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 彼は、ハンバーガーを食べ終わってすぐに、出ていった。


 きっと、無理して昨日から滞在していたんだろう。何も言わずに、すぐ、いなくなった。着崩れたスーツのまま。


 そして、もう、戻ってこない。


 私だけが、ひとり。街に残される。


 私しかいない部屋。


 鏡。


 まだ少し紅い、私の顔。


 くちびる。


「なんで」


 会ってしまったんだろう。


 彼に会ってしまった。その手を、握ってしまった。

 人を殴るための手で。街を守っていた手で。


 私には。許されない。


「ゆるされない」


 呟く。


 そう。私も彼と同じ。


 誰かを守っていたい、人間。街を守って、人を守って、そのためなら誰かを傷つけることができる。そういう人間。だから、誰も、私の手は握ろうとしない。


 華奢な身体で。長い髪で。女の顔で。


 そう。


 私は、女。だから、彼を。


 彼がほしい。彼と一緒にいたい。名前も分からない彼を。もっと知りたい。手を繋ぎたい。


 彼の隣にいたい。


 願いと諦めが混ざったまま、部屋にひとり。


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