05.

 目覚めたとき、彼はいなかった。


 公園で、立合いながら喋って。踊って。それから。部屋に。


 裸で、鏡の前に立つ。


 私は。


 どうしたいんだろう。


 彼は。


 どうしたかったんだろう。


「あっ、ごめんなさい」


 彼が扉を開けて入ってきて、そのまま閉じる。


「あっ」


 はだかを見られた。


 急いで、着るものを探して、なんとか、昨日着てたものを見つけて着た。


「どうぞ」


「すいませんでした」


 彼が、顔を朱くしながら入ってくる。


 わたしも、目をそらした。鏡に映った自分。顔が紅い。


「冷蔵庫に何もなくて。せめて朝食をと思って」


 彼が、キッチンに立つ物音。


 あの後。


 部屋に来て。


 ふたりで。


 何も言わず、手だけを繋いでいた。


 お互いに、何も知らない。それでも、お互いのことを、なんとなく分かっていて。そして。繋がっていたくて。


 ずっと手だけを繋いで。


 そして、そのまま眠りに落ちた。


 両手。


 もう、彼の手の感覚は、ない。


「できました。どうぞ」


 ハンバーガー。


「これを?」


「ハンバーガーぐらい作れますよ」


「いや」


 普通ハンバーガー作れといわれても、作れないと思う。


 空腹を、感じた。


 食べる。


「おいしい」


 心から、言葉が出てしまった。


「よかった」


 彼が、隣に座る。彼の、ハンバーガー。


「これを食べたら、行きますね」


 彼の右手。


 とっさに、握っていた。


 離したくない。


「あっ」


 すぐに気付いて、手を離した。


 私は。


 なにをしているのだろう。


「いいえ。どうぞ」


 彼の右手が伸びてきて。私の左手を。優しく握る。


「あれ」


 左手でハンバーガーを掴んだ彼が、食べにくそうにしている。


「思ったよりも難しいな」


 そう言ってわらった彼の口に。


 キスをした。

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