コンとか、やれ気になってたから話に来たとかばっかで......」
それは大変だ。というか危機だ。なぜ二年生限定の視察授業に、一年生の違うクラスの男女が先輩目当てで来るんだろうとか、疑問に思うけど。
知らない人に言い寄られるのは、怖いと思う。僕も少なからず誘拐とか、そうゆう類で何度も話しかけられたこともあるし。
少しだけ瞳が潤った美空先輩が僕の方を見つめながら、恥ずかしそうに呟く。
「あ、あの...」
「はい、どうしました、美空先輩?」
「今日、華蓮ちゃん......その......生徒会に行ってこないそうなので......その......」
何やら濁すような言葉に僕がはてなマークをあげていると、美空先輩は意を決めたように、言葉を吐いた。
「ご...ご褒美...くれま...せんか......?」
「ええええ!?」
あまりの突然の発言に僕は驚きのあまり、体を離してしまった。ごごごごごほうび!?ご褒美ってなんだ......!?哲学かッ!
「す、すみません!すみません!気持ち悪いですよね!すみません、ただ心が弱っていただけの戯言です!忘れてください...忘れてくださいぃ......!」
とんでもないことを言ってしまったような顔で、耳まで真っ赤にしながら顔の前で手を揺らす。いやまぁ、確かにとんでもないことを言ったんだけど、でも、受け止めるって言ったし僕も何か先輩の力になりたいと思ってるから......。
今にも泣き出してしまいそうな顔をしている先輩に、僕はボソリボソリと言葉を返す。
「そ、その......僕にできることなら......」
「ふぇ?」
「先輩辛そうでしたし、何も出来ない自分が嫌なので......」
あの時、本当なら僕は先輩達を教室から出すべきだったんだ。先輩達が今までどうとか関係なくて、ただ苦しそうに笑うあんな先輩をもう見たくない......。
僕の真剣な顔に、少し顔を俯かせながら、先輩は申し訳なさそうに呟いた。
「えっと......なら...頭を撫でてくれませんか......?」
「!」
「えっと......それで少しは回復するかと......」
確かに恥ずかしいし、心臓の音が耳に響く程うるさくなっているけど、でも。
僕は少しだけ触れるのを躊躇ってから、指先で先輩の髪の毛に触れて、頭を撫でた。
優しい感覚と、指を抜けるような細く長い黒い髪の毛。シルクでも絹でもないような心地の良い触り心地、いつまでも触っていたいなんて思ってしまう程の破壊力。
「先輩、お疲れ様でした......。」
とうの昔ににちぎれた約立たずの理性の糸をどうにか繋ぎ合わせた渾身の言葉。震えていることは大目に見て欲しい。
僕もいっぱいいっぱいです。
「えへへ......へへへ...はい......」
そうしてしばらくの間撫でていたら、先輩が僕の掌を軽く包んで、頬へと移動させた。柔らかですべすべな肌の感覚と、人の体温を感じる。
「せ、先輩?」
「えへへ、日向くん......」
いつの間にか夕日が窓から差し込んできていた。先輩の惚けたような蕩けるような顔と、先輩の体温を感じて僕は頭が真っ白になる。
「日向くん、お日様......みたいな匂い......ですね......」
「い、いや、って先輩!」
僕の呼び声に反応を返してくれない。この心臓に悪い状況はいつまで続くのだろうかと思っていたら、先輩が僕に笑顔を向けながら言った。
「また...私が疲れたら......こうして...くれますか......?」
惚けた様な顔の先輩に、僕はうなづく事しか出来なかった。今日は寝れない、そう確信した。
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「あとがき」
ただのイチャイチャ回です。たまんねぇ
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